医学界新聞

2010.04.26

第107回日本内科学会開催


 第107回日本内科学会が4月9-11日,小林祥泰会頭(島根大)のもと,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて開催された。会期中,内科系疾患の最新の知見を盛り込んださまざまな講演やシンポジウムが組まれ,特に今回初めて企画された「実践的生涯教育プログラム」は参加者の関心を集めた。

 本紙では,近年発症率,死亡率ともに高まっている心血管イベントの要因のひとつである動脈硬化と,その発症・進展・転帰に深く関与しているとされる炎症について,最新の研究結果が語られたシンポジウム「炎症と動脈硬化」(司会=佐賀大・野出孝一氏,広島大・松本昌泰氏)のもようを報告する。


小林祥泰会頭
 シンポジウムではまず,基礎医学の立場から宮崎徹氏(東大)が登壇し,炎症性マクロファージとメタボリックシンドロームについて報告した。動脈硬化は,酸化LDLを摂取した泡沫化マクロファージが蓄積することによる長期的な慢性炎症によって引き起こされる。そのマクロファージ特異的に産生・分泌されるのがアポトーシス抑制因子(AIM)である。氏は,AIMは脂肪細胞に取り込まれて脂肪酸合成酵素に結合し,脂肪油滴を融解する作用があることを明らかにした。さらに,マウスを用いた実験結果を提示。AIM欠損下では肥満するものの脂肪細胞にマクロファージ浸潤がほとんど見られず,糖代謝も悪化しないことから,AIMの抑制がメタボリックシンドロームが引き起こす致死的な疾患群の根本的な予防につながるとの見解を示した。

 続いて,臨床の立場から苅尾七臣氏(自治医大),北川一夫氏(阪大),綿田裕孝氏(順大),井上晃男氏(獨協医大)の4氏が,それぞれ高血圧,脳血管障害,糖尿病,冠動脈疾患をテーマに口演を行った。苅尾氏は,高感度CRPが冠動脈疾患の予測因子になると指摘し,モーニングサージの変動が大きい高血圧患者に心血管イベントが多いとの研究結果を示した。さらに,ハイリスク高血圧患者の降圧治療では,(1)24時間血圧特性,(2)血管特性,(3)糖・脂質代謝と血栓リスク,を考慮した心血管リスク管理が重要だとした。

 北川氏は,脳卒中予防においては従来から指摘されている高血圧や動脈硬化などに加え,血管病変に関与している炎症機転を念頭に置いたリスクファクターの管理や,ハイリスク患者を見分けるための無症候性脳血管病変の発見が有用だと述べた。さらに,近年脳動脈硬化が認知機能の低下につながると指摘されていることから,抗炎症を念頭に置いた治療は,認知症の予防にもつながるとした。

 綿田氏は,2型糖尿病においては,インスリン抵抗性がもたらす代謝異常によって動脈の炎症が引き起こされ,動脈硬化の進展につながっていると報告。しかし,血糖の低下だけでは効率的な心血管イベントの発症抑制にはつながらないとし,炎症制御にはインスリンの分泌を強める働きを持つGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の作用を強めることが重要だと述べた。

 井上氏は,冠動脈疾患の治療に用いられていた従来のステントやバルーンは血管壁を傷害して急性炎症反応を起こし,再狭窄や再イベントの引き金になっていたと指摘。それらの問題は薬剤溶出性ステントの開発などにより克服できたものの,過度の炎症抑制がかえって血管修復を阻害する可能性があると述べた。また,現在炎症マーカーとして用いられているCRPは全身性の非特異的炎症マーカーであることから,血管特異的な炎症マーカーの必要性を強調した。

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