医学界新聞

連載

2009.01.12

小児科診療の
フレームワーク

Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の
「KLRモデル」に基づき,小児科診療の基本的な共通言語を共有しよう!

【第1回】「小児科医はどんなことしてるの?」

土畠智幸
(手稲渓仁会病院・小児NIVセンター長)


小児科は「重症度判定学」

 最近,小児科は暗い話題が多いですね。仕事がキツイ,夜中も呼び出される,人手が足りない――などなど,マイナスのイメージが先行してしまっている気がします。当の小児科医たちはどう考えているのでしょうか。少なくとも,僕の周りの小児科医の多くは,「小児科医になってよかった」と言って楽しく働いています。市中病院の一般小児科医として働いている立場で,小児科医の仕事について考えてみたいと思います。

 例えば,内科であれば患者さんの症状や身体所見から鑑別診断のリストを作り,血液検査や画像検査によって診断を確定するという,「診断学」が主な仕事になるでしょう。外科であれば,すでに診断がついている患者さんに対して手術などの外科的治療を行う,「治療学」がメインになるのではないでしょうか。

 一方小児科は,皆さんがかかわることの多い救急外来での小児診療ということについて考えてみると,診断をつけるのは,多くの場合それほど難しいことではありません。また,治療もある程度決まっているので,それほど悩むこともありません(もちろん,一般小児科では,という意味ですが)。

 もっとも重要かつ難しいのは,診断がついた後の「帰宅させてよいのか?」「それとも入院が必要なのか?」という,“重症度判定学”ということになると思います。

 図で考えてみると,例えば診断(Diagnosis)が「細菌性肺炎」であれば,治療(Treatment)は「抗菌薬」になるわけですが,Diagnosisが「気管支喘息発作」であった場合,重症度(Severity)を判断する必要があり,ケア(Management)としては,軽症であれば吸入のみ,中等症であれば「入院の上でステロイドの注射」,重症であれば「ICU入室の上で人工呼吸管理」となるわけです。また,小児の場合はDiagnosisが「肺炎」であっても,合併症(Complication)として「経口摂取ができずに中等症の脱水がある」ということになれば,肺炎自体では入院適応がなくても,Managementとしては「入院の上で中等症の脱水に対して点滴が必要」ということもあります。

 小児科では,重症度を「軽症・中等症・重症」の3つに分けて考えます。「軽症」は,帰宅させてもよく,外来フォローが可能なレベルです。「中等症」は,即入院を必要とする,あるいは外来治療で改善しなければ入院を要するレベルです。「重症」は,言うまでもなく,緊急の対処を要する状態ですね。

 この中で,実は「重症」を見分けるのはそれほど難しいことではありません。新生児・乳児を除き,多くの場合それが明らかであるからです。全身状態が著しく不良,意識障害がある,バイタルサインに異常がある,などの場合は,「重症」である可能性が高く,あとは入院させてManagementを行うだけです。ここで,「新生児・乳児を除き」と書いたのは,この年齢層では,全身状態・意識状態を判断するのが非常に難しいからです。当院の救急外来でも,1歳未満は小児科医がファーストコールになっています。この中でも,特に3か月未満は判断が非常に難しいので,小児科医が診察するのが望ましいと考えます。

 小児科の「重症度判定学」の中でもっとも難しいのは,「軽症」と「中等症」の判断です。つまり,「帰宅させてよいのか? それとも入院が必要か?」ということですね。本連載では,救急外来でよく診る小児の症状・疾患について,「軽症」と「中等症」をいかに見分けるか,ということをテーマに書いていきたいと思います。

胎児から成人まで,院内から地域まで

 一方,救急外来以外に目を向けてみると,小児科医の仕事というのは非常に広いフィールドにわたっているのが特徴です。時系列で言えば,お母さんのお腹の中から始まります。出産に際してリスクのある場合,産科医との連携が重要になります。最近は胎児診断などもかなり進歩しており,先天性心疾患などでは,お腹の中で子どもの診断がすでについており,出生後すぐに治療が始まる,ということもあります。また,言うまでもなく,新生児医療というのは小児科医の仕事の中でも非常に大きな部分です。僕自身も研修医時代,初めて新生児を診ることになったとき,それまでの一般小児医療の内容とあまりにも違っていてびっくりしたのを覚えています。一般の小児診療としては,通常15歳,あるいは18歳で区切っているところが多いと思われますが,慢性疾患を持つ患者さんの場合は例外です。一般的に「キャリーオーバー」と呼ばれますが,このような場合,内科医との連携が重要となります。

 重症度について見ると,乳児健診や予防接種などの予防医学的なところから,集中治療室での重症患者管理まで,非常に広範囲にわたります。集中治療室で患者さんを診た直後に,外来に行って健診を行う,ということもよくあります。サブスペシャリティーを持っても,プライマリケアにかかわり続ける,というのが特徴でしょう。僕の場合は,重度の障害を持った患者さんを診ているのですが,普段往診で診ている患者さんを,集中治療室で診る,というようなこともよくあります。

 活動の範囲も,院内だけでも小児病棟・外来,新生児室,救急外来,集中治療室と幅広く,それに加え地域での活動も重要になります。園医・校医としての診療,近隣の産院での健診,地域や養護学校での講演など,「子どもの健康を守る」ための業務は多岐にわたっています。また,小児科においては治療内容の説明などは両親を中心としたご家族に対して行うため,必然的に家族全員とかかわることになります。

 以上のように,対象となる疾患,患者層,活動範囲が非常に広いということから,病態の重症度がそれほど高くない場合でも,そのManagementが非常に複雑になってしまうことがあり,研修医や若い小児科医が悩んでしまうことがあります。「自分は今,何がわかっていないのか,どこで悩んでいるのか」ということを明確にする上で,役に立つフレームワークがあります。第2回は,その「KLRモデル」について説明していきます。第3回以降は,救急外来でよく診る症状・疾患に対するアプローチについて書いていきたいと思います。少しの間の連載になりますが,よろしくお付き合いください。

■COLUMN 基礎医学のすすめ

当院の小児科には,年間を通してたくさんの医学生が見学に来ます。彼らの質問でもっとも多いものが,「今のうちに勉強しておいたほうがよいことは何ですか?」というものです。僕は迷わず,「基礎医学」と答えています。医学部高学年になると,臨床実習があったり,国家試験のことが気になったりして,どうしても臨床医学の勉強にかける時間が長くなってしまいます。臨床は,卒業してからもずっと勉強しなければなりません。しかし,医者になってから基礎医学を勉強し直すのはなかなか大変です。臨床医学の内容は,数年でその多くが古い知識になってしまいますが,基礎医学の知識はいったん身につけると長い間役に立ちます。「この先生はすごいなあー」と思う先生は,経験のみによらず,基礎医学の知識をもとに,論理的に診療を行っている先生が多いように思います。特に小児科は,既往歴が少なく薬を使用していることも少ないので,基礎医学で説明できることが多いのです。アメリカの国家試験の基礎医学(USMLE Step1)の問題集を使うとよいですよ。特に,生理学はすべての基礎になるので,しっかり勉強しましょう。

つづく


土畠智幸
2003年北大医学部卒。同年から06年まで手稲渓仁会病院小児科研修医。06年より同小児科スタッフ。08年同院小児NIVセンター長。小児科では,臨床研修委員として研修医の教育を担当。同院に研修に来た留学生のホームステイ先として自宅を開放している。同じく小児科医の妻と娘3人。

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