医学界新聞

寄稿

2010.03.15

【寄稿】

t-PA療法の適切かつ迅速な実施に向けたシステム構築
脳卒中プレホスピタルスケールとt-PA療法用電子パス診療システム

伊藤泰広(トヨタ記念病院神経内科部長)


t-PA療法が進まない理由

 わが国で発症3時間以内の超急性期脳梗塞症例に対し,閉塞血管の再開通を目的とした経静脈的t-PA療法(以下,t-PA療法)が認可され,4年が経った。しかし,t-PA療法の恩恵に浴する患者は脳梗塞患者全体の2-3%といまだ少ない。

 発症後3時間以内に治療できない理由には,(1)患者・家族自身の“遅れ”,(2)救急搬送の“遅れ”,(3)到着医療機関内の診療の“遅れ”,という3つの要因が指摘されている。米国心臓病学会では,t-PA療法を効率的に実施するには「7つのD」,すなわちDetection(患者が脳卒中発症に気付く),Dispatch(救急隊の出動),Delivery(適切な医療機関への救急搬送),Door(救急外来での適切な初期治療),Data(適切な検査),Decision(適切な治療判断),Drug(薬剤投与)が良好に連鎖すべきであるとしている。したがって,発症後の限られた時間を有効に活用することが鍵で,病院前(プレホスピタル)からの救急活動が重要となる。

 わが国では,救急隊による脳卒中患者の適切な病院前トリアージと,応急処置,適切な専門医療機関への迅速・安全な搬送手法を標準化した脳卒中病院前救護(Prehospital Stroke Life Support;PSLS)が考案され,普及しつつある。そして,そのPSLSで使用するツールが「脳卒中プレホスピタルスケール」である。これは,救急隊が接触した患者が脳卒中の可能性が高い場合,脳卒中専門医療機関を選定し,到着前から詳細情報を医療機関へ伝えるもので,当院では2006年12月から豊田市救急隊と脳卒中プレホスピタルスケールTOPSPIN(1)を導入し,運用している(表1)。そのほかには米国シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS),ロサンゼルス病院前脳卒中スクリーン(LAPSS),倉敷病院前脳卒中スケール(KPSS),マリア病院前脳卒中スケール(MPSS)などがあり,評価項目は各スケールにより異なっている(表2)。

表1 TOPSPINの概要(文献1より引用)
発症間もない脳卒中が疑われたら,第一報と同時に書き点数をつける

表2 各脳卒中プレホスピタルスケールの評価項目

TOPSPINが短時間で確実な情報伝達を可能にした

 当院では,救急隊が患者接触時に,脳卒中を疑い,かつその症状が「出現後間もない」と断定・推測される場合,TOPSPINで評価して連絡・搬送を行っている。TOPSPINは,(1)意識,(2)心房細動,(3)言語障害,(4)上肢および(5)下肢の片麻痺を評価する。心房細動を評価項目に挙げているのは,心房細動は心原性脳塞栓を来しやすく,また脳塞栓はt-PA療法の適応になる可能性が高いためである。

 実際には,救急隊は現場からER医に,例えば「TOPSPINで1-2-1-2-1,合計7点です」というように,合計点と共に各項目の素点を通報する。救急隊から連絡を受けたER医は,直ちに神経内科オンコール医にTOPSPIN症例が救急搬送される旨と,その合計点と各素点とを同じく連絡する。この時点で神経内科医はERへ急行する。合計点に加え各素点を通知することで,重症度以外に搬送患者の臨床症候の概要が把握できる。また5桁の数字のため,従来交わされていた著述的な患者情報に比べ,情報を確実に短時間で伝達でき,搬送時間の節約にも役立つ。

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