医学界新聞

2009.04.27

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


IIcがわかる80例
早期胃癌診断のエッセンス

中野 浩 著

《評 者》杉野 吉則(慶大大学院准教授・消化管画像診断学/慶大病院 予防医療センター)

病変を正確に抽出した美しいX線画像の数々

 最近,消化管画像診断の総本山といえる早期胃癌研究会においても,読影するに値するようなX線画像が提示される症例は少なくなった。呈示されるX線写真で病変の部位や形状がわかるのはよいほうで,ほとんど写っていないこともある。時にはX線検査が行われていない症例も提示され,私どもにとってはさびしい限りである。

 しかし,この本に載っている鮮明で美しい写真を見ていただければ,病変を的確に示現したX線画像は内視鏡に匹敵する,いやそれ以上の情報を提供してくれることがよくわかる。

 著者は,胃X線診断学を故熊倉賢二先生から学ばれて,40年間にわたって研鑽を積んでこられた。私にとってはいわば兄弟子にあたり,書評を書かせていただくのは畏れ多い存在である。

 本書を開いた第一印象は,中野先生には失礼であるが,ほぼ全例,私が自分で検査した症例のように錯覚したことである。つまり,長年にわたって熊倉先生から学ばれた撮影法で,病変を正確に描出されており,まさに,私が撮影しようと頭に描いている画像ばかりである。それも,細部にわたってきっちりと撮影されているので,今後は,私も精密検査の前後に必ず開けてみるために,常に手元に置いておきたい本である。序にも書かれているように,本書は読むのではなく,時間をかけてじっくりと観るべきである。無駄な説明はなく,「本物」のX線画像が肉眼標本や病理組織の所見を忠実に表していることを実感し,学んでほしい。

 画像はほとんどが二重造影像であるが,二重造影法の基本は,まず,適度の伸展度で造影剤を粘膜面によく付着させること,次に病変を正面像としてとらえることである。その際,できるだけ病変を水平位でかつフィルム(あるいは検出器)と並行にする。さらに,病変が陥凹であれば,そこに造影剤をためて,その輪郭や深さを表す。

 また隆起や粘膜襞については造影剤を周囲にためて輪郭などを表すことによって,病変を表現する。すなわち,熊倉先生のいう二重造影-IIである。本書では,IIc56症例,スキルス14症例,MALTリンパ腫など10症例,さらに参考症例約20例のほぼすべてについて,陥凹部に造影剤がきっちりとためられているので,IIcの形状や輪郭における不整さとはどのようなものであるかよく理解できる。また,隆起については周囲に造影剤をためることにより輪郭の性状,頂部の粘膜の様相がよく表現されている。さらに,IIcの周囲の粘膜襞やスキルスの粘膜襞については,襞間に造影剤をためることや伸展性を変えることより,どのような所見を異常とするのかを,本書をじっくりと読むことで,しっかりと学んでほしい。

 最初にも述べたが,本物のIIcのX線画像とはどのようなものであるかがよくわかるので,消化管X線診断に携わる方や,これから志している方はもちろんのこと,胃の検査は内視鏡で十分と考えている方にもぜひ,お薦めしたい。

B5・頁212 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00642-2


尿路結石症のすべて

日本尿路結石症学会 編
医学書院 発売

《評 者》伊藤 晴夫(千葉大名誉教授)

新しい知見に満ちた尿路結石症診療の書

 日本尿路結石症学会理事長の郡健二郎教授が編集された『尿路結石症のすべて』を読んだ感想を述べる。

 まず,郡健二郎教授の序文に感銘を受けた。尿路結石に関する3つのエポックメイキングな出来事を述べておられるが,その通りだと思う。また,病態の研究については,先生の主導される分子メカニズムが解明されようとしていることは刺激的なことである。

 本書は,総説,診断,治療,尿路結石の成因,尿路結石の形成機序,尿路結石モデル動物,尿路結石における基礎研究手法という7章および13編よりなるCoffee break欄より構成される。また,執筆者は総計79名と驚くべき数であり,それぞれの方が専門分野を分担している。

 以上の7つの章は,みな新しい知見に満ちていて参考になる。治療の章で感じるのは結石の除去法が,以前とまったく異なってきたことである。郡教授が挙げた3つ目のエポックメイキングな出来事はESWL(体外衝撃波結石破砕術)である。これは,まさに結石の治療法を変えたということで革命的なことであった。私たちが若いころは結石の開腹手術が泌尿器科手術の中で最も多い手術だった。今日では内視鏡治療とESWLが取って代わったが,内視鏡手術は結石治療を契機に進歩したことを心に留めたい。また,尿路結石が生活習慣病の一種だということは,日本では井口正典先生をはじめ多くの研究者に言われていたことだが,はっきりとその因果関係が明らかになりつつあることは素晴らしいことだと思う。

 この本の特徴は,尿路結石の成因,尿路結石の形成機序,尿路結石モデル動物,尿路結石における基礎研究手法,という章立てからもわかるように研究に関して特に力を入れていることである。特に,尿路結石モデル動物,基礎的研究手法はこれから結石の研究を始める人にとっては極めて有用であると考える。これは,尿路結石学会が中心となって作製されたことから当然といえば当然だが,郡健二郎教授を始め尿路結石学会の執行部の皆さまの強い希望が反映しているのだと思う。最近は泌尿器科領域では,前立腺がんなどの悪性腫瘍や排尿機能に研究が集中しているが,尿路結石についてもさらに研究が深まってゆくことを期待したい。本書がその引き金になってくれればありがたい。

 また,最後のCoffee break欄も興味深く読ませていただいた。小生にとり特に懐かしく思ったのは,小出卓生先生の「尿の保存法」であった。先生は尿の保存のために種々な防腐剤のうちで,sodium azideを使用されていたとのことである。小生がシカゴ大学のFL Coe教授の研究室で実験したときにも同じものを使っていた。小出先生とCoe先生という日米の傑出した研究者が同じ結論に達していたのは感慨深い気がする。

 この単行書が日本の尿路結石診療に役立ち,さらには結石研究を盛んにする契機となることを期待する。

B5・頁228 定価6,300円(税5%込)
ISBN978-4-260-70061-0


作業療法がわかる
COPM・AMPSスターティングガイド

吉川 ひろみ 著

《評 者》辻 薫(大阪発達総合療育センターリハビリテーション部)

オーダーメードの作業療法を実現する

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