医学界新聞

対談・座談会

2009.08.03

【対談】
“スーパーレジデント”になろう!
堀之内秀仁氏
(国立がんセンター中央病院呼吸器内科)
徳田安春氏
(筑波大学附属水戸地域医療教育センター教授 水戸協同病院)


 2010年度の臨床研修マッチングも,登録締切まで1か月を切りました。現在,選考真っ只中の読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は,例年研修先として人気が高い聖路加国際病院,沖縄県立中部病院で研修医時代を過ごしたお二人が,研修の特色,共通点・相違点などから,両病院の人気研修先たるゆえんを解き明かします。さらには,周りより一歩抜きん出た“スーパーレジデント”になるための心得も伝授していただきます。初期・後期研修の病院選びの参考に,また,今後の研修生活をひときわ有意義にするために,山も谷も乗り越えてきた先輩方の声に耳を傾けてみませんか。


“屋根瓦方式”の徹底が,研修医の能力を伸ばす

堀之内 徳田先生は,沖縄県立中部病院(以下,中部)で研修・勤務されて,私は聖路加国際病院(以下,聖路加)で研修しました。さらに,徳田先生は聖路加にもいらして,研修医への指導をされておられましたね。研修に関して,二つの病院に共通するのはどんなことでしょうか。

徳田 研修医の皆さんがベースとなる医学知識が豊富で,学生時代は真面目に勉強していたことが伝わってきます。また,モチベーションが非常に高いことに加えて,病院の教育システムがしっかりしているので,やはり成長が早いですね。1→2→3年目と,成長曲線が急カーブを描きながら伸びていきます。いい教育病院の初期研修は,本当に能力を伸ばすのだなと思います。

 両院とも“屋根瓦方式”をとっていますね。屋根瓦の一枚になって,後進を教える立場に立つことがより成長を促すのでしょう。

堀之内 2年目になったと思ったら1年目の後輩ができて,彼らに教えることが当たり前になっていますね。指導医からの指導を待つだけではなく,互いに教え合ったり後輩を教育したりという経験に事欠かない。“See one, do one, teach one”が,研修医レベルまで浸透しているように思います。

 どちらの病院の研修医も,今日教わったことを,次の日には100年も前から自分は知っていたというような顔で(笑),周りの人に教えようとする,そんな積極性を持っています。

徳田 そうなんです。効果的に教えるためには本人がものすごく勉強しますし,プレッシャーも大きいでしょうが,それが成長のエンジンになっていると感じますね。研修医に対してティーチャーとしての役割も期待されていることが,急成長の原動力となっていると思います。

堀之内 ただもちろん,指導医に恵まれていることも大きいですね。指導医の先生方は,“ここぞ”というところでは必ず助けてくれます。基本的に,いい意味での“放し飼い”なんです。そして研修医を陰ながらサポートし,うまく誘導してくれる。その点も,研修医の成長を促しているように感じます。

院内での診療を標準化するマニュアルの存在

堀之内 院内マニュアルの存在も,共通していますね。

徳田 はい。聖路加には,『内科レジデントマニュアル』(医学書院)があるわけですが,中部でも,長い年月,非売品として院内に出回っていた「インターンマニュアル」というものがあります('03年に『OCH初期研修ERマニュアル』として医療文化社より出版)。それらを通して,研修医のときから医療を標準化する努力をしてきたことがわかると思います。

堀之内 中部のマニュアルは,どのようにして出来上がったのですか。

徳田 私がインターン(研修医1年目)のころには既にありましたが,イラストなどはなく,インターンがやるべき業務が全科にわたって書かれていました。特に救急センターの夜間診療において,一人でどこまで対応すればいいかということがまとめられていたので,それを見ながら患者さんを診察しつつも,迷ったら先輩レジデントにいつでも相談することができました。

 聖路加ではどんな経緯でマニュアルが生まれたのですか?

堀之内 聖路加のマニュアルは,初版以来の責任編集者の高尾信廣先生をはじめとした,当時の研修医たちの手によって生まれました。最初は本ではなく紙でしたが,いちおう絵入りでした(笑)。そのうちコンテンツが充実し,出版してかたちにしようということになりました。そうした考えが研修医側から自然発生的に出てきたのが,やはり聖路加らしい。自分たちの培ってきた教育方法をかたちにすることで,代々改訂し,標準化していく仕組みを作ったという点でも,大変評価できると思います。

徳田 どんなコンセプトでつくられているのですか。

堀之内 「研修医はどういうことに困るだろうか」という視点でつくっています。特に,今版(第7版)から私が編集を担当させていただくにあたり,その点は重視したつもりです。

徳田 どちらのマニュアルも,日常診療で多発する症候・疾患にいかに対応するか,処方内容を含めて具体的に書かれていますね。どの患者さんをどのレジデントが診ても,ほぼ標準的な医療を提供できる点が重要です。

 同様のスタンスで著されている,ワシントン大学のマニュアル,ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院のマニュアルも版を重ねています。院内での医療の標準化に役立つマニュアルがあり,そしてそれを全国,あるいは世界に向けて発信していることが,よい教育病院である要因のひとつと言えますね。

■求められる「スペクトラム」が研修を規定する

徳田 聖路加と中部では,研修の短期的目標はそれぞれどんなところにあると思われますか。

堀之内 聖路加では,通常の施設に比べ早くから病棟管理を任されます。大学でいう病棟医長的な立場で,ネクタイを締めて,病棟責任者として患者さんにも接する時期が,3-4年目にやってくるんです。聖路加の研修医は,病棟医長を任される時期を,半ばプレッシャーを感じつつ,半ば楽しみに待っています。それに向けて,一定の成長を遂げることが研修医教育の第一の目標になっています。

徳田 その目標が院内マニュアルにも反映されていると思います。病棟管理という内科の最も重要な患者ケアの役割を,3-4年目を中心とした若手医師チームが果たすには,非常に完成度の高い,内科全般のマニュアルが必要です。それが聖路加のマニュアルのバックボーンになっているのでしょう。

堀之内 そうですね。聖路加のマニュアルは,ある程度専門領域まで踏み込んではいますが,切り口は内科全般です。3-4年目の病棟医長を意識して,ちょっと背伸びしたい若い医師たちに有用な情報が,かいつまんで手に入るという形式になっていますから。病棟医長としての役割を果たせる医師を育てることにあわせて,マニュアルも進歩してきたのでしょうね。

離島をひとりで診られる医師を育てる

徳田 比較すると,中部のインターンマニュアルは,あくまでもレジデント1年目が対象なんですね。2年目以降のレジデントマニュアルは各科が出しています。

堀之内 そうすると,中部の場合の研修医教育の第一の目標設定はどこになるのですか?

徳田 もともと,中部が臨床研修プログラムをスタートさせた背景には,沖縄県全体の医師不足,そして離島・へき地での医療提供の必要性がありました。数多くある離島診療所で,ひとりで幅広い医療ニーズに対応できる医師を早急に育てなければならなかった。いまは4年目からですが,昔は3年目から離島へひとりで診療に行くことになっていました。ですから,2年間の研修修了の時点で,単独で離島医療をカバーできるぐらいの実力を身に付けなければいけないわけです。つまり,中部の初期研修医教育の短期的な目標設定は,離島でもひとりでやっていけるジェネラリストを養成することなんです。

堀之内 聖路加とは違って,病棟管理なら何でもござれという医師をつくるのが目的ではないのですね。

徳田 そうです。例えば南大東島という,那覇から飛行機で1時間ぐらいかかるところで,赤ちゃんからお年寄りまで,何千人という島の住民をひとりで見なければいけない。何もできない学生を,2-3年でそのレベルまで養成するため,かなりハードな研修を行ってきたといえます。

 いまはコースが二つに分かれていて,3年間の研修後に離島へ行くコースと,4年間の研修後に本島や離島の県立病院に勤務するコースがあります。ただ離島の県立病院といっても,やはり地域医療の現場ですから,かなり幅広い疾患の患者さんを診なければなりません。一般の内科医であっても,ペースメーカーを緊急で入れるだけでなく,当直のときには小児科も診て,外科の緊急手術があればグループ麻酔をかけねばならないといったこともあります。そのレベルに到達するまでに,4年の研修期間をみています。私の場合は,...

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