第14回日本緩和医療学会開催
2009.07.13
啓発から実践――新たなステージに向けて
第14回日本緩和医療学会開催
第14回日本緩和医療学会が6月19-20日,恒藤暁会長(阪大大学院)のもと大阪国際会議場(大阪市)にて開催された。今大会のテーマは“緩和医療――原点から実践へ”。緩和医療が特別のものではなくなった今,より質の高い実践をめざし,各施設ではさまざまな取り組みが模索されている。学会当日は,各会場で立ち見が出るなど,5000人を超える参加者で溢れかえった。本紙では,その一部を紹介する。
緩和医療における“Doing”と“Being”とは
恒藤暁会長 |
外科治療医である門倉光隆氏(昭和大病院)は,外科治療はそもそも痛みを伴うものであり,痛みについて考える必要があると述べ,痛みの軽減のために内視鏡下手術などが開発されてきたと紹介。さらに,外科手術を選択できない患者に対しても,一人の医師として,外科治療以外の対応策が存在することを伝えたり,配慮ある言葉や態度をとることの重要性を指摘した。氏らは,患者の退院時に「ラブレター」と呼ばれる手紙を渡し,退院後も良好な関係を維持できるように努めているという。
清水わか子氏(君津中央病院)は近年の放射線治療について,根治治療目的だけでなく,症状の改善を主目的とする「緩和的放射線治療」など多様性に富んできていると指摘。このようななかで放射線治療医に求められるのは,患者の自己決定を支える適切な情報提供や承認,共感であると述べた。さらに,患者が多くの場合求めるのは“Doing”(何らかの治療)であり,“Only Being”はありえないと強調した。
腫瘍内科医の佐藤温氏(昭和大病院)は,患者と向き合い続けることそのものが“Doing”であり,がん医療はその全過程において“Doing”であると言及。相対するものととらえられがちな抗がん剤治療と緩和医療は,併存し補い合う関係であると述べた。その上で,医療者には患者と積極的に向き合うことが求められており,その過程のなかで患者から医療者に向けた動的なベクトルを受け取りながら全人医療が成り立っていくとの考えを示した。
林章敏氏(聖路加国際病院)は緩和ケア医の立場から,“Doing”と“Being”の境界は曖昧だと前置きした上で,前者を患者さんや家族の問題に対する医療者による介入,後者を患者や家族の問題にあえて介入せず,側にいて見守り続けることだと説明。両者ともに患者(家族),医療者にとって痛みを伴うものであることから,医療者には最善を尽くそうとする熱意や勇気,医療の限界を受け入れる謙虚さ,患者・家族への思いやり,他人の意見を受け入れる柔軟性,さまざまな問題に対処する際に自らを振り返る冷静さなどが必要だと述べた。
複雑に絡み合って起きる身体症状に対処する
パネルディスカッション「いかに身体症状に対応するか」(座長=和歌山医大病院・月山淑氏,近畿大病院・小山富美子氏)では,呼吸困難,嘔気/嘔吐,鎮静(セデーション)という身体症状について,仮想症例を提示しながら,それぞれの症状にいかに対応していくか議論された。
呼吸困難は,がん患者において非常に頻度が高いが,難治性の場合が多い。田中桂子氏(都立駒込病院)は,日々の予後の予測とそれに合わせた治療ゴールの見直しの重要性を指摘。呼吸不全などの原因治療から呼吸困難を緩和するための対症療法に移行していくなかで,標準的治療に加え,臨床的知恵を蓄積すべきだと述べた。
新城拓也氏(社会保険神戸中央病院)は嘔気/嘔吐について,消化管の異常だけでなくがんの存在そのものが嘔気/嘔吐の原因になりうるため,どのレセプターがかかわっているのか,嘔気/嘔吐の作用点や薬理作用を考えながら治療薬剤を選択する必要があると述べた。また,田中氏と同様に,終末期においてはエビデンスやガイドラインのみに頼るのではなく,「これをやってみたらよかった」という経験値を蓄積して日々のケアに取り入れることの重要性を説いた。
鎮静(セデーション)は患者のコミュニケーション能力を低下させるため,抵抗を示す患者や家族も多い。池永昌之氏(淀川キリスト教病院)は,鎮静の目的は苦痛緩和であること,薬物の調整が可能であること,積極的安楽死ではないことなどを説明し,意思確認を行うことの重要性を述べた。さらに,鎮静様式(間欠的鎮静,持続的鎮静)や水準(浅いのか,深いのか)によって治療ゴールが異なるため,チーム内でどのような鎮静を想定しているかを共有すべきとの見解を示した。
緩和医療における身体症状には複数の要因が絡み合っており,原因がわからないことも多い。そのため,ディスカッションでは,専門家への相談や記録の共有などを通して多職種で検討し,一人で抱え込まないことの重要性が強調された。
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