コルカバ コンフォート理論
理論の開発過程と実践への適用

もっと見る

複合的かつ豊かで、尊重されるべき優れた概念である「コンフォート」を、看護実践に適用可能な中範囲理論として平易に解説。患者が望むコンフォートケアを臨床の看護師が理論を基盤としながら提供するのに役立つばかりでなく、病棟での主任看護師としてのコルカバ博士自身の経験や大学院での研究から始まる理論開発の具体的な過程は研究者にとっても興味深いものであろう。
シリーズ 看護理論
キャサリン・コルカバ
監訳 太田 喜久子
発行 2008年11月判型:A5頁:308
ISBN 978-4-260-00565-4
定価 3,520円 (本体3,200円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

監訳者まえがき(太田喜久子)/推薦の序(May Wykle, RN, PhD, FAAN)/
著者まえがき(Kathy Kolcaba)

監訳者まえがき
 看護にとって,看護の対象である患者がコンフォートな状態であることは重要なことである。長い看護の歴史の中で,患者がコンフォートな状態を得られるよう看護師は日夜ケアを行ってきたし,看護教育ではコンフォートをケアの原則として常に教授・学習されてきた。このように,看護師にとってケアにおけるコンフォートは当たり前のこととして浸透している。しかし,コンフォートの状態はどのようなものであり,どのようにしたらこれを把握できるのか,改めて問うことはあっただろうか。
 コルカバは,コンフォートという,この古くて新しい概念に真正面から取り組んだのである。コルカバは,幅広い学問分野の文献検討からコンフォートを多角的に捉え直し,その特質を明らかにした。コンフォートには強化するという特徴があり,コンフォートな状態は人をより良い状態にさせる。コルカバはコンフォートをケアによってもたらされるアウトカムとして明確に位置づけた。さらに,コンフォートの状態を知るために,測定尺度を開発したのである。この測定尺度を用いて対象のコンフォートの状態を評価することができれば,看護ケアの影響や効果を知ることができる。
 看護臨床家の方には,本書の用語で難しいところは巻末の「用語解説」にあたってみてほしい。ケアの質を高めるためにもコンフォートへの理解を深め,測定尺度の適用範囲を広げている本書を,看護実践の場でぜひ活用していただきたい。
 コルカバは,博士課程からコンフォートの理論化に向けた研究を行っている。本書では中範囲理論としての理論開発の過程が,概念分析から実に生き生きと述べられている。他の看護理論書にはみられない内容である。抽象的で理解しにくいと思われがちな理論開発の過程を,具体的にどのように進めていくものなのかを教えてくれる貴重な資料でもある。一人でも多くの大学院生,看護研究者・教育者に読んでいただきたい。
 最後に,本翻訳書は3人の訳者の熱意と努力が結実したものであり,ここに敬意と感謝を申し上げたい。

 2008年10月
 太田喜久子



 2001年9月11日,Lynn Slepski(看護学修士,登録看護師)は準備万端だった。彼女の仕事は,米国公衆衛生局の指揮官として,米国のあらゆる大きな災害現場に緊急物資を送り,かつ医療・看護従事者を派遣することだった。2機目の飛行機が,ニューヨークの世界貿易センタービルの南タワーに激突したとき,物資を満載した海軍病院船は直ちに行動を開始した。その船名は…コンフォート(Comfort)。

Kennedy, M. (2002). Nurses making a difference : Our worst disaster's first Nurse. American Journal of Nursing 102(2)102-103. より改変。



推薦の序
 Katharine Kolcaba(キャサリン・コルカバ)博士は,ケース・ウェスタン・リサーブ大学(Case Western Reserve University)の博士課程で研究を始めた1987年から,患者のコンフォート(comfort)のアウトカムについて研究を続けている。彼女の発表した研究論文は,コンフォート理論のための概念開発の過程を,時間を追って示している。Kolcaba博士は今回出版されるこの『コルカバ コンフォート理論 理論の開発過程と実践への適用 Comfort Theory and Practice : A Vision for Holistic Health Care and Research』で,まず患者の観点からコンフォートを定義し,次にこの概念を検証するための測定システムや,ヘルスケア領域でのその重要性と位置づけ,21世紀の看護理論の発展について述べている。本書は実践,教育,研究,質の向上における,コンフォート理論の適用の青写真を示している。
 看護では,患者にコンフォートを提供することは,必要不可欠なことである。コンフォートは,患者のケアにおける,スピリット的,精神的,身体的な側面の統合を含んでいる。Kolcaba博士によれば,ヘルスケア領域での患者のコンフォートは複合的で,豊かで,尊重されるべき優れた概念である。コンフォートという特性を強化することは,とくに以前の機能レベルに回復しようとしている患者,つらい治療やリハビリテーションに取り組んでいる患者,あるいは尊厳を保持したまま死にゆく患者にとって大変重要なことである。Kolcaba博士がコンフォート理論で示唆しているように,コンフォートな状態の患者はより良い状態になり,より早く治るので医療費も抑えられる。
 強化されたコンフォートは,看護ケアで即座に求められる望ましいアウトカムとしての,望ましい健康探索行動へと理論的に結びつけられている。同様に,患者の健康探索行動は,施設の基準(ヘルスケア組織全体としての価値基準,財政の安定性)ともちろん関係している。ヘルスケア組織は削減された人員と財源で,高いレベルのケアを維持しようと努力しているので,コンフォートというアプローチは,それらの組織に費用対効果の高いモデルを提供する。
 本モデルの枠組みは,看護師や他のヘルスケアチームメンバーに対して,ホリスティックなアセスメントのためのガイドラインと,患者への介入と評価,ケアプラン立案のためのデザインを提示する。
 Kolcaba博士はまた,看護師のためにコンフォートな雰囲気の労働環境を作り出すことも提唱している。そうすれば,看護師は患者のコンフォートを高めるための資源を手にすることになる(これについては第9章で述べられる)。看護師にとってのコンフォートとは,少し例を挙げると,自立,最高の実践モデルに適した人員配置,管理者の支援,継続教育,思いやりのある指導などである。
 患者を気遣いながらケアしているすべての看護師とヘルスケア提供者に,本書を推薦できることは,私にとって喜びであり誇りである。

 May Wykle, RN, PhD, FAAN
 オハイオ州クリーブランド
 ケース・ウェスタン・リサーブ大学
 フランシス・ペイン・ボルトン看護学部長


著者まえがき
 本書は,患者のコンフォートのアウトカムに関する研究をまとめたものである。手軽に使えるテキストとして,コンフォートに関する研究のさまざまな側面を,主題別に,そして時間の経過に沿って示している。本書は個人で活用でき,読者に親しみやすいものであること,かつコンフォートを志向し,理論を基盤とした実践が,患者や実践家,ヘルスケアを担う組織にとって大切だと考える看護師やヘルスケアチームのメンバーが,自信を持てることを目指して書かれたものである。
 自分の業績に加えて,本書の巻末に掲載した長い参考文献リストを見れば,看護界とその関連分野の多くの執筆者たちのエビデンスが,私のコンフォート理論を構築するためにいかに貢献してきたかは一目瞭然である。何もないところからは,いかなる理論も生じない。本理論も,ヘルスケアにおけるコンフォートの重要性に対して,多くの人々が再び新たな関心を寄せたところから生み出されたものである。理論開発中は気づかなかったが,思い起こせば,米国のヘルスケアと大学院教育の充実が,患者のコンフォートに対する洞察力に関して,身近な協力仲間と「ひらめき」を私にもたらしてくれた。誰もが共に理解し,アイデアをもたらすことができるよう,私はここにその状況を再現した。
 本書を書くことは私にとって,コンフォート理論の一貫性や示唆と適用を再検討する機会となった。検討する中で,コンフォートの可能性について,私は新たな洞察と見解を得た。また,吟味と考察という作業が系統的に行われる執筆行為の中で,その相互作用的思考を楽しんだ。これはヘルスケアの変革やグローバルな現実に照らして,新しい考えを生み出すのに必要な統合や議論,洗練のための価値ある時間であった。今にしてみれば,コンフォート理論と共に過ごした年月ほど成長したときはなかった。このことは,概念のダイナミクス,私たちの言語,看護学や一般のヘルスケア領域,コンフォートのニュアンスを言及したいという私の切なる願いについて当てはまる。
 編集者は本書が臨床看護師向けとなるよう望んでおり,私もそれに同意した。理論書の主たる読者は看護師であり,もし彼らが活用し,理解することができなかったら,コンフォート理論は姿を消してしまうだろう。そこで,本書はとくに看護師に向けて著した。また,編集者の要望を超えてさらに何歩か先へと,本書を著すという作業と人生経験の進展に応じて進めていった。最初のステップは本書を執筆中,看護領域外の組織から招待を受けたことをきっかけにしている。これら全国的規模の組織の人を前にして何を話そうかと考えたときに,コンフォートケア(コンフォート理論が適用されたときの名称)は,看護に限定されないことをはっきりと理解した。本書からもわかるように,たしかにこれは看護から始まり,伝統的なルーツを誇っている。けれども,これはまたヘルスケアの学際的なモデルにもなり得るので,将来的にそうなることを心から願っている。コンフォートケアはこれらの領域が持つ共通点,つまり患者志向であるため,ヘルスケア実践を統合するものである。ヘルスケアニードのある患者や集団を対象とする実践者は誰もが予防,安全,慢性疾患管理,急性期治療,生命誕生からターミナルに至るまで,コンフォートケアの枠組みが使えるのである。将来は学際的なヘルスケアの時代になると考えられるが,私たちが皆,同じ思いのもとに立てば,それはさらに容易になるに違いない。
 追加した2つ目のステップは,病院の人員配置についての研究発表を聞いた後に起こった。発表者は看護のアウトカム研究に尽力してきた看護統計学者のPeter Buerhausだった。彼は患者のアウトカムに対し,看護師がさまざまな価値ある貢献をしていることを実証してきた。私は彼の発表と論文から,臨床看護師が自らの実践の質改善(quality improvemennt ; QI)に関与するであろうことを確信した。看護教育としては,教育現場や職場研修でこれらの技術を教授することになるだろう。質改善には当然,看護や学際的なケアに関する,患者の肯定的・否定的なアウトカムの記述や測定が求められる。この考えは言うまでもなく,あなたの病棟で患者の否定的なアウトカムを減らし,肯定的なアウトカムを増やすということなのである。
 コンフォートは確かに患者の肯定的なアウトカムであり,私はすべての看護師や他のチームメンバーがこれを高め,記録に残したいと思うようになることを望んでいる。看護師は質改善を実証するために利用できるよう標準化され,コンピュータ化されたデータセットを用いることが可能であり,また,そうするべきである(データについての詳細は第9章参照)。しかし,ここで重要なのは,看護と学際的なケアはもはや研究から切り離せないということだ。むしろ,あまり威圧的に聞こえないような他の呼び方をする必要があるとしても,私たちの日々の実践の一部がアウトカムを測ることとなっているのである。そのようなことから,本書は実践と研究を統合し,願わくばヘルスケアにアウトカム研究を調和させるためのガイドとなることを,私は望んでいる。
 編集者の要望を超えて追加した3つ目のステップは,2001年9月11日のテロ攻撃の結果として生じた。私は攻撃はどうなっていくのだろうかと思いながら,最終章に力を注いでいるところだった。そこで第10章は,危険に直面したとき,いかにしてお互いをコンフォートできるのか,そして人間のコンフォートへのニード,言わば,米国の新しいヒーローであるコンフォートについて深く考えた。また,この章で私は平穏,協力,理解,忍耐,そして,まさに世界中の友人のコンフォートへの願いを綴った。私は本書を,世界中のコンフォートのための「神話的なビジョン」で締め括る。それは読者がいつも心に持ち,それに向かって努力しながら考察を深めて欲しいと願うビジョンである。
 あなたが本書の読者となって下さったことに感謝します。どのような方法であれ,あなたがコンフォートチームのメンバーになりたいと感じてくれますように。あなたの実践,教育,生活,そして研究や倫理的問題への取り組みにおいて,コンフォートがあなたの未来と共にありますように。

 Kathy Kolcaba

開く

 監訳者まえがき
 推薦の序
 著者まえがき
 謝辞

Chapter 1 コンフォート研究との出会い
 経歴
 コンフォートを図式化した当初の状況
 概念分析
 コンフォートの3つのタイプ
 経験の4つのコンテクスト
 コンフォートの分類的構造
Chapter 2 ミッション1
 1900年代の注目すべき看護のコンフォート
 共通認識:過去の研究と理論
 洞察の要約
 1992年:看護の意識の頂点に浸透したコンフォート
Chapter 3 コンフォートの測定
 コンフォート質問票の最初の原案作り
 コンフォートの解決すべき問題
 一般コンフォート質問票(GCQ)の予備調査
 博士論文の経過
 コンフォート研究方法の提案
 母集団のコンフォート測定
Chapter 4 哲学的観点
 哲学的観点の階層
 ホリスティックなコンフォートの本質を得るためのエビデンス
 ホリスティックなコンフォートの数量化に関する考察
Chapter 5 理論の探求
 博士論文の続き
 コンフォートの中範囲理論の発展
 コンフォートケアとコンフォートを与える手段
Chapter 6 コンフォートの属性
 概念分析の本質
 概念とは何か
 WalkerとAvantによる概念分析の課題
Chapter 7 実験
 コンフォートの概念的・操作的定義
 4つの質的研究
 前述の研究からの学び
Chapter 8 コンフォートケアの倫理
 倫理の研究
 健康分野全体としてのコンフォートケア
 倫理的義務
 委ねられたケアの倫理的結末
 終末期のコンフォートケア
 ケアとあわれみにおける徳の倫理
 心に残る看護師
Chapter 9 ミッションの更新
 アウトカム研究へのコンフォート理論の展開
 看護を反映するアウトカム
 標準化された看護を反映するアウトカム測定法の必要性
 疼痛とコンフォートの臨床実践ガイドライン
 看護師の生産性
 施設の統合性に有用なコンフォートケアの革新的モデル
 看護師のコンフォート
Chapter 10 将来へのコンフォートのビジョン
 患者/家族レベルのコンフォート
 病院/施設レベルのコンフォート
 地域レベルのコンフォート
 国家レベルのコンフォート
 世界レベルのコンフォート
 将来に向けたコンフォートの働き

文献
付録 A 一般コンフォート質問票
付録 B 放射線療法コンフォート質問票
付録 C コンフォートライン
付録 D 周術期コンフォート質問票
付録 E 修正版Karnofsky一般状態スケール
付録 F ホスピスコンフォート質問票(患者様用)
付録 G アメリカ看護師協会 看護のための倫理綱領
付録 H 国際看護師協会(ICN)看護師の倫理綱領(2005年)
付録 I ウェブサイト「コンフォートライン」の「よくある質問」
付録 J コンフォート理論の評価
用語解説

 訳者あとがき

索引

開く

理論の説明だけでなく,その熟成過程も参考にできる書
書評者: 筒井 真優美 (日赤看護大教授・小児看護学)
 コンフォートとは,「緩和,安心,超越に対するニードが,経験の4つのコンテクスト(身体的,サイコスピリット的,社会的,環境的)において満たされることにより,自分が強められているという即時的な経験である」(p.15)と定義されている。本書は,こうしたコンフォート理論の説明はもちろんのこと,大学院における研究課題の明確化,理論開発などについても解説している。

 著者のコルカバ博士は1980年代の後半から,ケース・ウェスタン・リザーブ大学(CWRU)の博士課程に在籍し,その博士論文が本書の基になっている。「大学院在学中に,一般コンフォート質問票のパイロット研究を行った。それは,CWRUを修了するには不十分なものだった。そして指導教官は,本当にコンフォートは測定可能なのかを調べるための介入研究をするよう『ほのめかした』」(p.256)とある。私も同時期にニューヨーク大学の博士課程で研究をしていたが,同様に指導教官より「質問紙の開発には2年以上かかるが,それだけでは博士論文としては不十分である」と言われたことを記憶している。

 第1章「コンフォート研究との出会い」では,著者が博士課程に入学する前の出会いからコンフォートという看護実践の課題をどのように明確にしていったかが,順を追って明らかにされている。コンフォート研究が,本人のひたむきな努力とさまざまな学識者(大学教員,学会参加者,博士課程の仲間,学会誌の査読者,そして配偶者など)との交流の中で熟成していく過程を,丁寧に描いている。この章は特に修士課程,博士課程で課題を明確化する過程にある院生にぜひ一読してほしい章である。また,大学院の教育を担当する教員にとっては,カリキュラム構築の考え方だけでなく,大学院生に伝えなくてはならないことは何かなどの示唆となる。

 さらに,博士課程の院生にとって,p.7からの『概念分析』,p.17にある『分類的構造』の図,第6章「コンフォートの属性」にある『概念分析』,第7章「実験」にある『サブストラクション』,第9章「ミッションの更新」にあるアウトカム研究へのコンフォート理論の展開(図9-3,9-4,9-6,9-7)などは具体的で参考になる。難を言えば,章のタイトルが抽象的なので,本文を読まないと内容が把握しにくい。付録に質問紙が紹介されているが,日本語訳になったコンフォートを測定する質問紙の信頼性・妥当性の検討が書かれていないので,これを使用するには著者の許可だけでなく,日本語訳の信頼性・妥当性の問い合わせも必要になろう。

 コルカバ博士が最終章を執筆する中,米国の同時多発テロ(2001年9月11日)が起こった。最終章で「どうか,覚えておいて下さい。私たちは皆,家族としての責務を果たしているときや疲れきっているときに,コンフォートを提供することが難しいことはわかっている。しかし,『誰かがそれをやらなければならない』」(p.222)と結んでいる。このミッションが本書には一貫して流れており,著者の看護観が伝わってくる。ぜひお薦めしたい著書である。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。