医学界新聞

2009.06.22

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


コルカバ コンフォート理論
理論の開発過程と実践への適用

キャサリン・コルカバ 著
太田 喜久子 監訳

《評 者》筒井 真優美(日赤看護大教授・小児看護学)

理論の説明だけでなく,その熟成過程も参考にできる書

 コンフォートとは,「緩和,安心,超越に対するニードが,経験の4つのコンテクスト(身体的,サイコスピリット的,社会的,環境的)において満たされることにより,自分が強められているという即時的な経験である」(p.15)と定義されている。本書は,こうしたコンフォート理論の説明はもちろんのこと,大学院における研究課題の明確化,理論開発などについても解説している。

 著者のコルカバ博士は1980年代の後半から,ケース・ウェスタン・リザーブ大学(CWRU)の博士課程に在籍し,その博士論文が本書の基になっている。「大学院在学中に,一般コンフォート質問票のパイロット研究を行った。それは,CWRUを修了するには不十分なものだった。そして指導教官は,本当にコンフォートは測定可能なのかを調べるための介入研究をするよう『ほのめかした』」(p.256)とある。私も同時期にニューヨーク大学の博士課程で研究をしていたが,同様に指導教官より「質問紙の開発には2年以上かかるが,それだけでは博士論文としては不十分である」と言われたことを記憶している。

 第1章「コンフォート研究との出会い」では,著者が博士課程に入学する前の出会いからコンフォートという看護実践の課題をどのように明確にしていったかが,順を追って明らかにされている。コンフォート研究が,本人のひたむきな努力とさまざまな学識者(大学教員,学会参加者,博士課程の仲間,学会誌の査読者,そして配偶者など)との交流の中で熟成していく過程を,丁寧に描いている。この章は特に修士課程,博士課程で課題を明確化する過程にある院生にぜひ一読してほしい章である。また,大学院の教育を担当する教員にとっては,カリキュラム構築の考え方だけでなく,大学院生に伝えなくてはならないことは何かなどの示唆となる。

 さらに,博士課程の院生にとって,p.7からの『概念分析』,p.17にある『分類的構造』の図,第6章「コンフォートの属性」にある『概念分析』,第7章「実験」にある『サブストラクション』,第9章「ミッションの更新」にある『アウトカム研究へのコンフォート理論の展開』(図9-3,9-4,9-6,9-7)などは具体的で参考になる。難を言えば,章のタイトルが抽象的なので,本文を読まないと内容が把握しにくい。付録に質問紙が紹介されているが,日本語訳になったコンフォートを測定する質問紙の信頼性・妥当性の検討が書かれていないので,これを使用するには著者の許可だけでなく,日本語訳の信頼性・妥当性の問い合わせも必要になろう。

 コルカバ博士が最終章を執筆する中,米国の同時多発テロ(2001年9月11日)が起こった。最終章で「どうか,覚え...

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