鎮静薬の使い方と鎮静アセスメント(大野博司)
連載
2010.05.10
クリティカルケア入門セミナー
大野博司
(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科)
[第 2 回]
■ 鎮静薬の使い方と鎮静アセスメント
(2874号よりつづく)
ICU/CCUでの鎮静・鎮痛は非常に重要で,鎮静・鎮痛を十分にコントロールできるかで医師の力量が問われます。第2回ではまず鎮静について取り上げます。
CASECase1 S状結腸穿孔による腹膜炎で緊急手術となった76歳男性。術後挿管され人工呼吸器管理。鎮静でミダゾラム,鎮痛ではフェンタニルを持続静注。3病日昼に抜管予定とし,当日未明からプロポフォール原液持続静注に変更。当日朝にプロポフォールを中止し,アミノフィリン点滴・フルマゼニル静注を行い,午前11時に無事抜管。 Case2 急性心筋梗塞にて緊急入院となった81歳男性。1病日に緊急PCIを行い,ICU入室。2病日未明に帰宅後,朝なので散歩するといって立ち上がろうとする。バイタル血圧 140/70mmHg,体温 37.2℃,心拍数 110/分,呼吸数 20/分。自分の名前は言えるが,「ここは息子の家だから自宅に戻りたい」という。不安で眠れないわけでもない。ハロペリドール静注し徐々に穏やかな状態となった。 Case3 重症肺炎による敗血症性ショック,急性呼吸促迫症候群(ARDS)合併で気管内挿管,人工呼吸器管理となった75歳男性。プロポフォールを使用していたが何度となくファイティングが発生。酸素化は悪くないがそわそわしており,適宜プロポフォールフラッシュしては血圧不安定の状態を繰り返した。主治医・ナースによる声かけで安心感を与えるとともに,デクスメデトミジンに鎮静を変更し,鎮痛としてブプレノルフィン適宜静注を使用したところ,ファイティングをしなくなった。 |
クリティカルケアでの鎮静と鎮痛
鎮静薬と鎮痛薬は似て非なるものです。まずはその確認をしましょう。
大原則その1 鎮静薬には鎮痛効果がない! 大原則その2 鎮痛薬には鎮静効果があるが健忘効果はない! |
クリティカルケアでは,十分な鎮痛が行われているかどうかを確認した上で,健忘効果のある鎮静薬を使用すると効果的です。
鎮静は患者に何をもたらすか?
健忘を伴う鎮静により,患者にとっても負担の少ないICUでの治療が可能となります。これは,疾患自体の痛み・苦しみはもちろんのこと,毎日の採血や手技(気管内挿管,胸腔穿刺,IABPなど)といった診断・治療でも,常に侵襲にさらされていることを考慮してのことです。
適切な鎮静により,
*不安とせん妄の治療で血行動態が安定
*治療期間・コスト面でのメリット
*健忘による人道的な対応
*外傷後ストレス障害の頻度低下
などのメリットが考えられます。
その一方で,過剰な鎮静による合併症には,
*人工呼吸器の長期化,ICU滞在期間延長
*血圧低下や徐脈などの循環抑制
*意識レベル,中枢神経障害の評価困難
*安静臥床長期化による廃用障害
があります。そのため,評価をしっかり行った上で適切に鎮静薬を使用する必要があります。
ICUでの鎮静評価・せん妄評価
鎮静評価にはラムゼイスケール,鎮静・鎮痛スケール(SAS),リッチモンド興奮・鎮静スケール(RASS)などがあります。ここではRASSスコアを紹介します(表1)。
表1 RASSスコア | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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1.患者を観察する(0-+4の判定) ・30秒間,患者を観察,視診のみで0から+4のスコアを判定 2.呼びかけ刺激を与える(-1--3の判定) ・大声で名前を呼ぶか,開眼を指示する ・話し相手を見るように指示し,10秒以上アイコンタクトできなければ繰り返す ・呼びかけ刺激に対する反応のみで-1から-3のスコアを判定 3.身体刺激を与える(-4,-5の判定) ・呼びかけ反応が見られなければ,肩を揺するか胸骨を摩擦 ・身体刺激に対する反応から,スコア-4,-5を判定 |
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※RASSが-4または-5の場合,評価を中止し後で再評価する ※RASS≧-3の場合,せん妄評価(CAM-ICU)を行う |
せん妄の評価には,感度・特異度ともに優れるCAM-ICUがあります。CAM-ICUによるせん妄評価は2段階。まずステップ1としてRASSスコアで意識状態を評価し,ステップ2としてせん妄を評価します。評価は,(1)精神状態変化の急性発症または変動する精神状態,(2)注意力の欠如,(3)意識レベルの変化,(4)思考が無秩序の状態,について行いせん妄を診断します。
ICUでせん妄・興奮状態となった患者へのアプローチを以下に示しました。ポイントは,鎮痛の評価,適切な鎮痛薬の使用後に鎮静薬を使うという順番を守ることにあります。
せん妄・興奮状態へのアプローチ ステップ1 緊急事態の評価,原疾患の増悪・治療不十分の評価 ※ベンゾジアゼピンを単独でせん妄に使用すると効果が乏しく,混乱を助長する可能性がある |
ICUでよく使われる鎮静薬
ここではICUでよく使われる鎮静薬を取り上げます(表2)。
表2 鎮静薬の特徴 | ||||||||||||||||||||
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1.ベンゾジアゼピン(ミダゾラムなど)
大脳皮質・脳幹GABA受容体に働き鎮静効果を発揮します。鎮痛作用はないこと,作用発現が早く持続時間も短いが数時間以上の投与で中止後も鎮静効果が遷延することに注意が必要です。副作用には,低血圧,呼吸抑制,過鎮静,ベンゾジアゼピン離脱症候群(不安,不穏,発熱,頻脈,幻覚,痙攣など)があり,また薬物相互作用にも注意が必要です。拮抗薬としてフルマゼニルがあります。
ベンゾジアゼピンの重要な薬物相互作用 ※テオフィリン投与でベンゾジアゼピンの鎮静からの覚醒を促進 |
2.プロポフォール
大脳皮質・脳幹GABA受容体に働きますが,鎮痛作用はありません。長時間投与しても中止後短時間(10-15分)で覚醒することもポイントです。副作用には,低血圧,高脂血症,汚染による敗血症,横紋筋融解症があり,まれにプロポフォール注入症候群(心不全,徐脈,乳酸アシドーシス,高脂血症)があるため,長期使用では血液検査でCPK,コレステロール,中性脂肪のモニタリングが必要になります。
3.デクスメデトミジン
脳幹青斑核に作用し鎮静,脊髄後角に作用し鎮痛を起こすとされます。鎮静作用は弱く,適宜ハロペリドール,プロポフォール,ミダゾラムを追加静注する必要があります。呼吸抑制・せん妄が少ないことがメリットで,最近の自発呼吸を温存した人工呼吸器管理では頻用されています。副作用には低血圧,徐脈がありますが,ローディングしなければ問題とはなりません。
4.ハロペリドール
中枢神経系ドパミン受容体を遮断することで鎮静・抗精神病効果をもたらします。静注後10-20分で鎮静効果が発現しますが,せん妄が強くない早期に投与するのがポイントです。呼吸抑制作用がなく,血圧低下も起こりにくいためICUでのせん妄の第一選択です。副作用として,悪性症候群,薬剤性パーキンソン症候群,QT延長症候群があり,ICUでは特にQT延長症候群に注意する必要があります。
Take Home Message
(1)鎮静薬の使い方について理解する |
(つづく)
参考文献
1)Jacobi J, et al. Clinical practice guidelines for the sustained use of sedatives and analgesics in the critically ill adult. Crit Care Med. 2002;30(1):119-41.
2)Riker RR, et al. Dexmedetomidine vs midazolam for sedation of critically ill patients: a randomized trial. JAMA. 2009;301(5):489-99.
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