MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2009.11.09
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
大木 隆生 編
《評 者》古森 公浩(名大大学院教授・血管外科学)
この一冊でTEVARのすべてが理解できる
大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術が日本でも盛んに行われるようになった。腹部大動脈瘤の市販のステントは2006年に認可され,現在3種類が使用されている。これまでに約4000例が施行されており,腹部大動脈治療の約30-40%を占めている。胸部大動脈瘤の市販のステントは2008年に認可され,現在2種類が使用可能である。これまでに約1000例が施行されている。
日本では日本血管外科学会を含む関連10学会により構成された「ステントグラフト実施基準管理委員会」により施設基準,実施医基準および指導医基準が定められ,書類審査の上認定される。2009年9月現在腹部の3種類のステント指導医の合計は延べ約300人に対し,胸部の指導医は約30人とまだ少なく,実施施設も多くないのが現状である。そのような状況にあって,胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(Thoracic Endovascular Aneurysmal Repair:TEVAR)の手技を解説した,非常にわかりやすいテキストブックが東京慈恵会医科大学グループにより,このたび発刊された。
本テキストは著者らのこれまでの豊富な経験を基に,TEVARの基本的な適応,留置手技からTEVARの実際として,応用編ならびにトラブルシューティング,さらには個々の症例を提示してそれぞれの治療手技やポイントが述べられている。今からTEVARを始めようとする初心者から,これから少し応用編に取り組もうとする医師,また,ある程度の経験を持つ医師にとっても非常に有意義な,わが国初のTEVARにおける系統的なテキストである。実際の術中写真やイラストが多数掲載されており,このテキスト一冊でTEVARのすべてが理解できるといっても過言ではなく,明日からの治療にすぐに役立つ基本から応用編まで網羅されたテキストである。
B5・頁168 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00940-9
社団法人 日本リハビリテーション医学会 監修
日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会,脳性麻痺リハビリテーションガイドライン策定委員会 編
《評 者》陣内 一保(沼津リハビリテーション病院顧問)
専門分野を掘り下げる糸口
本書は,日本リハビリテーション医学会の脳性麻痺リハビリテーションガイドライン策定委員会(委員長・岡川敏郎先生ほか委員6名)により編集された。執筆者は,協力委員を加え32名に及んでいる。いずれも脳性麻痺リハビリテーションの第一線で活躍されている医師(リハビリテーション科,整形外科,小児神経科など),理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の方々である。
ガイドラインの策定作業は,脳性麻痺リハビリテーションに関するリサーチクエスチョンのリストアップから始まり,114の候補の中から60に絞り込み,それらを3つの章に分け,各クエスチョンごとに推奨グレード,関連論文とそのエビデンスレベルを示し,解説を加えている。各章では下記のような事項を含むリサーチクエスチョンが取り上げられている。以下,( )内の数字はリサーチクエスチョンの数を表す。
第1章 脳性麻痺の早期介入と診断・予後(21):ハイリスク児への早期介入(5)では新生児個別発達的養育および評価計画(NIDCAP)の導入,カンガルーケア,呼吸理学療法,NICUからの哺乳訓練・ポジショニングなどは行ってもよいが,長期的な改善効果は不明で十分な科学的根拠はない(ポジショニングはグレードB,ほかはグレードC1または2)とされた。ハイリスク児に対する評価(3)では危険因子を認めた新生児の慎重な経過観察は勧められる(グレードB)としている。Prechtlのビデオ記録による運動発達評価はエビデンスレベルが高く強く勧められる(グレードA)が,研究の規模が小さいとのことである。検査としては,経頭蓋エコーとMRIの推奨度が極めて高い。
第2章 運動障害へのリハビリテーションと合併症への対策(35):粗大運動や上肢機能に対する神経発達学的治療(NDT)をはじめとするいわゆる機能訓練(3),上肢・下肢・体幹に対する装具療法・キャスティング(3),および手術療法(6),選択的後根切断術(1),歩行補助具・車いす・シーティング(3),フェノールブロック・ボツリヌス毒素・バクロフェン髄腔内投与(4),嚥下障害に対する評価とその対応(6),コミュニケーション障害に対する対応(2),痙攣発作への対応(1)などの項目があり,35のリサーチクエスチョン(延べ109項目)の推奨度をみるとグレードA:12項目,B:30項目,C1・2:66項目,D:1項目である。グレードAの一部を挙げると,持続的ストレッチングによる関節可動域の改善と痙性の減少,短下肢装具による歩容改善,ボツリヌス治療による動的な尖足変形の改善,口腔ケアの効果,シーティングの呼吸や上肢機能への好影響などである。
第3章 就学と福祉サービス(4):多職種からなるチームによる包括的アプローチ(1)ではチーム内のキーパーソンの重要性,教員の参加が少ないことが指摘されている。学校に関する諸問題(2)では,就学先の選択,医療的ケアに触れているが,社会福祉サービスの利用(1)も含めて地域の社会的背景や当事者の価値観の影響が大きく,論文数の少ないこともありエビデンスレベル付けに苦慮したことがうかがわれた。
本書では,「脳性麻痺」の診断を行うにあたり,厚生省脳性麻痺研究斑会議で定められた定義(1968)またはWorkshop in Bethesdaにおいて設定された定義(2004)のいずれかの定義を用いることを勧めている(グレードC1)。しかし,脳性麻痺の概念は非常に包括的で,医療・教育・福祉政策など使われる分野によってもその意味合いに差異があり,国際生活機能分類(ICF)との関係も含めて専門家の合意の上で決められるべきであるとしている。
本ガイドラインは,脳性麻痺リハビリテーション体系の概観よりも各専門分野を掘り下げる糸口としての意義が大きい。A4判という大サイズとともに存在感のある1冊である。
A4・頁176 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00803-7
《JJNブックス》
絵でみる脳と神経
しくみと障害のメカニズム 第3版
馬場 元毅 著
《評 者》寺本 明(日本医大大学院医学研究科長・脳神経外科学)
書(描)ける脳神経外科医による大ベストセラー
文武両道という言葉がある。私ども脳神経外科の分野で言うと,論文業績もあり,手術も上手な人ということになる。ところが,よくしたもので文武両道の外科医はめったにいない。つまり手術の達人は一般に講演は得意であるが,論文や原稿作成が苦手である。執筆したとしても大変な遅筆であることが多い。そのため高名な外科医に成書の分担執筆や雑誌の特集論文を頼むと企画倒れになりそうなことがまれではない。
しかし,世の中例外はあるものである。本書の著者である馬場元毅先生は,困難な脳神経外科手術のエキスパートでありながら多数の論文業績があり,原稿執筆も丁寧でかつ早い。われわれの教室では,頭蓋底手術などの解剖学的オリエンテーションが難しい症例には,指南役としていつも馬場先生に来ていただいていた。その温厚で教育熱心なお人柄から先生を慕う学生や教室員は数多い。さらに馬場先生の優れた資質は絵心があることである。「百聞は一見に如かず」というように,臨床教育では一目見ることが大切ではあるが,スライドが良いかというと実はそうではない。優れた術者の手術記載の図は,教育的なメリハリが効いているので本物のスライドよりもはるかに勉強になるものである。これは手術に関してのみならず,解剖,臨床症状,診察方法,画像の見方など多くの分野で,学習者にとってはよく工夫された図や絵のほうが教育効果が高い。
以上のご紹介の中に馬場先生に関するいくつかのキーワードが隠されている。すなわち,手術が得意な優れた臨床家,原稿執筆や絵も上手,教育熱心で親切,こういった因子が重なって本書が存在するわけである。
本書は,1991年に初版が,さらに2001年に第2版が刊行された大ベストセラーである。今回その第3版が上梓されたが,頭痛,嚥下障害,認知症などの項目を刷新し,最新の医学医療の進歩にキャッチアップしている。また,NOTEの項にはやや高度な医学知見や最新情報が盛り込まれている。これらはわかりやすい図解とともに,一見難解な神経学や神経疾患を親しみやすいものとしている。医学生や,看護師をはじめとするコメディカルの方々に一読をお勧めする次第である。
AB判・頁256 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00816-7
柳澤 信夫,柴﨑 浩 著
《評 者》玉置 哲也(和歌山ろうさい病院長)
検査と疾患の双方向からアプローチが可能
「臨床医学を支える基礎学問領域の中で,神経・筋疾患における生理学ほど臨床に直結した分野はない」と序文が書き出されています。この文節は,国内のみならず国際的にも高名なお二人,すなわち柳澤信夫先生,柴﨑浩先生が出版された『臨床神経生理学』を貫く基本的理念を端的に示しています。
お二方のご経歴を見ますと,柳澤信夫先生は,神経生理学者として,また米国の神経学の創始者としても高名なDenny Brownのもとに留学され,柴﨑浩先生は神経学のメッカとも言えるQueen’s Squareで視覚誘発電位を初めて記録したA. M. Hallidayのもとで学ばれました。その後,柳澤先生は脊髄を中心とした運動系,柴﨑先生は感覚系とそれを統合する高次脳機能をそれぞれの専門分野とされ,基礎的,臨床的研究に貢献してこられました。お二人は,わが国のみならず国際的にも高く評価されている臨床神経生理学者であり,神経内科医であります。そのお二人が,得意分野を担当され,基礎的知識に始まり最新の研究成果までをまとめられた得難いテキストが本書であります。
20世紀以降の驚くべき電子工学の発達に支えられた基礎ならびに臨床神経生理学の発達を概観した「序」に続き,「A.神経系の機能検索(総論)」の項では,神経生理学をさまざまな関連医学領域において欠くことのできない診療手段であると位置づけ,動的あるいは機能診断の手段としての臨床神経学の利点と限界,さらには将来展望が,時には端的に,かつ詳細に述べられています。特に,増幅器の機能解説をも含む基礎事項の記述などは,他に類を見ないほど充実しているといってもよいでしょう。
「B.基本的検査法の理論と実際」は19の項目で構成されていますが,現在応用されている臨床神経生理学的検査法のほとんどすべてを網羅して,まず基礎的情報を記述し,その記録方法についての,理論的,技術的根拠と実際的手技が詳細に述べられています。「I.脳波と脳磁図」に始まり,「II.臨床脳波の記録と判読」「III.筋電図」「IV.針筋電図」と続きますが,そこには従来の運動系,感覚系との区分にとらわれない,神経・筋系を一連の動的機能組織として総合的にとらえるという姿勢が示されているのではないかと考えます。
加えて随所に,コラム――例えば,「10の脳波を読むよりも1つの脳波を記録したほうが勉強になる!(p.23)」「脳波の判読は職人芸であるという言葉をしばしば耳にするが,果たしてそうであろうか(p.34)」「われわれの意志は脳のどこで決定されるか(p.287)」「オンディーヌの呪い(Ondine’s curse)症候群(p.325)」などが配置され,読み物的興味も満たしてくれています。
また,本書は多色刷りで,その効果が最も発揮されているのは「XV.高次脳機能の生理学的検査」「XVI.皮質律動波の解析」などの項で,機能的診断と各種画像的診断法の合成など,まさに先端的研究成果を,視覚的にも読者に理解しやすくしています。
最後の項「C.精神・神経・筋疾患の生理学的アプローチ」では,対象となる14の疾患群に対する臨床神経学的検査を駆使するための戦略が示され,疾患の基礎的記述と神経生理学的検査所見がその解釈とともにわかりやすく述べられています。初学者はこの項から始めて,方法論すなわち「B」項を開き当該検査法の基礎と実際を学ぶという利用の仕方もあるかもしれません。
以上詳しく述べてきたように,臨床神経生理学的方法を正常あるいは病的な人体に適用して動的な機能分析を行い,機能の解析,疾病の診断,治療を行うすべての分野の専門家に,まさに座右の書として本書をお薦めします。
B5・頁448 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00709-2
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