MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2009.02.09
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


姫井 昭男 著
《評 者》今井 必生(神戸市立医療センター中央市民病院 精神科レジデント)
「やさしく」「わかりやすく」にかける著者の情熱
精神科の薬の本で,これほど目に優しく,読みやすいものは見たことがありません。
それぞれのページにはゆったりとスペースがとられており,文字も程よく大きく,権威的な威圧感がありません。随所にイラストも取り入れられています。文字を読むのに疲れるころにイラストが現れるので,頭を休めながら読み進めることができます。著者がやや高度と考えた項目(例えば薬理的作用機序など)は独立したページに小さなフォントで説明されており,大雑把に読むときには簡単にとばし読みすることができるし,逆に,詳しい説明を読みたいときにはすぐにそのページを参照することができます。
しかし,読みやすさという点で本書が優れていると感じるのは,レイアウトだけではありません。
精神科の薬物の書物といえば,権威ある医師が独断により執筆しているものがほとんどです。そういった本には情報がたくさん詰め込まれていて,私などは「これ一冊読めるかな」と臆してしまうことが多々あります。また,そうした本の文章は,小説のようにリラックスして読むような雰囲気とは違い,緊張感を感じさせる博物館のような雰囲気を持っているように感じてしまうこともありました。しかし本書は,著者の周りで働いている医師や精神科ソーシャルワーカーの目を通して文面が練り直されているためでしょう,医師の視点だけではつくりあげられなかったであろう視点やポイント,そして「読む人にわかるように書く」という配慮にあふれています。文体も「です,ます調」で表現され,自分が語る早さで情報をかみしめることができます。勤務が終わってから本書を読み進めましたが,寝る前にいつの間にか読了していました。本書はそのような本です。
前書きには,読者対象として「当事者」も意識されていることが書かれていますが,当事者も含め,多くの人に読みやすい本にしようとする今回の試みは成功しているように思います。対象となる読者層も広がるのではないでしょうか。私のような研修医の立場からしても,高度な知識を一般の方にいかにわかりやすく説明するかを知る術としても,本書の文章は参考になるところが多いと感じました。
では,自然に読者を引き込む本書は,どのような内容を伝えているのでしょうか。実は意外に幅広い内容を網羅しています。イオンチャンネルレベルでの薬剤の働きから,看護上での注意など,なぜこのゆとりをもった体裁でここまで取り入れることができるのかと驚きました。
しかしここまでくると,読み手として本書に対して「もっとこうしてほしい」という欲も出てきます。
1つは,「著者の経験」としての話題と,「広く受け入れられたスタンダードな知識」を明確に区別してほしいということがあります。本書は著者の豊富な経験が盛り込まれている点が特徴の一つなのですが,それが著者の経験なのか,一般的知識なのか,入門者にとっては区別しづらい部分がありました。その意味で,データが存在する部分については巻末に参考文献を掲載してもらえたほうがありがたいと思います。また,より深く勉強したい人のための書籍などの指針もいただけたらと感じました。
2つ目に,細かい点になりますが,抗不安薬や気分安定薬がそれぞれ個別の章で説明されるのではなく,「その他の精神病治療薬」のなかにこぢんまりと付け加えられている感じがしました。特に気分安定薬などは,最近の双極性障害の概念の広がりを考えると重要な薬剤になってくるので,もう少しボリュームを割いて解説してほしかったです。
いずれにしても,本書は難解と思われている精神科治療薬を,“広く,深く,優しく”,紹介してくれる優れた水先案内人です。今後,本書が版を重ね,入門者をさらに精神科の森の奥深くへと誘うよきガイドとなることを期待しています。
A5・頁208 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00763-4


柴田 実,八橋 弘,石川 哲也 編
《評 者》井廻 道夫(昭和大教授・消化器内科学)
肝疾患診療での必要十分な情報をコンパクトに提供
このマニュアルは研修医,レジデントの教育に病院で直接携わってこられた若手,中堅の肝臓専門医,指導医の執筆による肝疾患診療マニュアルである。初版は2004年で多くの医師に利用されたと聞くが,この4年間の肝疾患診療の進歩をもとに改訂された最新の肝疾患診療マニュアルといえる。
情報過多のこの時代に,多忙な医師に求められる本はたくさんの情報の詰まっている厚い本ではなく,必要かつ十分な内容を一読できる,コンパクトな本である。ただ,あまりにも簡略化を図るため,十分な内容が含まれない本も最近多々認められるのは残念である。
本マニュアルは肝疾患患者の診療に豊富な経験を有する肝臓専門医,指導医の執筆によるマニュアル本だけに,必要かつ十分な内容は担保されている。また,肝疾患診療におけるちょっとしたコツもメモとして随所に書かれ,研修医,レジデントには大いに参考になることであろう。もう少し簡略に記載したほうがよいのではと思う箇所もあるが,内容を十分にするためにやむを得なかったのかもしれない。
最近の医療の進歩はすさまじく,このマニュアルではどの程度までこれらをカバーできているか興味があったが,さすがこの執筆者の面々ではこの点はまったく問題なかった。さらに,「役に立つサイトの紹介」を参考に,このマニュアル以降の新しい治療法の導入あるいは診療指針の変更もフォロー可能であるし,また,詳細な情報を得ることもでき,このマニュアルの出版以降についても配慮してある。
上記のように,この肝疾患レジデントマニュアルは肝疾患患者を診療する上での必要かつ十分な情報をコンパクトに提供しており,肝疾患患者の診療において研修医,レジデントには非常に有用と考える。さらに,日常診療で肝疾患患者を診ておられる先生にも十分にお役に立てるコンパクトな本であると考える。
B6変・頁456 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00640-8


ローレンス・ティアニー,松村 正巳 著
《評 者》亀井 徹正(茅ヶ崎徳洲会総合病院・院長)
鑑別診断の森の中で迷子にならないために
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