医学界新聞

対談・座談会

2008.11.10

(『総合リハビリテーション』第36巻11号より)
2008年の医療制度改革を語る

二木 立氏(日本福祉大学大学院 社会福祉学研究科教授)
石川 誠氏(医療法人社団新誠会理事長 医療法人社団輝生会理事長)
近藤 克則氏(日本福祉大学大学院 社会福祉学研究科教授)=進行


 月刊誌『総合リハビリテーション』では,2008年の医療制度改革の動き,特に後期高齢者医療制度と診療報酬改定について,鼎談を企画した。本紙では,この鼎談で議論された内容のなかから,特に「医療の質に基づく支払い」(pay for performance;以下,P4P)についての話題を抜粋して紹介する。鼎談の全文は『総合リハビリテーション』第36巻11号(2008年11月発行)に掲載されているので,ぜひご一読いただきたい。


近藤 P4Pは,マスコミなどでは「成果主義」「成功報酬」と呼ばれており,今年4月の診療報酬で,初めて回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)に導入されたと言われています。まず,全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会(以下,協議会)の会長である石川先生に,導入の背景やねらいをお話しいただきます。

P4Pがなぜ回復期リハ病棟に導入されたのか

石川 厳密には,P4Pの導入は初めてではありません。例えば2004年の診療報酬改定において,亜急性期病床で,「90日間の入院期間,6割以上の(老健を含めた)在宅復帰」という基準が示されています。ただ,今回のようにアウトカムの基準を明確にしたのは初めてだと思います。回復期リハ病棟は,「ADLを向上して自宅復帰させる」というように入院の目的が明確で,評価しやすいのです。また,回復期リハは3-4万床と少なく,医療費全体への影響が少なかったため,実験的な意味合いもあったのかもしれません。

 しかし,現在回復期リハ病棟は玉石混淆です。協議会は全体の質を上げるために,現在の配置基準の「看護3対1,介護6対1,理学療法士(PT)2名以上,作業療法士(OT)1名以上」を,「看護2.5対1,介護4対1,合わせて1.5対1」にして,さらにPTとOTを増やし,言語聴覚士(ST)とソーシャルワーカーを各1名常勤専従にする配置を設けてほしいと,厚労省に要望を出しました。つまり,人員基準が高いところは点数を高く設定し,その病棟では自宅復帰率とADLの改善度による評価を採用すべきと主張したのですが,認めてもらえませんでした。

 また今回の改定では,専従医要件(1病棟に専従医1名を配置)が廃止されました。この要件が厳しいため,回復期リハの認可が取りにくいという声が医療界からあがっていたようです。しかし,専従医を置いている病棟にとっては非常につらい改定になりました。

近藤 医療サービス研究の領域において,質を測るときに大事な指標が3つあります。今回導入された「アウトカム=治療成績」,どれだけ人手を投入するのかという「ストラクチャー=構造」,訓練量などの「プロセス」です。この3つをバランスよく評価することが重要だと言われますが,今回は,アウトカムのほうに重点が置かれたということでしょうか。

石川 厚労省は,3つの指標を合わせて評価したかったと推察します。しかし,2007年に7対1入院基本料の導入で極端な看護師不足を招き,大騒ぎになったように,回復期リハ病棟の配置基準を見直すことで,また議論が巻き起こるのを恐れたのだと思います。

二木 今回,新しい評価指標として,アウトカムについて「重症の患者の3割以上が退院時に日常生活機能が改善していること」という基準を定めました。また,先ほどの「回復期リハ病棟で実験した」という話はそのとおりで,2002年の診療報酬改定でも,それまではリハの回数制限はなかったのですが,「1人当たり合計回数の上限」をつくりました。さらに2006年には,180日上限などの算定日数上限をつくりました。

 P4P導入の本当のターゲットは療養病床だと思います。厚労省は,医療保険の対象を急性期と亜急性期の医療に純化する方向をはっきりと打ち出しています。まずリハで試行して,問題がなければ次の改定で在宅等退院率,回復度などを用いて医療療養病床をランク分けする,あるいはそれを通して医療療養病床をできるだけ介護保険施設に誘導しようとしているのです。

 国際的にみると,P4Pを入院医療で,なおかつリハに国レベルで導入したのは日本が初めてです。イギリスは外来のみ,アメリカはメディケアの試行事業を入院医療で行っていますが,評価基準をエビデンスに基づいて十分に説明できないため,リハとナーシングホームは除外されています。

 海外で使われている指標の大半は,ストラクチャーかプロセス指標です。しかも評価によりボーナスをつけているため,絶対に医療費は下がりません。あくまでも質を担保するために導入されていて,医療費は増えるか,よくて財政中立です。アウトカムの指標というと,唯一手術後の死亡率を使っているものが一部にあるぐらいです。日本の場合は,医療費抑制と結びつけたので,話がすごくこじれているのです。

 私は,P4P自体に絶対反対ではありませんが,DPCに見習って,質の担保された病院で厳格にモデル事業を行い,その後,順次に対象を広げていくべきだと思います。

P4Pの検証と今後の展望

近藤 協議会では,検証作業を始めているとのことですが,具体的にはどのようなことをされているのですか。

石川 1つは質の評価として出てきた「日常生活機能評価」です。リハ領域ではBarthel Index(以下,BI)やFunctional Independence Measure(以下,FIM)を使っていますが,「これらはどう違うのか」という議論が起こったため,協議会で「日常生活機能評価」とFIMの関係を検証しました。その結果,両者の間には互換性があるとは言い難いことがわかりました。「日常生活機能評価」は看護必要度(必要看護人員の算定ツール)なのです。ですから協議会では,BI,FIMとはそもそも視点の異なる評価であると考え,両方を調べるように主張しています。

 「日常生活機能評価」を使うことになったのは,厚労省の意図的な戦略だと思います。これまで「重症度・看護必要度」は特定集中治療室管理料とハイケアユニット入院医療管理料で使われていましたが,7対1看護に導入され,急性期病院では看護必要度のチェックが必須事項となりました。このなかのB項目が「日常生活機能評価」として回復期リハ病棟に導入されたのです。

 また介護保険の分野では,9月に開始した介護認定のモデル事業で新たな要介護度の認定調査項目となる動きがあり,そこに看護必要度の項目が入ります。つまり,急性期の「重症度・看護必要度」,回復期リハ病棟の「日常生活機能評価」,介護保険の「要介護度」がつながるのです。国は,急性期から長期・慢性期まで継続的に手のかかり具合を測りたかったのだと思います。

 それからもう1つ,協議会では毎年9月に,8-9月の2か月間の退院患者の詳細なデータを調査しています。それに「日常生活機能評価」などの項目がすべて入りますので,その結果が年明けに出てくると思います。

近藤 データで質を的確に捉えていることが確認できれば,この制度は改良されながら続いていくのでしょうか。

二木 大事なのは,これが「試行」だということです。医療には不確実性があるため,アウトカムを前面に出してしまうと,医療者側が責任を負わされます。本来,P4Pは,プロセスをきちんと管理しようというものです。現在の医療サービス研究や医療経済研究からみて,アウトカムを前面に打ち出すのは難しいと思います。

石川 回復期リハ病棟では,同じ単位数のリハを実施していても,看護・介護の質の差があれば結果は変わります。ですからアウトカムのみによる評価はなく,プロセスも重要なのです。

MEMO 医療の質に基づく支払い
 2008年4月の診療報酬改定では,「回復期リハ病棟に対する質の評価の導入」として,試行的に,居宅等への復帰率や重症患者の受入割合に着目した評価の実施が示された。[回復期リハ病棟入院料1]では,「新規入院患者のうち1割5分以上が重症患者」「退院患者のうち,転院等を除く者の割合が6割以上」,[重症患者回復病棟加算]では,「重症患者の3割以上が退院時に日常生活機能が改善していること」などが算定要件とされている。

(抜粋部分おわり)


二木 立氏
1972年東医歯大医学部卒。代々木病院リハビリテーション科科長,病棟医療部長等を経て,85年より現職。2005年より大学院委員長。主な著書に,『保健・医療・福祉複合体――全国調査と将来予測』(医学書院),『介護保険制度の総合的研究』『医療改革――危機から希望へ』(いずれも勁草書房)。

石川 誠氏
1973年群大医学部卒。佐久総合病院,虎の門病院等を経て,86年医療法人社団近森会近森病院リハビリテーション科科長,89年同院長。2000年医療法人財団新誠会理事長,02年医療法人社団輝生会理事長,初台リハビリテーション病院院長(-05年)。08年船橋市立リハビリテーション病院指定管理者代表。

近藤 克則氏
1983年千葉大医学部卒。東大医学部附属病院リハビリテーション部医員,船橋二和病院リハビリテーション科科長などを経て,97年日本福祉大助教授。University of Kent at Canterbury客員研究員を経て,03年より現職。主な著書に『「医療費抑制」の時代を超えて』(医学書院)。