医学界新聞

寄稿

2009.09.07

【特集】

臨床感染症を学びたい!!
――IDATEN感染症サマーセミナー2009


 「診断が難しい」「抗菌薬や細菌など覚えることが多く大変」といった声も聞かれる感染症。研修医の皆さんも,診断や抗菌薬の使い方に迷った経験があるのではないでしょうか。しかし,患者さんの全身の臓器が対象となり,適切な思考プロセスが治療に結びつく感染症を理解することは,日々の臨床力アップに大きくつながります。

 そこで本紙では,感染症マネジメントの身に付け方に着目し,日本の臨床感染症をリードする医師をインストラクターに迎え開催された「IDATEN感染症サマーセミナー2009」のもようをお届けします。いまや臨床の現場で必須のスキルとなった感染症患者のマネジメント。皆さんも臨床感染症診療の醍醐味を学んでみませんか。

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 日本感染症教育研究会(Infectious Diseases Association for Teachings and Education in Nippon:IDATEN)は,日本の感染症診療と教育を普及・確立・発展させるために活動している団体だ。そのIDATENが主催する感染症セミナーが,7月31日-8月2日,磐梯熱海温泉のホテル華の湯(福島県郡山市)で行われた。今回,29回目を迎える本セミナーが東北地方で開催されるのは初めてとのことだが,全国から80名を超える医学生・研修医・医師が集まった。

 今回のテーマは「市中感染症の外来マネジメント」。市中感染症のなかでも特に外来感染症にスポットを当て,マネジメントとそのピットフォールを中心とした臨床的アプローチについて,症例をもとに系統的にレクチャーが行われた。

症例からアプローチする

参加者に質問をする岩田健太郎氏
 まず岩田健太郎氏(神戸大)が,「外来患者の発熱へのアプローチ」と題しイントロダクション。外来にやってきた発熱患者を例に,どのようなアプローチを取ればいいか,またどのような鑑別疾患が考えられるかなどを,参加者に質問しながらその場でマインドマップを作成し,アプローチの流れを提示した。まさに臨床感染症の“思考のプロセス”を理解できる講演だ。

 引き続き症例を考える準備として,細川直登氏(亀田総合病院)が「微生物を探す検査」「診断を付ける検査」といった外来で必要な検査を,また,大野博司氏(洛和会音羽病院)が,外来感染症治療での経口抗菌薬の使い方として,治療に必要な10種類の抗菌薬について解説した。実践的な抗菌薬の使い方には参加者からの質問が集中し,日ごろの疑問点の解決にもつながったようだ。その後,症状ごとに分類した外来感染症の各ケースのレクチャーが行われ,講師陣により実践的な臨床感染症の考え方が展開された。

 セミナーは,参加者が円卓に分かれテーブルごとにディスカッションを行いながらレクチャーを聞く形式だ。それぞれの円卓に医学生,研修医,上級医がバランスよく着席し,お互いの疑問点をその場で解決できるよう工夫されている。そのほか,講師と参加者の距離が近いのも本セミナーの特徴だ。各セッション間の休憩時間では,参加者が講師(講師の座席が会場後方にある)のもとに集まり,積極的にディスカッションを行っていた。また,夜の懇親会を通じ講師との距離もさらにぐっと縮まったようだ。

体験!! グラム染色

 2日目の午後には,セミナー参加者から希望者を募り,会場近くの太田熱海病院(郡山市)でグラム染色を体験するレクチャーコースが開かれた。スタッフの研修医によるグラム染色についての簡単な講義の後,いよいよ体験開始。参加者1名に対しインストラクター役のスタッフが2名つくかたちだ。参加者は,あらかじめ用意された5枚のスライドガラスをスタッフの指導のもと染色し,顕微鏡で観察を行った。観察では,各自用意された答案用紙に推定される細菌を書き込み,答え合わせを行い体験終了。観察を終えた医学生からは「染色が悪いのか,本当に菌がいないのかの見極めが難しい。アトラスだけでは駄目で,実際に行ってみて勉強になった」といった感想が聞かれ,なかなか体験できない貴重な機会になったようだ。また,普段グラム染色を行っていない医師からは,「グラム染色の文化を自分の施設にも持ち帰りたい」との声も聞かれた。

 実践的な臨床感染症のレクチャーを通じ,医学生は臨床感染症の魅力を学ぶことができ,研修医は日々の診療での疑問点を解決する絶好の機会となった3日間であった。

写真〈左〉グラム染色のようす。ちゃんと染色できるかな?
〈右〉染色後,顕微鏡で細菌の観察を行う。

参加者の声――3日間のセミナーを終えて

八木一馬さん(静岡赤十字病院2年目研修医)


 感染症を診るには,きちんと病歴を聴取して患者さんの背景を把握し,身体診察から感染臓器を推定し,原因微生物を見つけ出す。そして適切な抗菌薬を選択して,臓器特異的なパラメータで治療効果を判定していく,といった作業が常に必要となる。これは簡単なことのように見えて実に難しい。実際,1年半ほど研修を行い,日常診療で悩むケースは入院の契機となった疾患より感染症であることのほうが多かった。

 今回のセミナーのテーマは,主に外来診療における感染症マネジメントであった。夜間の救急外来では発熱を主訴にくる患者さんが多い。そういった発熱で来た患者さんに対してどのようにアプローチをしていくかということを体系的に勉強することができた。また,セミナーでは,「カーブサイド・コンサルテーション」と題して,事前にセミナー参加者から寄せられていた質問事項(症例)を,その場で講師の先生方に答えていただくというコーナーがあった。講師の先生方は事前予告がなく驚かれていたが,そのような状況下で先生方が問題に対してどのように考えどのようにアプローチをしていくかということを,実際に目の前で学ぶことができたことが一番の収穫だった。「Teaching is learning」の精神を大切にし,今回のセミナーで学んだことを研修医の同期・後輩に伝えていけたらと思う。

 本当に充実した3日間だった。準備・運営にあたっていただいた福島県の先生方,レクチャーをしていただいた講師の先生方,ありがとうございました。


山上 文さん(順天堂大学医学部6年)


 私がIDATENの存在を知ったのは「学生のための感染症講座」という学内の勉強会を通してでした。昨年度のIDATENサマーセミナーに参加した学生が,そこで学んだことをフィードバックしようと企画したものだったのですが,それまで感染症という分野を系統だって理解していなかった私にとってその内容はまさに目からウロコで,こんなにすごいセミナーがあるなら是非参加してみたい! と思ったのが,今回の参加につながりました。

 いちばんお伝えしたいのは,先生方のレクチャーがうまいということです。長時間のレクチャーでも飽きさせないプレゼンテーションは,本当に素晴らしいと思いました。高度な内容であっても,小難しい言葉は避け症例を用いてわかりやすく説明してくださいましたし,些細な質問にも丁寧に答えていただけました。講師陣には感染症界を引っ張っている著名な先生方がずらりと並び,先生方のディスカッションを聞けるのはまたとない機会でした。

 夕食や飲み会などレクチャー以外の時間帯も,会場のあちこちで感染症の話題で会話に花が咲き,感染症の話を肴にお酒を飲み交わし,笑いながらも本音でディスカッションをし……と,楽しさという面からも勉強という面からも,ぎゅっと濃縮された,無駄な時間のない3日間でした。

 学生の私にとっては,これから将来の道を決める上で,先生方が歩んでこられた道や生き方を直接うかがえたことは,視野や可能性を広げるとてもよい機会になりました。このセミナーで学んだことを,昨年の先輩方のように,今度は私たちが他の学生に伝えていけたらと思います。

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