医学界新聞

寄稿

2009.05.18

【寄稿】

認知療法の「質」を保つ構成力,発見力,直観力
DVD+BOOK『Beck&Beckの認知行動療法ライブセッション』を繙く

清水 栄司(千葉大学大学院医学研究院神経情報統合生理学教授)


セッションの構造化を学ぶ

 本書DVDのDisc1でまず,セッションの組み立て方(構造化)を学びましょう。1セッション1時間のオープニングからクロージングまでのセラピーをどのように進めていくか。治療を最大限有効なものにするために,進行を患者に適した速さに調整し,組み立てる構成力を養いましょう。監修の古川壽亮先生は,「セッションの構造化」における基本原則についてのわかりやすい表をつけてくれておりますし,ジュディス・ベックも繰り返しインタビューで強調しているので,とても参考になります。

 野球の監督はゲームを組み立てる鍵となる投手を先発,中継ぎ,抑えというように,前日にプランを立て,そして試合当日は臨機応変に対応をします(もちろん結果も要求されますね)。外科医は手術方法を学ぶときに,どのように進めていくかを執刀助手という立場で最初から最後まですべて見ることができます。認知行動療法家は,セッションを最初から最後までどのように進めるかという組み立てを,陪席やスーパーバイズやビデオで学ぶ必要があります。さらに,初回のセッション後に残る10回から20回のセッションで患者のうつ病を改善し,再発を予防するにはどうすればよいかを常に考えていく必要があります。

 ジュディスのオープニングは,簡単な挨拶の後,導入部での「症状のチェック」として,「あなたのベック抑うつ質問票のスコアは41です。これはあなたが重度のうつ状態にあることを示しています」というように非常にストレートなものです。そして最初の7分で「アジェンダ(その日のテーマ)の設定」を患者との協働作業により4つの中から1つに決定しています。ここまでの様子を見ていると,患者はうつに圧倒される「なげき破局モード」にあり,とても治療が進みそうもないのですが,アジェンダを決定してからの患者は,見違えるように「問題解決モード」になっていることが見て取れ,アジェンダ設定の重要性がよくわかります。これは父のアーロン・ベックの症例でも同じです。

「質問による発見」の重要性

 セッションの真ん中では,guided discoveryに注目しましょう。直訳は「誘導による発見」ですが,古川先生は「質問による発見」と訳されています。心理教育も大事な要素ですが,認知療法が単なる「説得」「議論」「講義」「解釈」に陥ってしまうと,有効な治療たりえないので,「教えたくなったら,あるいは,解釈したくなったら,質問せよ」というのはとてもわかりやすい古川先生の解説です。

 最終的に,患者が自分自身で自分の問題とその解決法を発見することが大事なので,患者と二人三脚で進む治療者は,その発見の手助けをするということに尽きます。ジュディスは,インタビューの中で,治療者がガイドのような積極的な役割をするということについて「彼女(患者)は重度のうつ病であり,どうやって病気を治していけばいいのかわかっていません。彼女の問題に耳を傾け,そこで起こっていることを概念化することにより,私にはどの方向に進めていくべきかがわかってきます。どの介入方法が成功するかなどということは前もってわかりません。しかし少なくとも私は,心の中に進め方の計画を用意します」と語っています。

患者が自身の不安について別の解釈を見いだすシーン。2人の表情も笑顔に変わった。(DVD+BOOK『Beck&Beckの認知行動療法ライブセッション』

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