MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2009.09.28
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


安達 洋祐 編
《評 者》武藤 徹一郎((財)癌研有明病院名誉院長 メディカルディレクター・消化器外科学)
若い外科医,指導医の外科的教養の書
本書は『臨床外科』誌に連載され好評だった「外科の常識・非常識:人に聞けない素朴な疑問」に,番外編として12の設問を加えて一冊にまとめたものである。精選された設問と適切な解答のおかげで,小冊子ながら大変内容の濃い興味深い本に仕上がっている。内容に引かれて,しっかりと始めから終わりまで読まされるほど面白かった。
本書の第一の特色は執筆者が2名の例外(昭和38年卒1名と病理医1名)を除いて平成14年から昭和44年の間の卒業で,いずれも若く第一線で活躍している現役の外科医だということである。彼らが各設問に関する文献をよく調べて解答してくれているので,期せずして文献的知識を豊富にすることができる。
第二の特色は何といっても設問の選び方であろう。12のChapterに3-5題ずつ設けられた問いは合計50。その内容は,くすり,ドレーン,CT検査,虫垂切除,胆嚢摘出,胃腸吻合,がん手術,術前管理,術後管理,開胸・開腹,憩室・肛門,傷・爪・鼠径の12章から成る。設問のいくつかを紹介すると,「胃腸手術後のドレーンは必要か」「虫垂切除で断端埋没は必要か」「手術後のガーゼ交換は必要か」等々,筆者の世代では常識であった処置に対する疑問ばかりであるが,それらに対して親切に文献的考察に基づいた解答が提示されている。“昔の常識は今の非常識”といわれるように,王道であった処置のほとんどが,今ではほとんど必要でなくなった。血管だって結紮せずに切離できる時代である。本書で選ばれたかつての常識50のほとんどが,現在の非常識となりつつあることがよくわかる。
本書では文献的考察が詳しく行われているので,常識から非常識への変遷の歴史を知ることができる。読者は結果のみでなく,その経過をよくたどってみる必要があるだろう。器機吻合,腹腔鏡手術などの新技術の導入が新しいエビデンスを生み常識を変えた。RCTによる証明は,残念ながらほとんど欧米製である。将来,現在の常識が再び常識ではなくなる可能性がある。執筆者の1人が述べているように,まず先輩の医療行為(今の常識)を必死で“まね”ることが大切であり,一通りの型ができあがった後は,一生にわたってクリティカルに“問い”を発し続けることが必要である。これをhealthy skepticismと呼ぶ人もいるが,healthyであることが大切である。この姿勢が科学の進歩を生み新しい常識をつくることになろう。本書はそんなことまで考えさせられる本である。
第三の特色は12の番外編で,「ピロリ菌は悪者か」「医師の教育はこれでよいのか」「外科医は常識が欠落しているか」等々のさまざま...
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