医学界新聞

2009.04.06

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


緩和ケアエッセンシャルドラッグ

恒藤 暁,岡本 禎晃 著

《評 者》渡邊 正(公立学校共済組合東海中央病院院長)

緩和ケアの知識が詰まった小さな巨人

 診療中にすぐ参照できるように,手の平に乗るような小型サイズでありながら,緩和ケアに関する専門的・実践的知識がぎっしりと詰まった本書は,私には小さな巨人に例えることができると思われた。それは本書が,次の3つの特徴を持っているからと思われる。(1)従来の小型版のほとんどが疼痛コントロールに限られているのに対し,緩和ケアで遭遇する多くの症状が網羅されていること。(2)著者の長年の経験から得られた臨床上のノウハウが随所にみられ,本書に息を吹き込んでいるばかりでなく,実践的で有用な知識を提供していること。(3)緩和ケアの本質である全人的ケアの観点が貫かれていること。以上の3点である。

 さて本書は,総論として症状マネジメントの原則と概説,各論として緩和ケアで用いられるエッセンシャルドラッグの解説から構成されている。先にタイトルにもなっているエッセンシャルドラッグであるが,世界保健機関(WHO)が国際ホスピス緩和ケア協会(IAHPC)に依頼して作成されたもので,そのリストは2006年の『Palliative Medicine』(Vol20, p647-651)に公表されている。リストの作成に当たっては,緩和ケアで多くみられる症状を特定したあと,デルファイ法を用いて薬剤の効果,安全性,経済性などを検討し,必須薬として33剤を決定している。

 しかし薬剤に関する説明はほとんど省略されているため,著者はこれらの必須薬をもとにわが国の実情に即して約50種類の薬剤を厳選した上で,各薬剤の用法,副作用,相互作用などについて詳細な解説を行っている。

 総論の症状マネジメントの原則と概説では,がん性疼痛から始まり鎮静に至るまで,緩和ケアで遭遇する主な症状を18項目取り上げている。各項目は,概念,原因,方針,マネジメント,ケア,薬物療法などから成っているが,著者の長年の臨床経験をもとにケアに関する行き届いた記載があり,薬物療法とともに基本的なケアをしっかり行うことの重要性を強調している。

 著者の長年の経験はエッセンシャルドラッグの解説にも表れていて,薬剤使用の留意点が実際に即して書かれた「ポイント」の項は,診療にあたって大変役に立つと思われる。

 がん対策基本法のなかで,緩和ケアの普及はがん治療の均てん化を進める上で重要な施策になっている。そのことはもちろん望ましいことであるが,緩和ケアが症状コントロールに矮小化されないように,緩和ケアの本来の意味や目標も含めて普及することが望まれる。

 著者は,「序:本書の目的」のなかで,「緩和ケアでは全人的苦痛(total pain)からの開放が中核である」,また「症状マネジメントは緩和ケア実践の手段であり,緩和ケアのめざすものはより広くて深いものである」とも述べ,症状コントロールの位置付けを明確にしている。そして薬物療法は“両刃の剣”という側面があるため,患者のQOLの向上には,効果だけでなく副作用にも十分注意した適正な薬剤の使用を常に心がけるように読者に配慮を求めている。

 緩和ケアが急速に普及するなかで,本書はタイムリーに発刊されただけでなく,緩和ケアの本来のあり方を理論的,実践的に広めていく上で,日常診療の友としてぜひ手元に置いて参照していただきたい。

その他・頁288 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00588-3


リウマチ病診療ビジュアルテキスト 第2版

上野 征夫 著

《評 者》松村 理司(洛和会音羽病院院長)

病歴と身体診察をベースとしたリウマチ病診察の書が改訂

 今,至福の時を迎えている。週末のほぼ丸2日間を,上野征夫先生の単独著『リウマチ病診療ビジュアルテキスト(第2版)』の味読に割けているからだ。著者御本人から直々にいただいて数か月にもなるのだが,書評のための通読のまとまった時間を捻出できなかったのには,生来の怠惰以外の理由もある。昨今の病院長にとっての二大課題,勤務医の安定雇用と医療事故対策に評者も思い切りとらわれているからである。言い訳はともかく,好調な売れ行きと聞くのは,誠に慶賀にたえない。

 第2版の改正点の第1は,「あれ,結節性多発動脈炎は?顕微鏡的多発血管炎は?……」といった初版時の問いに対する回答である。つまり,血管炎の章の増設である。その他の大幅な追加項目として,血清反応陰性脊椎関節症,感染性関節炎,随伴性のリウマチなどがある。おかげで2倍近い厚さになっている。

 第2は,日進月歩の医学に見合った増補であり,リウマチ病の生物学的製剤などが挙げられる。第3は小さいことかもしれないが,膠原病という用語が一切除かれたことである。理由は,「強皮症以外,collagen diseaseにコラーゲンの異常は見られない」という米国での30年前の指摘に基づくとの由。なお,文部科学省からの「医学教育モデル・コア・カリキュラム――教育内容ガイドライン」(平成19年度改訂版)の索引には,リウマチ病はなく,膠原病や膠原病類縁疾患はある。第4に,顔写真に目隠しが入ったことである。第5の違いは,出来栄えには関係ないが,手書きではなく,ワープロが使われたことである。

 初版から一貫した特徴の第1は,図や絵やカラー写真の豊富さである。紙の質も実に高く,定価も許容範囲である。

 特徴の第2は,簡潔明瞭で,歯切れがよい記述が継続されていることである。第3には,「リウマチ病の診断は,“病歴と身体診察”に90%以上頼っている」という著者の信念が,心地よい通奏低音になっていることである。診断推論の基本に“病歴と身体診察”を置く評者のような一般医には,練達の専門医の確信は実に心強い。

 洛和会音羽病院では,何年にもわたり,東京在住の上野先生に月2回教育指導に来ていただいている。月に一度開かれる「京都GIMカンファレンス」の熱心な参加者でもある。招聘“大リーガー医”のこよなき話し相手になってもらってもいる。

 日本人初の米国リウマチ専門医である上野先生は,留学から帰国後の30年間のほとんどずっと「フリーランスのコンサルタントリウマチ医」を貫かれている。医局講座制と完全に縁がなかったわけではないが,特定の医療機関における雑務や昇進とは無縁であった。「天から降るがごとく」教えを受けられた米国留学と帰国後の生涯現役の生き方が,本書を生み出す原動力となっている。「立ち去り型サボタージュ」に病む昨今の日本の病院勤務のありように,突き付けるものは重い。

B5・頁416 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00445-9


消化管の病理学 第2版

藤盛 孝博 著

《評 者》竹本 忠良(日本消化器病学会名誉会長/山口大名誉教授)

“Festina lente”(ゆっくり急げ)
簡明で画像が豊富な消化管病理学の傑作

 藤盛孝博著『消化管の病理学』の刊行のいきさつは,2つの序に詳しい。ついFestina lente(ゆっくり急げ)という名言を思い出す。この格言,ギリシア語Speude brodeosをエラスムスがラテン語化したと伝えられている。筆者は,フランソワ・ラブレー作(渡辺一夫訳)『第一之書 ガルガンチュワ物語』(岩波文庫1973)で,この「悠々と急げ(Festina lente)」を学んだ。今年,文庫化された柳沼重剛の『語学者の散歩道』には,どこに向かって急ぐのか自分が納得できる「区切り」といい,「楽しみつつ区切りをつけよ」と理解している(岩波現代文庫,48頁)。

 藤盛氏の本は,好評のうちに,改版できる「区切り」に達した。初版に,「この本の初期・中期の経緯」と表現したが,獨協医科大学の人体病理を担当して,さほど年月をおかないとき,長廻紘氏と企画したテーマ“内視鏡医に必要な病理学の基本”がついに中断し,「燃えつき症候群」に近い心情さえ味わったらしいだけに,感慨も深いだろう。

 単独執筆と決まっても,消化管全体にわたって,内視鏡像まで含めて諸資料を整えることに,さぞ苦労しただろう。その努力が報いられ,この本が狙いとした「消化管臨床医が日常臨床で臨床画像とマクロ・ミクロを含めた病理所見との対比を行う際に役に立つようにコンパクトに提示した」ことに成功している。

 この“簡明消化管病理学”は図譜という形容を付けてもよい好著だが,この定価で出版されたことに,医学書院の意気込みも現れている。消化管全体に関心を持っていて,筆が立つ病理学者は意外に少ないのかもしれない。

 まず,症例の収集と選別が本書の大きな要素だから資料提供施設も見てみたが,出身の神戸大学に連なる関西は別にして,獨協医科大学に勤務12年にして,関東の研究フィールドをよくも育てたと感心している。筆者は,内視鏡の師・近藤台五郎先生までつながる研究会の木曜会(会長・寺野彰獨協医科大学学長)に参加して,藤盛氏の懇切な病理所見の解説を知っている。だから,諸施設も喜んで,内視鏡写真・病理材料を提供して,本書の刊行に協力した。

 気障だが,世阿弥『風姿花伝』の言葉を,馬場あき子『古典を読む風姿花伝』(岩波現代文庫2003)を参照しながら引用しておく。それは,「年来稽古条々・四十四五」にある「天下に許され,能に得法したりとも,それにつきても,よき脇の為手を持つべし」云々がある。馬場は「天下に許された名手といえども,すぐれた『脇の為手』たる達者な助演者が必要だ」としたが,「脇の為手」をツレまでも含む助演者集団を擁することの必要性を説いたと考えている(40頁)。本書の狙いを貫くために,獨協医科大学消化器内科,東京女子医科大学外科ほか,助演者諸集団から擁護宣しきを得たことは幸いであった。

 ちょうどMedical Tribune(2008年8月7日号)が「2007年9月,医道審議会で病理診断科が診療科名として認められ,今年4月から実施されている」ことを報じたばかりだ。...

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