医学界新聞

2008.11.24

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


細胞診セルフアセスメント 増補版

坂本 穆彦,都竹 正文 編
坂本 穆彦,都竹 正文,古田 則行,星 利良 執筆

《評 者》伊藤 仁(東海大医学部附属病院病理検査技術科)

細胞検査士教育のノウハウが集結した一冊

 このたび『細胞診セルフアセスメント』増補版が刊行された。本書初版は,1998年に姉妹本である『細胞診を学ぶ人のために』第3版と同時に刊行されている。『細胞診を学ぶ人のために』の多くの読者からの要望に応えるべくして生まれた一冊である。発刊から10年が経過し,細胞診の発達とともに,新しい標本作製法や診断基準等の情報を取り入れた内容となっている。

 本書は細胞診スライド問題,細胞診学科問題の2部構成になっており,特に前者の246症例492枚にわたるカラー写真は,クオリティーがきわめて高く美麗であり,類書を圧倒する内容である。また,5肢択一の問題形式に設定されており,見開き1ページごとに,次ページに解答および症例の特徴的所見についての詳細なコメントが添えられている。細胞診の判定能力,知識のセルフアセスメント(自己評価)に適したスタイルで構成されている。内容的にも本増補版では,新しい標本作製法であるLiquid Based Cytology(LBC)やベセスダ分類についても補足されており,ベーシックななかにも,新しい情報が盛り込まれている。また,第2部の学科問題においても,新たな情報が取り入れられ,Up to dateされた内容となっている。

 本書には,日常遭遇するほとんどの症例が網羅されていると言っても過言ではない。執筆は,編集の坂本先生と都竹氏をはじめとする癌研有明病院細胞診断部の古田氏,星氏ら細胞診の第一線で活躍するスペシャリストたちである。解説は丁寧で理解しやすく,詳細な細胞所見,的確な鑑別点が記述されている。癌専門病院としての豊富な経験と細胞診創成期より40年におよび培われてきた細胞検査士教育のノウハウが集結しているといえる。細胞検査士や細胞診専門医資格を取得しようと勉強している人たちには,典型像の把握に最適の書であることは言うまでもないが,すでに資格を取得した人たちにも自己の判定能力の評価や知識の整理に役立つ一冊である。

B5・頁248 定価7,350円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00655-2


腰痛に対するモーターコントロールアプローチ
腰椎骨盤の安定性のための運動療法

齋藤 昭彦 訳

《評 者》百瀬 公人(信州大教授・理学療法学)

手垢がつくまで読み込んできた本 フルモデルチェンジ

 本書の初版である“Therapeutic Exercise for Spinal Segmental Stabilization in Low Back Pain”邦題『脊椎の分節的安定性のための運動療法――腰痛治療の科学的基礎と臨床』は,この数年,私の研究グループで手垢がつくまで読み込んできた本である。しかし,手垢がつくまで読み込んだとはいえ,広範な文献に裏付けされたその内容を,まだ完全に理解したわけではなかった。そんな状況で,第2版というべき本書が発行され,うれしいやら悲しいやらそんな心持ちである。訳者の言に,フルモデルチェンジをした第2版,あるいはまったく別の書籍としてとらえたほうがよいとある。まったくもって同感で,夏休みの宿題が終わっていないのに,冬休みの宿題を背負わされたような心境に陥っている。

 学生時代に,解剖の先生が「解剖学はこの先ずっと変わらないから,良い本を一冊購入すると一生使えるよ」とおっしゃっていた。本書を初版と比べるとまさにその通りで,解剖学の記載は変化していないが,それ以外の分野では目覚ましい研究と臨床の発展の跡がしのばれる。理学療法士にとって非常に大切な基礎学問としての運動学においても,本書の内容は,筋電図学的および超音波診断装置を用いた研究の成果を用いてその進歩を明示している。特に,超音波診断装置を評価に用い始めた功績は非常に大きい。侵襲を加えることなく深部の筋の活動を目の当たりにできる。触診の技術によって想像していた世界がまさに眼前に現れるようで,驚きと感動を受けた理学療法士は多いのではないか。筋電図学的研究と合わせて,運動学の研究分野にもたらした功績は非常に大きなものがある。

 本書の特筆すべき点は,この基礎的研究に裏打ちされた動作の解析だけではなく,同様に臨床研究に裏打ちされた臨床治療の指針を明らかにしている点である。ここでもまた,筋電図や超音波診断装置が活躍している。患者が動作を学習する過程において,解剖学,生理学,運動学の知識がない状態で目的とすることを十分に理解して再現してもらうことに苦労した理学療法士は多いのではないか。患者へのフィードバックとして,今までは筋電フィードバックが主であったが,本書に記載されているような超音波診断装置によるフィードバックも臨床に多く導入される日が近いのではないか。

 最後に,本書のすばらしい点をもう一つ紹介したい。疼痛モデルの章の中に「疼痛が先か? モーターコントロールの変化が先か?」という項目がある。治療においても「鶏が先か卵が先か?」といった命題に当たることはよくある。ここでも,筆者らは研究成果を基に考察を述べているが,同時に「この仮説は検証される必要がある」との一文もある。現段階での可能性と限界を十分客観的に捉え,自分たちのいる位置がわかっているさまは,今後の研究の発展をもたらし,また新たなる改訂版が出ることを示唆しているようである。もっとも,私はそうなる前に夏休みの宿題と冬休みの宿題を終わらせねばならないが……。

B5・頁260 定価5,880円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00312-4


組織病理カラーアトラス

坂本 穆彦,北川 昌伸,菅野 純 著

《評 者》町並 陸生(東大名誉教授・河北総合病院病理部長)

臨床医も知るべき疾患の病理組織学的裏付け

 医科大学あるいは研究所で第一線の病理医・病理学研究者として活躍する方々が自身で撮影した美しい病理組織のカラー写真が,本文383頁の本に613枚と極めて多数収録されている。ここに著者らの考えが如実に現れていると思われる。病理組織学的所見をいくら...

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