医学界新聞

2009.02.02

すこやかに生きるエビデンスとは

第43回日本成人病(生活習慣病)学会開催


 第43回日本成人病(生活習慣病)学会が1月10-11日,岩本俊彦会長(東医大)のもと,「21世紀をすこやかに生きるために」をメインテーマに,都市センターホテル(東京都千代田区)において開催された。2007年がん対策基本法の施行,2008年特定健康診査・特定保健指導開始など,生活習慣病への国をあげた政策が進められるなか,研究等で得られたエビデンスをいかに社会に還元していくか,活発な議論が交わされた。


肺癌におけるテーラーメイド型医療の実現はもう間近

 Meet the Expert「肺癌 最新の話題」では,加藤治文氏(国際医療福祉大,新座志木中央総合病院)が,わが国の肺癌罹患数は数年以内に10万人を超えようとしており,早急な対策が必要だと指摘。近年新しい治療法の開発などにより,早期発見・早期治療であれば高い治癒率を望めるようになったものの,早期でないものについての治療成績ははかばかしくないとし,今後いかに治療成績を上げていくかが課題であると述べた。また,国民は安全,低侵襲,適切な治療を望んでいると述べ,これをかなえるための努力が必要だと強調。これらを踏まえ,肺癌をめぐる今日の状況について,解説した。

 はじめに,UICC(国際対がん連合)がまもなく肺癌の新しいステージングを発表することを紹介。これは,世界各国の症例データをもとに作成されており,日本からも約1万3000例が提出されたという。新しいステージングは,腫瘍の大きさによって細かく分類されているのが特徴で,従来のステージングとはかなり異なるとした。

 肺癌の発見方法については,現在喀痰細胞診やCT検診などが用いられている。CTによる肺癌検診は,1990年代初めから日本で開始され,ごく初期の癌の発見が可能になったものの,あまりに小さく気管支鏡等で見つけることのできない“見えない肺癌”の問題が出現。正確な局在診断ができないため,正常な肺組織も含む大きな範囲を切除せざるを得ないという状況が出てきた。その局所診断を可能にしたのが蛍光内視鏡,光干渉断層(OCT)などの新しい技術だ。氏は代謝が非常に早いレザフィリン(腫瘍親和性のある光感受性物質)を投与すると,癌にレザフィリンが集まり,レーザーを当てると赤く光るという,局所診断法を紹介した。また,浸潤についても,自家蛍光法を用いることで診断が可能になり,癌を発見したらその場でレーザーによる切除を行うなど,短時間で侵襲性の低い治療も可能になったと解説した。

 腫瘍細胞そのものや,癌の進行に関連する宿主をターゲットとした分子標的治療薬の開発,遺伝子,タンパク,代謝産物の解析なども,新たな治療法として世界中で注目されている。中でもタンパク解析については,予後を事前に予測する因子が明らかになるなど,術後化学療法の選択における有用性もわかってきたという。

 例えば,第Ⅰ期の腺癌では,経口抗がん剤であるUFT(テガフール・ウラシル)の服用が標準的治療とされているが,氏らの研究によると,ミオシンとビメンチンというタンパクが少ない人は,UFTを服用しないでも全員が5年生存しており,両方のタンパクが多い人は,UFTを服用した場合の5年生存率は50%,服用しなかった場合は31%であったという。両方のタンパクが出ていない人の割合は約1割とされるが,氏は,タンパク解析によって無駄な治療を避けることができると述べた。さらに,リンパ節郭清についても,転移に関係するタンパクを解析することで,必要のない郭清を防ぐことができるとした。

 最後に,現在の肺癌治療は適切な治療に向けて日々進歩しており,今後のテーラーメイド治療の可能性を示唆し,講演を終えた。

癌を予防する生活習慣とは

 シンポジウム「生活習慣病と癌――リスクとその管理」(座長=せんぽ東京高輪病院・戸田剛太郎氏,昭和大豊洲病院・熊谷一秀氏)では,食事,喫煙,飲酒,紫外線という4つの生活習慣が引き起こす癌と,その要因,予防法などが議論された。

 食事と癌の関係については,新聞やテレビなどにもよく取り上げられ,一時的なブームを巻き起こすこともある。こういった風潮について津金昌一郎氏(国立がんセンター)は,ある要因と癌発生との因果関係の有無を証明するのは単独の研究では不可能だと警鐘を鳴らした。その上で,疫学研究や基礎研究などを積み重ねて得られたエビデンスを癌予防の実践につなげることの重要性を指摘した。

 喫煙と癌の因果関係については周知の事実であるが,浜島信之氏(名大大学院)は,タバコ煙に含まれる発癌性化学物質に対する感受性を,遺伝子型から分析。遺伝子型を知ることによって禁煙行動につながると仮定し実施した研究について解説した。氏らは,(1)発癌物質を活性化する,(2)解毒力が弱い,(3)GSTμがつくられない,(4)GSTθがつくられない,という発癌の危険が高い遺伝子型を持つ喫煙者に禁煙の動機付けとして提示。しかし意外にも,これまでに実施した8回の調査における禁煙率は10%に満たない場合が多く,その有用性を高めるための工夫が必要だと結論づけた。

 飲酒は摂取量によっては心筋梗塞や脳梗塞のリスクを抑える効果などがあり,喫煙などと違って制限の動機付けが難しいとされる。しかしWHOは2007年に,飲酒はさまざまな癌の原因となり,エタノール自体に発癌性があり,アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の欠損者では,アセトアルデヒドが食道発癌に寄与すると結論付けている。横山顕氏(久里浜アルコール症センター)はこれを踏まえ,「現在,ビールコップ1杯程度の少量の飲酒で,すぐ顔が赤くなる体質があるか?」「飲酒を始めたころの1-2年間は,ビールコップ1杯程度の少量飲酒で,すぐ顔が赤くなる体質があったか?」という質問により,ALDH2欠損者を約9割の精度で判別できるという研究結果を提示。これに飲酒・喫煙・食習慣を加えた簡単な質問紙法を用いた発癌の高危険群の特定により,食道癌検診などに活用できるのではないかと示唆した。

 日本人は白人と比較して,紫外線による皮膚癌の発生リスクは低いといわれているものの,わが国でも近年罹患者が増加しているとされる。これについて上出良一氏(慈恵医大)は,紫外線発癌は長い潜伏期間を有しており,最も大きな要因はわが国の高齢化であると述べた。一方で,露出部の皮膚癌も増加しており,衣類やサンスクリーンなどによる小児期からの紫外線防御の必要性を訴えた。ただ,有棘細胞癌や基底細胞癌,メラノーマなどと紫外線曝露の因果関係については,日本人においてはいまだ明らかになっておらず,サンスクリーンなどによる紫外線防御についても,十分な調査がないためにエビデンスとはなり得ていないと解説し,今後の課題が浮き彫りとなった。

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