医学界新聞

インタビュー

2009.09.14

【interview】

平敷淳子氏(埼玉医科大学名誉教授・国際女医会会長)に聞く
プロフェッショナルの自覚を持ち,いつも前を向いて生きる


 本年の国家試験合格者数でも34.2%を占め,年々増えつつある女性医師だが,医師としてのキャリアを順調に築くには,まだ幾多のハードルが行く手を阻んでいる。出産や育児といったライフイベントから,周囲の理解が得られない,職場環境に恵まれないなどの社会的事情まで,次々と押し寄せる波にのまれず流されず,医師として成長していくにはどんな心構えが必要だろうか。

 平敷淳子氏は,子育てをしながら二度の留学を経て放射線科のスペシャリストとなった。またアカデミックキャリアにおいても主任教授の職を全うし,現在は国際女医会の会長を務めている。女性医師のみならず,医師のロールモデルともいえる平敷氏に,今日に至るまでの道のりとその歩み方についてお話を伺った。また,国際女医会会長の職務や,世界目線で見た女性医師の現状も語っていただいた。


まずはリーダーシップありき

――国際女医会とは,どのような組織なのでしょうか。

平敷 国際女医会(Medical Women International Association:MWIA)は,1919年にニューヨークにおいて,女性医師の互助と親睦のために3人の女性によって設立されました。ちょうど今年が創立90周年にあたりますが,現在,76か国に約10万人の会員がいるNGO団体です。自国の女医会を通して国際女医会に加入しますが,女医会のない国では個人会員で加入します。

ガーナでの国際女医会会長就任演説後に,前会長,次期会長,事務局長らと。
 3年に一度,国際女医会議と称する総会があります。最近では2004年に東京,2007年にガーナの首都アクラで開催しました。次回,2010年はドイツのミュンスターで予定しています。

 それから,会長も会議ごとに代わります。私は2007年の会議で会長に選出されました。会長の任期そのものは3年なのですが,就任前の3年間と退任後の1年間も任務があるので,実質的な活動は計7年とかなり長期間に及びます。会長職はまったくのボランティアワークなので,大変な仕事ではあります。

――活動内容はどのように決まるのですか。

平敷 基本的に,会長次第です。過去の会長の方々は産婦人科医が多かったこともあり,皆さんおしなべてGender based medicine(性差医学),思春期の性などに重きを置いていましたが,私はもう少し大きな視点で考えたくて,プロフェッショナリズムとリーダーシップをテーマに活動しています。

――会長によって活動の方向性が決まるとなると,それこそリーダーシップが大切になってきますね。

平敷 カリスマ性がないと,誰もついてこないんです。だから,ハッタリが上手になっているかもしれない(笑)。でも,糖尿病,Violence against women and childrenやエイズ撲滅の活動など,会長が誰かにかかわらず,ずっと続けているものもあります。最近では,エイズ対策のための性教育マニュアルを作成しました。私としては,そのような研究に力を注いでいる方々や,もっと自由に,広く活動したいと考えている方々をencourageできればと思い,自分の歩いてきた道のりをお話しするために世界中を駆け回っています。

――女性医師がキャリアアップを考える上で,ロールモデルとなる方が少ないという問題があります。先生のご経験を示されることで,女性が勇気づけられる部分も大きいと思います。

平敷 ええ。心の中ではプロフェッショナルでありたい,キャリアアップしたいと思っている方もたくさんいます。それをどうしたら形にしていけるか,ヒントを差し上げられればと思っています。

世界の女性医師の意識統一を

――いろいろな国の女性医師と交流の機会があると思うのですが,女性医師を取り巻く環境は国ごとにやはりかなり違うのでしょうか。

平敷 そうですね。例えばドイツの場合,グラフで縦軸に%を取って,横軸に学生から主任教授までのキャリアパスをならべて男女の人数比率を比べてみると,医学生のときはむしろ女性のほうが数が多いです。しかし,役職が上がるにつれて大幅に減少するカーブを描き,逆に男性に追い越されていきます。このあたりは日本と似た状況ですね。

 一方,東南アジアや台湾,あるいはヨルダンなどの女性医師は特権階級にあり,たくさんのお手伝いさんを雇って何の心配もなく働き続けられています。「日本の女性医師は,子どもを世話しなければならないから辞めてしまう」というと,「信じられない」という反応が返ってきます。韓国も多少,そのような傾向があるように思います。

 エジプトもいまお話ししたような国の一つですが,面白いのは,クレオパトラの時代の名残なのか(笑),優秀な女性に対して男性がかしずくようにサポートしていること。病院見学に行くと,男性がダーッと列を作って出迎えてくれて,女性院長がスイスイと歩く後ろを,私たちもついていくんです。

 そういった特殊な国もありますが,日本が参考にできるのはオーストラリアだと思います。一つには,女性同士がサポートしあう風土があること。それから国の政策として,働く女性を増やすための具体的な数値目標を持っています。ですから,サポートシステムも付け焼き刃ではないです。

――そこまで国によって状況が違うと,同じ女性で,医師であっても,すべての問題を共有するのは難しそうですね。

平敷 そうです。ですから日本の医療のバックグラウンドから話していかないと,日本の女性医師が抱える問題は容易には理解してもらえないですね。

 私はこの8月で会長としての最終年を迎えましたが,退任するまでの課題と考えているのがデータベースの整理です。女性医師の意識調査と,各国の女性医師に関する数値データを収集したいと思っています。国ごとの教育制度や,女医の割合など,まだ明らかになっていないことがたくさんありますから。データベースを整えることで,かなり意識の統一が図れる...

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