医学界新聞

2008.12.08

第22回日本臨床内科医学会サテライトセミナーの話題から

亜鉛と疾患の密接な関係


 亜鉛欠乏に関して,褥瘡,脱毛,味覚異常,食欲不振との関係は知られており,高齢者の栄養管理の面で,中心静脈栄養や経管栄養が増加したこともあり,亜鉛欠乏症が近年注目されている。

 本紙では,さる9月14日,長崎ブリックホール(長崎県長崎市)にて行われた第22回日本臨床内科医学会サテライトセミナー「亜鉛と疾患の密接な関係――基礎から臨床まで」(座長=小江原中央病院理事長・今西建夫氏,共催:ゼリア新薬工業株式会社)のもようを報告する。


 柳澤裕之氏(東京慈恵会医科大学環境保健医学講座)は,「知られざる国民病――亜鉛欠乏症:老化促進要因としての亜鉛欠乏症」と題し講演。生活習慣病や老化には微量元素の欠乏が深くかかわっており,中でも亜鉛は,摂取不足や吸収障害により,その欠乏症や予備軍が増加し,国民病となりつつあるという。それを踏まえ,亜鉛と酸化ストレスについて概説し,亜鉛欠乏は老化促進要因の1つであると結論づけた。

亜鉛の役割と最近の動向

 ヒトには,亜鉛・銅・クロム・ヨウ素・コバルト・セレン・マンガン・モリブデン・鉄の9つの必須微量元素が存在する。中でも亜鉛は,約300余種の酵素の活性中心元素として働いている必須微量元素。近年,亜鉛の必要量に対する1日摂取量は不足してきており,それが生活習慣病や老化に関係していることが明らかにされつつあるという。

亜鉛摂取量の不足

 1980年代前半,米国で全国民の約5%が亜鉛欠乏と報告され,その後,欧米では約30%が亜鉛欠乏と報告された。日本では,それまではっきりした報告はなかったが,2003-05年,倉澤隆平氏(長野県東御市立みまき温泉診療所)が中心となり,血清学的に亜鉛の過不足の調査が行われ,亜鉛欠乏と推定される人が約20%,潜在的欠乏と推察される人が約10%,トータルで約30%いることがわかり,だいぶ認知されるようになってきている(NAGANO Study:2005)。しかし,柳澤氏によれば,亜鉛欠乏症の認識はまだ十分でなく,潜在的な国民病になっているという。

亜鉛欠乏による症状

 亜鉛欠乏による症状には,食欲低下,味覚低下,皮膚症状,脱毛,易感染性(免疫機能低下)などあるが,最近では,うつ状態・情緒不安定などの中枢神経症状に加え,記憶の中枢である海馬の亜鉛濃度が認知症を増悪させるとも言われている。このほか,耐糖能低下,白内障・虚血性心疾患・発癌の増加,妊娠の異常などが知られている。

亜鉛欠乏の原因

 亜鉛欠乏の原因として,古くから臨床的に知られているものに静脈栄養,経腸栄養による摂取不足がある。微量元素の添加により改善され,以前に比べ亜鉛欠乏は起こりにくくなったが,それでも3-4か月続けていると8-9割で亜鉛欠乏が起こるという。また,アルコール多飲,肝障害,腎障害,糖尿病で尿から亜鉛が排出されると過剰喪失となる。先天的な吸収障害として腸性肢端皮膚炎が有名であるが,後天的な原因では食物繊維の多量摂取,ポリリン酸ナトリウム,フィチン酸などの食品添加物摂取による吸収抑制,薬剤による吸収障害としては,キレート剤とカプトプリルなどの降圧剤を中心に約200種類が知られている。また,亜鉛に対して銅,鉄,カルシウムは吸収の段階で拮抗しあうため,サプリメントなどでそれらを含んだものを過剰に摂取すると亜鉛の吸収が抑制され,結果として亜鉛の摂取不足を招くという。加えて,若者を中心とした栄養の偏りや低含有食品(精製加工食品など)の摂取機会の増加によっても亜鉛欠乏が起こると柳澤氏は述べた。

亜鉛欠乏と老化との関係

 微量元素は生活習慣病や老化と関係しているという。生活習慣病関連疾患には,癌,動脈硬化,心筋梗塞,糖尿病,認知症,高血圧,免疫不全,味覚低下,行動異常,う歯などあるが,セレン,亜鉛,銅,クロム,リチウム,フッ素,鉄などの微量元素の欠乏によっても,生活習慣病に似た症状が出る。

表1の老化の臨床兆候のすべてに亜鉛が関係しており,亜鉛欠乏でも同様の症状が認められると柳澤氏は説明した。

表1 老化と微量元素欠乏症の臨床的類似点
老化の臨床徴候 類似している微量元素欠乏
体力,活力低下
皮膚の萎縮と脱毛
創傷治癒の遅れ
性腺機能低下
食欲低下,味覚異常
白内障
免疫能低下と易感染性
うつ状態,認知症
虚血性心疾患
自己免疫性疾患

耐糖能低下
全ての元素
亜鉛
亜鉛
亜鉛
亜鉛
亜鉛
亜鉛
,銅,セレン
亜鉛,銅
銅,セレン,亜鉛,ケイ素
亜鉛,銅,セレン
セレン,亜鉛
クロム,亜鉛

 老化の病態的背景にはフリーラジカルの上昇,免疫能の低下,血圧の上昇,脂質異常,耐糖能低下,発癌があるが,特に亜鉛欠乏は,血圧を除いてほとんど同様な病態的背景を呈することが判明してきているという。血圧に関しては,十分なエビデンスがなかったため,柳澤氏は亜鉛欠乏と血圧,臓器の老化,および疾病の重症化との関係について調査した。

 血圧,臓器の老化,疾病の重症化のいずれもフリーラジカルが関与していることから,柳澤氏は,亜鉛がフリーラジカルにどのように関係しているかを調べた。亜鉛酵素は,約300種類あるが,そのなかで特にスーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase:SOD)-フリーラジカルであるスーパーオキサイドの消去酵素-を中心に検討した。

亜鉛と血圧

 亜鉛欠乏になると血管壁におけるCu/Zn-SODの活性が低下し,その結果,血管壁におけるスーパーオキサイド産生が亢進し,パーオキシナイトライト(peroxynitrite)が形成される(NOとOO-が瞬時に非酵素的反応をして,ONOO-となる)。そのため,血管壁における血管拡張物質NOが消費されることによってNOの作用不足が生じ,血管収縮による血圧の上昇,臓器の血流の低下による腎機能低下が認められるという。柳澤氏らの実験では,正常血圧群では収縮血圧の変化はみられないが,高血圧群の亜鉛欠乏食群では,血圧が上昇することがわかった。さらに正常血圧群でも亜鉛欠乏食を継続摂取していると,血圧が少しずつ上昇するという。以上の結果から,柳澤氏は亜鉛欠乏になると血圧が上昇する=老化の病態的背景とまったく一致するとした(図)。

亜鉛と臓器の老化および疾病の重症化

 柳澤氏は疾病の重症化についても,標準食と亜鉛欠乏食で閉塞性腎症(水腎症)をモデルとし実験を行った。コントロール群に対して閉塞腎の糸球体では強力な血管収縮物質であるエンドセリンの発現が増強する。亜鉛欠乏になると,そのエンドセリンの発現がさらに増強し,エナラプリル(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)を投与すると,コントロールレベルまで下がった。

 閉塞性腎症になるとレニン-アンジオテンシンシステムが亢進してくるが,亜鉛欠乏になると,レニン-アンジオテンシンシステムがさらに亢進し,その結果として,糸球体を構築するすべての細胞(内皮細胞・上皮細胞・メサンギウム細胞)で,エンドセリン-1の発現が亢進し,糸球体の血行動態を悪化させるという。また,レニン-アンジオテンシンシステムの亢進により,間質性腎障害が起こってくるが,亜鉛欠乏になると,間質性腎障害がさらに増悪する。この間質性腎障害の悪化,糸球体血行動態の悪化の両作用により疾病が増悪すると考えられた。

 以上の結果から,亜鉛欠乏になると臓器の老化と同様に疾病の重症化が起こるという。ほかの疾病でもやはり亜鉛欠乏になると,老化と同じように臓器障害の重症化が起こってくると柳澤氏は述...

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