医学界新聞

2009.07.06

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


そこが知りたい C型肝炎のベスト治療
インターフェロンを中心に

銭谷 幹男,八橋 弘,柴田 実 編

《評 者》林 紀夫(阪大大学院教授・消化器内科学

日常診療にも役立つ1冊

 わが国には,約200万人のC型肝炎ウイルスキャリアが存在すると推定されており,2008年4月よりC型肝炎治療に対する医療費の公的助成制度も始まるなど,国家レベルでの対策が進められている。C型肝炎治療は,インターフェロン単独治療からリバビリンの併用,ペグインターフェロンの開発を経て,ペグインターフェロン・リバビリン併用療法が標準治療法となり,HCV排除率は,難治例といわれる1型高ウイルス量で約50%,それ以外では約80%と,C型肝炎全体では6-7割の症例で治癒が得られるようになった。同療法の保険収載の後,多くの症例のデータが蓄積され,治療効果や合併症などについて一応の見解が得られたと考えられる現在,その治療に携わるわれわれ医療者には,新しい治療法を十分に理解するだけでなく,個々の症例への治療適応を判断し,適切な治療を行うことが求められる。

 今回,医学書院より,銭谷幹男先生,八橋弘先生,柴田実先生の編集による新刊書『そこが知りたい C型肝炎のベスト治療』が刊行された。本書は肝疾患治療のエキスパートの先生方により執筆され,肝疾患患者を診療する上で必要かつ十分な情報が提供されている。内容としては,C型肝炎の臨床病態と検査方法,治療法の概説だけではなく,個々の症例への治療対応などが詳しく取り上げられているなど,日常診療において臨床医が患者と対面した場合に十分に対応できるように解説されており,研修医,レジデントにとどまらず,実地医家,消化器内科専門医の先生方にも,十分参考にしていただける本に仕上がっている。本書が,C型肝炎治療に携わる多くの先生方の診療の一助となり,多くの肝疾患患者が最適の治療を受け,肝疾患の治癒へ,ひいては肝癌撲滅へつながることを祈念する。

B5・頁212 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00738-2


カラーアトラス 子宮頸部腫瘍

井上 正樹,尾崎 聡 著

《評 者》長谷川 壽彦((財)東京都予防医学協会検査研究センター長

常に手元に置いて活用すべき書

 本書は,臨床医,病理医,細胞診専門医や細胞検査士が日常診療で把握しておかなければならない事項について,最新の知見も加えながら,豊富な写真を駆使してわかりやすく解説している子宮頸部腫瘍に関しての手引書である。子宮頸部病変を扱うものとしては期待を持って手にする書物である。

 わが国では,HPV検査は一般的に普及していない段階にあるが,HPVが子宮頸癌の原因ウイルスであることに疑問の余地は無く,必然として,近々にHPV検査は子宮頸癌検診や日常診療に取り入れられ,さらにHPVワクチン接種も開始されるであろう。著者の1人である井上正樹教授は,HPV研究の第一人者として活躍されているが,豊富な知識を基にHPVと頸癌との関連性について,研究成果も示しながら解説している。基礎的事項から臨床に直結する事項まで幅広く取り上げているので,HPVに興味のある読者には時宜を得た読み物である。主として臨床や細胞診実務にかかわっている,それほどHPVに興味を持てない読者が,HPVに関する第II章を拾い読みしても本書の目的とする「三位一体で学ぶ細胞診断学」として問題はない。HPVについては,第VII章の症例提示でも取り上げられているので,HPV感染と症例を見ながら第II章に戻って読み直せばより理解が深まると思われる。

 誤解を受けると思われる記載を指摘する。レーザー使用の切除標本は組織診断に不向き(p.44)とあるが,現在,わが国の多くの施設でその利便性からレーザー切除標本で病理診断を実施しており,不向きと言い切るのは問題であろう。コルポスコピー白斑について,白斑が移行帯外にあるときはコンジローマと診断する(p.36)とある。コルポスコピー所見分類では,白斑とコンジローマ,パピローマは別所見であり,移行帯と関連していない。

 これまで長らく使用されていた旧日母クラス分類は細胞診報告として問題があるとして,日本産婦人科医会を中心に日本臨床細胞学会など関連学会がベセスダ方式の取り入れについて検討した。その結果,ベセスダ方式をわが国で使用できるように多少の手直しを行い,これを今後の細胞診報告様式として周知することになった。本書はベセスダ方式による和文での細胞診教科書として極めて有用である。本書の病変と細胞像等の解説は,ベセスダ方式に沿った形での記述であり,量的問題からか,高度扁平上皮内病変(HSIL)を細分していない。わが国で,これから周知させようとしている報告様式では,中等度,高度異形成,上皮内癌を再分類し,臨床医が症例を扱う際の参考としているので,違和感を覚える読者もいるかもしれない。ただし,HPV検査,特にHPVの型別検査が容易に行われるようになれば,HSILの再分類についての議論は別の展開を迎えると予想している。

 ベセスダ方式制定の一番の目的は,細胞診の質の保証であり,本書では第IV章で液状検体の紹介を含めて,細胞診の質保証はどのようにあるべきかを記載している。将来を見据えているとの印象を得た。

 本書は,疑問症例や調べたい症例に遭遇したときにコンサルトできる性質の書籍と思われるので,通読後しまい込むのでなく常に手元に置いて活用すべきである。

A4・頁176 定価8,610円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00697-2


《標準理学療法学・作業療法学専門基礎分野》
小児科学 第3版

奈良 勲,鎌倉 矩子 シリーズ監修
冨田 豊 編

《評 者》大野 耕策(鳥取大教授・脳神経小児科学

障害のある小児と家族に接する姿勢・態度の習得を意図した書

 本書は広島県立保健福祉大学保健福祉学部作業療法学科教授,鳥取大学医学部保健学科教授を経て,現在,京都民医連中央病院検査科長を勤める冨田豊先生の編集による理学・作業療法士をめざす学生のためのシリーズテキストの1冊で,2000年に初版が発行され,今回が第3版の発行となる。

 冨田先生は小児神経科専門医として,発達障害児,肢体不自由児,知的障害児,重症心身障害児の医療に長年かかわってこられ,また同時にこれら障害のある子どもにかかわる専門職の方たちへの専門教育を長く担当してこられた。このテキストブックは,冨田先生のご経験をもとに,このような障害のある子どもと接する理学・作業療法士が,小児科学の知識を持つだけでなく,育児・保健指導,教育との連携,就労や生活指導などについても大きな役割を果たすことを期待して編集されている。また,本書は理学・作業療法士に必要な知識を重点的・効率的に習得させるために,医学や看護学における小児科学のテキストブックとは異なった構成となっており,それぞれの章で理学・作業療法との関連事項がまとめられ,小児科学を学ぶモチベーションを高める編集となっている。

 第1章の「小児科学概論」では,小児の成長・発育を記述した後に栄養と摂食についてが,また小児保健の項では小児の予防接種,学校保健についてがそれぞれ重点的に記載されている。

 第2章の「診断と治療の概要」では心身の発達を視野においたリハビリテーション,教育との連携,就労と生活支援の重要性が強調されるとともに,小児の救急処置が重点的に記載されている。本書ではこれら2つの章で小児の発育と発達,診断と治療に関する基礎的知識を述べ,小児に接する理学・作業療法士の役割が明確に記載されている。

 第3章以降では,小児の脳神経系の障害の原因として頻度の高い「新生児・未熟児疾患」,「先天異常と遺伝病」,「神経・筋・骨系疾患」が記載され,その後に小児科学各論の臓器別の疾患が循環器,呼吸器,消化器などの順序で記載され,第16章の「重症心身障害児」,第17章の「眼科・耳鼻科的疾患」で完結している。

 小児科学は疾患の数が多く,学習は決して楽ではないが,本書の記載は簡潔かつ明瞭で,図表も多く,独学でも勉強しやすく編集されている。また,家族から信頼されるようになること,よき相談相手となること,子どもの健康の異常に早く気付くこと,心身の健全な発達の促進を意識すること,などの重要性とその具体的方法が随所に記載されており,学習意欲が高まるようにも編集されている。

 このように本書は,小児科学のテキストブックとして理学・作業療法士に必要な小児の疾患を重点的,効率的に記載することに成功しているだけでなく,各章の内容と理学・作業療法との関連を記述することで学習のモチベーションを高め,さらに,障害を持つ小児に接する姿勢と態度を育成する意図を随所に溢れさせたユニークな仕上がりとなっている。本書は,このテキストブックで学習して理学・作業療法士になられた方たちと一緒に仕事をしたいと感じさせる,優れた小児科学のテキストブックである。

B5・頁264 定価4,410円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00743-6


脳科学のコスモロジー
幹細胞,ニューロン,グリア

藤田 晢也,浅野 孝雄 著

《評 者》兼本 浩祐(愛知医大教授・精神科学

卓越したグリア論

 本書にも引用されている偉大な心理学者,ウィリアム・ジェームズは,その人がもともと楽観的な心“cheerful soul”を持っているか悲観的な心“sick soul”を持っているかといった研究者間の気質の相違によって,そうした個人的資質とは本来は無関係なはずの科学的学問の質も違ってくるといったことを書いている。『脳科学のコスモロジー』は,自らの手で何百,何千のプレパラートを切り出し,染色したであろう第一線の研究者にしか書き得ないと思われる重厚な手触りのグリア論をその前半の内容としている。

 そして後半では圧倒的な情報量とともに,脳科学が今や哲学の領域に侵攻し,科学的に蓄積可能な解答をその領域でも提出しつつある様子を克明にレポートしている。フッサール,フロイト,メルロ・ポンティ……哲学と科学は決して対立するものではなく,脳科学の進歩において統合され,私たちはきっと前人未到の未来へと進んでいくという楽観が全編ににおい立つ。本書には科学を志す者,そして科学において粘り強い営みを続けて新たな領域を切り開く者にとって極めて重要な資質の一つである“cheerful soul”が躍動している。

 前半ではグリア論の展開におけるドラマチックな歴史が,その歴史の形成に実際に立ち会った当事者の立場から極めて生き生きとした臨場感を持って活写されている。神経細胞発生学の父であり,偉大な解剖学者,ウィルヘルム・ヒスは,神経組織の発生は初めからグリアおよびニューロンのいずれに分化するかが前もって決定されている二種類の異なった母細胞から成り立っているという二元論を展開したという。しかし,ヒス自身はさすがに慧眼であり,自説の矛盾を指摘する反論にも耳を傾け,自説を修正しようと試みる懐の深さを死の直前まで示していた。ところがヒス亡き後,機械的に早い時期のヒスの説をそのまま金科玉条としてしまった後世のエピゴーネンたちは,単一の母細胞からグリアの原基もニューロンの原基も生ずるというグリアの一元的マトリックス起源説を長期間にわたり圧殺してしまう。

 サンティアゴ・ラモン・イ・カハールの業績もドラマに満ちている。カハールはニューロンがそれぞれ一つひとつ独立した細胞であると考える現在のニューラル・ネットワークの基本概念を構想し,ノーベル賞を同時受賞したゴルジの網状説と激しく対立したが,その論争には勝利する一方で,弟子のピオ・デル・リオ・オルテガとの論争には歴史的には敗れてしまう。ニューロン,アストロサイトと対照的に,中枢神経組織において自身はその突起を染め出すことができなかった一群の細胞を,カハールは第三要素と名付け,これも外胚葉性のグリアの一種であろうと断定した。しかし,優れた染色によってこの第三要素が突起のあるオリゴデンドログリアと突起の無いミクログリアに分かれることを発見したオルテガによって,カハールの説は覆されてしまうのである。オルテガに激怒したカハールはオルテガを破門してしまう。本書での多くの登場人物はまさにグリアに彼らの人生を捧げていたといっても過言ではなく,科学研究というものも人間の愛憎のドラマを色濃く反映していることがよくわかる。

 こうした先人たちの人生を賭した論争の歴史のなかで獲得されてきたグリアについての知識の頂点として本書の後半で呈示されているのが,グリアはニューロンを単に栄養補給といった面で助けているのではなく,ニューロン本来の機能である情報処理においても補完する存在であるという知見である。極めて興味深いのは,ニューラル・ネットワークが計算式に従う(すなわちデジタル的な)ある種のコスモスを形成し,その代償としてそこから抜け出すことが困難な常同的な反応(アトラクターと呼ばれている)に落ち込むのに対して,グリアル・ネットワークはよりアナログ的に作動することで小さな破局反応をこのコスモスに持続的に作り出し,ニューラル・ネットワークをアトラクターから脱出させて新たな地平(あるいは新たな演算の開始)へと導き出す原動力となるのではないかという主張である。離散値を基本に置くニューラル・ネットワークと連続的な値を取るカオスを体現するグリアル・ネットワークの対比,この壮大な構想を目の前にして高ぶる気持ちを抑えられない著者の鼓動が聞こえてきそうである。

 ただ,おそらくはジェイムズの言うように気質の違いにもよるのであろう。悲観的な心にとっては本書の後半は少しばかりまばゆすぎるところもある。例えば夢の中に現れる欲望は,フロイトにおいても理性と比べて低次元で抑圧すべき対象が表出される場と必ずしも断罪されているわけではない。通常の意味では絶望的に見える破綻した生のあり方であっても,自らの運命を生ききることが幸福であるという場合もあろう。つまりは世間的な意味では破綻してしまうような夢の欲望を充足し,実際に破綻することの方が,その人本来の生を生ききったと言える場合もあると考えれば,フロイトの無意識やラカンの現実界は善悪の彼岸にある。あるいはこのまばゆさは,治療というもののめざす方向があらかじめ明確な臨床の場と,まずはどちらへ向かって行けばよいのかに戸惑うことも多い臨床の場に身を置く者の違いなのかもしれない。

 いずれにしても,本書が卓越したグリア論であり,一読の価値があることは論をまたない。

A5・頁384 定価5,460円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00578-4


ワシントン初期研修医必携マニュアル 第2版
The Washington Manual Internship Survival Guide, 3rd Edition

箕輪良行 監訳
Thomas M. De Fer,Bryan A. Faller,Hemal Gada,Sam J. Lubner 編

《評 者》岸本 暢将(亀田総合病院・リウマチ膠原病内科

患者ケアの第一線にいる医師にとっての必読書

~臨床研修時の心得~
 “臨床研修での到達目標は,生命に危険のある問題,急性期の問題,安定している問題を区別できることである”。

 米国では1889年,ジョンズホプキンス大学でインターンシップが始まった(マッチング導入は1952年)。歴史のある研修制度は大変参考になる。インターン(1年目研修医)はチームの一員として医療に従事する。チームの構成はインターン1-2人,レジデント(2-3年目研修医),アテンディング(指導医)に学生も加わり,全体で約10-15人の患者を担当する。そして屋根瓦方式で教育が行われる。私がインターンシップを始めたハワイ大学での一日は,まずナイトフロート(夜勤当直帯)からのサインアウト(引継ぎ)を受けて始まる。引継ぎを受けた後,患者さんの状況を把握しに病棟回診(プレラウンド)を始めるのが朝の5時ごろ。プレラウンドが終わり,レジデントと患者さんの状態について話し合い回診(ラウンド)するのが7時前後。7時半-8時からはモーニングレポートで,指導医と共に前日の入院症例の検討や,既に入院している興味深い症例のディスカッションを行う。その後10時ごろから,アテンディングラウンド(指導医による回診)だ。昼はランチを食べながらの勉強会。一石二鳥である。その後専門科へのコンサルト,事務手続き,カルテ書き,検査結果の確認などを行い,最後に当直の他のインターンへと引継ぎをして一日の仕事が終了となる。

 レジデントなら誰でも知っているワシントンマニュアルの兄弟本として『ワシントン初期研修医必携マニュアル第2版』が出版された。著者は,ワシントン大学の内科レジデントコース修了者あるいは現役研修医で,米国臨床研修の最良のエッセンスである“臨床の基礎を学ぶ上での簡潔で実践的な現場の情報”がまとめられている。インターネットサイト,必要な教科書がリファレンスとして記述してあり,すぐに利用できる手技ポケットカードもついてくる。

 一部を紹介すると,「疑問が生じたときは,患者さんを直接診察しに行ったほうがよい」につづき,「患者さんに対して一番の責任を持つ――君が彼らの主治医なのだから」「患者さんの話すことに耳を傾けなさい。君が知るべきことは患者さんが教えてくれる」と,毎日ぼろぼろになりながら身につけたことがここに書いてある。そして有名な「見て,やってみて,教える(see one,do one,teach one)」を実践し,さらに「仲間を助け出す。仕事が早く終わったら,他のチームメンバーの仕事ぶりをチェックし,必要なら互いに助け合おう。そうすれば,一番必要なときに今度は彼らが君を助けてくれるだろう」と,泣けてくる。私がインターンになる前に,この本が存在していたなら……。インターン時代を思い出しながら一日であっという間に読んでしまった。監訳された箕輪良行先生に敬意を表したい。初期研修医ばかりでなく,もちろん医学生,レジデント,患者ケアの第一線にいる医師にとって必読書である。

A5変型・頁230 定価3,360円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/

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