MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2010.02.08
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


社団法人 日本リハビリテーション医学会 監修
日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会 脳性麻痺リハビリテーションガイドライン策定委員会 編
《評 者》野村 忠雄(富山県高志リハビリテーション病院長)
わが国の療育環境の特殊性も十分考慮されたガイドライン
評者の書棚には国内の学会が策定した「診療ガイドライン」がいくつかあります。その多くは特定の疾患に対するもので,国内外の科学論文を広範囲に収集し,治療法などに対するエビデンスレベル,推奨グレードが提示されており,医師が治療法を選択する際の参考にされています。脳性麻痺のリハビリテーション(以下,リハ)においても以前から「根拠に基づいた医療」(EBM)が提案されてきました。
しかし,脳性麻痺自体がさまざまな原因で発症した症候群で障害の種類や程度が極めて多様であること,小児特有の発達と治療効果の区別が困難であること,さらには倫理的な観点から対照群を作り比 較検討することができないことなどから,医療,教育,地域ケアなどの各種支援の効果を実証することは極めて困難な作業と考えられてきました。今回,岡川敏郎委員長を中心とした脳性麻痺リハガイドライン策定委員会が,こうした困難な作業に立ち向かい,本書を完成されましたことにまず敬意を表します。
読者はこのガイドラインを一読したとき,今までのガイドラインと趣が異なっていることに気付くと思います。本書の特徴の一つは,リサーチクエスチョンが医学的問題にとどまらず,障害告知,両親の療育への参加,教育・福祉的サービスなど脳性麻痺児・者の生活全般にわたっていることです。これは,WHOの国際生活機能分類ICFの考え方がガイドライン作成の根底にあるからと推察しました。第二の特徴は,エビデンスレベルの高い文献や海外論文からだけで推奨グレードを決定したわけではなく,わが国の療育環境の特殊性をも考慮し,実際の臨床場面に沿った指針が丁寧に解説されていることです。
本書の第1章では,ハイリスク児の早期介入の効果や予後予測の問題,脳性麻痺の定義と評価,あるいはライフステージに応じた本人・家族支援についての問題などが取り上げられています。第2章では運動障害,痙縮,嚥下障害,コミュニケーション障害,痙攣発作などに対する評価と対応について解説されています。
第3章では多職種による包括的アプローチや学校での諸問題,福祉サービスが適切に利用されているかについての問題が取り上げられています。このように脳性麻痺の療育に関係しているすべての人たちの関心のある問題が網羅されており,医療関係者のみならず,教育・福祉関係の方々にとっても必読の書といえます。
本書を読み進めているうちに,私たちの日ごろの脳性麻痺児・者へのアプローチがいかに科学的根拠の乏しいものであったかに驚かされます。いつまでも,経験だけに頼った治療・ケア・教育では患者・家族のみならず,私たちの後輩にも支持されなくなるでしょう。私たちのリハの実践をさまざまな客観的尺度で眺め,そのことが本当に患者の機能改善に結びつき,彼らの生活を豊かにしているのかを検証していくことは,これからの療育に携わる者の責務です。このガイドラインは「発展的な改訂」を前提に作られている,と岡川委員長が巻頭で述べておられますが,本書を「改訂」する作業はまさに私たち自身に託されているのです。
A4・頁176 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00803-7


宮崎 仁,尾藤 誠司,大生 定義 編
《評 者》名郷 直樹(東京北社会保険病院臨床研修センター長)
プロの医師は,失敗し,悩み,混乱する
『JIM』誌に連載されていたときから注目していた記事が,連載時より格段にバージョンアップして,1冊の本にまとめられた。タイトルは「白衣のポケットの中」,副題が「医師のプロフェッショナリズムを考える」である。そして,本書のコンセプトは,裏表紙の次のフレーズに凝縮されている。
医師の白衣には2つのポケットがついています.
ひとつは,(中略)「確実性」のポケット.
もうひとつは,(中略)「不確実性」のポケット.
(中略)
2つのポケットの中から飛び出した
医師たちの「悩ましき日常」をめぐる冒険を
どうぞお読みください.
医師である私は,本書を読んでとても勇気づけられる。プロと言われても,医師だって生身の人間だ。むしろムカつくことが多い仕事かもしれない。そういう医師の現状が,「バカンス旅行の最中に病棟から呼び出された」というような,誰もが経験したことがある,いくつかの秀逸な例で語られる。さらにその現状を受けて,プロを究めるための対応策が,「プロフェッショナリズムを究める」という形で語られる。
本書で一貫して語られるのは,技術合理モデルに基づくようなサイボーグ的なプロではない。むしろ,失敗し,悩み,混乱するが,それでもなお患者の問題に立ち向かおうとする,どこにでもいる医師像としてのプロである。失敗するプロ,悩むプロ,混乱するプロ。こう書くと,それはプロなのか,という突っ込みが入るだろう。しかし,そう思う人ほど,本書を手に取るべきではないだろうか。医師のプロフェッショナリズムは,失敗し,悩み,混乱する中にしか存在しない。
本書は医師にとってとても読み応えがある。しかし,患者にとってはどうだろうか。プロの医師というのは,こんなんだけどと,本書の内容を患者に紹介したときに,患者はどう思うだろうか。「プロの医師って,けっこう素人っぽいですね」などと患者に言われそうでちょっと怖い。そうした問題が,本書の先にある,さらに大きな問題だろう。
A5・頁264 定価2,520円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00807-5


聖路加国際病院内科レジデント 編
《評 者》徳田 安春(筑波大大学院教授/水戸協同病院総合診療科)
改訂で最新の治療についてフォロー
内科レジデントマニュアルが第7版として3年ぶりに改訂された。1984年に初版が世に出て以来,長期にわたり好評を得ている内科マニュアルである。初版時には聖路加国際病院内科レジデント医師によって執筆陣が構成されたが,今回の最新版の大幅な改訂でも多くの先生方が執筆作業に継続して参画されている。そのためか,初版以来続いている良い特徴は維持されており,白衣のポケットに収まるコンパクトサイズで読みやすく,主として内科領域のコモンな症候や病態,疾患が扱われている。改訂が行われたことによって,日進月歩の内科領域の最新治療についてフォローできる内容となった。
まず改訂版を通読してみて,新たに評価できる点がいくつかあることに気付いた。まず,多くの治療項目では治療内容における個々のレジメンについて,妥当性のレベルが明示されている。エビデンスに基づくガイドラインなどでのコンセンサスがどの程度得られているかどうかがひと目でわかるように★印の数でマークされているのである。EBMを重視したプラクティスが適切な診療と見なされる今日,治療内容の選択のガイダンスとして大いに役に立つと思われる。
研修医が日常臨床で迷う場面として,専門科スタッフへのコンサルトのタイミングや,医療安全を配慮したリスク(セーフティー)・マネジメントの具体的実践法が挙げられる。このマニュアルでは,これらの点の重要ポイントとして,「専門診療科紹介のタイミング」と「リスクマネージメントのポイント」として,各項目でわかりやすくまとめられているのが良い。また,臨床現場での使いやすさが大幅にアップしており,充実した和文・欧文索引に加え,臨床現場でよく使用される計算式や主要な薬剤の薬力学的動態,注射薬の配合例などの情報もしっかり整理されている。さらには,医学書院ホームページ上に特設サイトが設置されており,新たに追
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