医学界新聞

2009.10.26

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


JJNスペシャルNo.85
安全・確実・安楽な
がん化学療法ナーシングマニュアル

飯野 京子,森 文子 編

《評 者》神田 清子(群馬大教授・臨床看護学)

治療を管理するという視点

 抗がん剤は毒性の強い薬剤であり,常に「危険と隣り合わせ」である。がん化学療法看護は,手術治療や放射線治療の看護とは違い,抗がん剤を与薬するラインの選択,治療薬の追加接続など,治療に直接かかわるという特徴がある。そして何よりも「安全・確実・安楽」な看護実践が求められる。

 抗がん剤の開発・進歩は言うまでもなく,がん化学療法を受ける患者は年々増加している。チーム医療の中で,患者のQOLを高めるために,看護師の果たす役割や責任は大きくなっている。この状況を受け,昨今「がん化学療法の有害事象の管理・教育」について記した著書が多数出版されている。しかし,これらだけでは危険は回避できない。

 本書は,これまでの著書とはひと味違う。がん化学療法看護の実践者らが「治療を管理するという視点」を重要な核として,記しているからである。「安全・確実・安楽な看護を提供することができ,化学療法看護に自信を持つことができる」ように読者を導いてくれる。

 I-IX章から構成され,いつ,どのタイミングで,どのような看護を行えばよいのか,投与前,投与中,投与後の時系列別のナーシング,拡大する外来化学療法と経口薬のナーシング,主要なレジメンとその看護のミニマムエッセンスがまとめてある。

 すべての章には,(1)劇薬・毒薬である抗がん剤の「安全」な取り扱い,(2)薬の効果を最大限に,患者への負担を最小限にする「確実」な投与管理,(3)そして不可避である有害事象を緩和する。患者が長期にわたる治療において「安楽」に過ごすための支援とは何か――が理念として貫かれている。

 計画通り確実に患者に薬を投与することは,レジメンの意味を知ることから始まる。本書ではレジメン指示の例を引用しながら,読み方の一つひとつ,すなわち薬の名称,投与量,投与日,治療全体の期間,そしてなんと「/m2」は「パースクエアメートル」と読むということまで記してある。日常,実践の中で何気なく使用している化学療法に関連する用語についても根拠を示しながら詳細に解説している。そのため,化学療法の看護に携わる初心者はもちろんのこと,ベテラン看護師にも役立つ情報が満載で,まさに痒いところに手が届く著書である。

 日本では抗がん剤の曝露防止に関する明確な基準がなく,各施設にその対策が委ねられている。施設ごとにガイドラインの設置が望まれているが,まだ整備段階にある施設も多く,個人レベルでの防止対策が必要である。本書のII章「注射用抗がん剤の混合調剤」では,曝露対策について扱っている。これだけではなく,時系列の看護では,どのように注意し,予防すればよいのかを示してくれている。非常にわかりやすく,手順書としても役立つので,ぜひ活用されることを願っている。

 そして,看護師が自身の安全を守りながら,「安全・確実・安楽な がん化学療法看護を実践」でき,その結果として編者が述べているように,効果的な治療が完遂され,患者の生命の延長とQOL向上へ看護が寄与できることを切望する。

AB判・頁324 定価2,940円(税5%込)医学書院


続 アメリカ医療の光と影
バースコントロール・終末期医療の倫理と患者の権利

李 啓充 著

《評 者》中尾 久子(九大大学院教授・臨床看護学)

アメリカ医療が映し出す日本医療の光と影

 アメリカは貧富の格差が大きく貧者は十分な医療は受けられないと聞いても,日本人のアメリカ医療に対するあこがれは強い。李氏は,京都大学医学部を卒業後,ハーバード大学医学部助教授を経て,現在はボストンで文筆業をしており,これまでも鋭い切り口でアメリカ医療の背景を解説し,日本の医療界に示唆に富むメッセージを発信し続けてきた。

 本著は5部で構成されている。第1部は「医療倫理――延命治療の中止から小児の癌治療まで」,第2部「ピル――医療と性と政治」,第3部「転換期を迎えたアメリカの医療保険制度」,第4部「医事片々(医療よもやま話)」,第5部「『患者の権利』はどこまできたか」である。第1部から第3部までは人種,宗教,価値観が多様で医療保険制度や問題解決方法が異なるアメリカの医療のあり方に関する光と影が明快に述べられている。

 私が強く関心を引かれた箇所を2つだけ紹介したい。まず,「患者の自律性」(第1部)である。インフォームド・コンセントと患者の自律性の尊重が医療の本質なら,患者が望む医療を実行しないことはむしろ問題だという点である。もう1つは「皆保険実現のために静かに共闘する二人」(第3部)で,現在進行中のアメリカの動きである。

 「患者の自律性」は延命治療中止の例で語られる。回復の見込みのない患者の延命治療に関して,アメリカでは中止を含めて患者の自律性を重視した医療がなされるが,日本では延命治療の継続――例えば人工呼吸器の取り外しができない状況が続いている。李氏の「もし,日本で『一度つけた人工呼吸器は絶対に外さない』と決めている学会や病院があったとしたら,その学会や病院は『私達は患者の自己決定権は一切認めません』と宣言しているのと変わらないのだ」という主張からは,日本の終末期医療の主体が誰であるのかを強く問われていると痛感する。

 「皆保険実現のための静かな共闘」は,クリントン政権が失敗した皆保険制度を実現させる試みがアメリカで静かに進んでいることだ。反対の急先鋒に回った保険会社が皆保険を進める立場となり,日本が進もうとしている混合診療と逆の動きがアメリカで進んでいることに疑問を感じ,動きをもっと知りたいと思うのは私だけだろうか。

 私は医療現場,保健行政,教育機関にかかわる多くの看護者にこの本を読むことをお勧めしたい。なぜなら,アメリカ医療の光と影を知ることで,日常的には気づかない日本医療の光と影の部分がコントラストとして理解できるからである。

四六判・頁280 定価2,310円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00768-9

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