MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2008.11.03
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


心臓病の診かた・聴きかた・話しかた
症例で学ぶ診断へのアプローチ
髙階 經和 著
《評 者》山科 章(東医大教授・循環器内科学)
患者との向き会い方をアタマとココロで学べる本
評者が医学部5年生のときに勉強した医学書に,そのころ出版された医学書院のアプローチシリーズがある。髙階經和先生の『心臓病へのアプローチ』,本多虔夫先生の『神経病へのアプローチ』,天木一太先生の『血液病へのアプローチ』などである。穴埋め形式の問題を解いていくうちに,疾患や病態の理解が進むので大変に役立った。特に『心臓病へのアプローチ』は筆者が循環器を初めて勉強するきっかけになった本でもあり,その著者の髙階先生は学生の私にとって憧れであった。
その後,評者が循環器科医となり,先生の講演やセミナーで直にお話を聞く機会があり,先生の“スマートさ”に感激したことをよく覚えている。流暢な英語,豊かな表現力,論理的で理路整然としてわかりやすい話の進め方など,学生のころに抱いていたイメージ通りであった。医学生あるいは医学教育関係者なら誰でも知っているシミュレーターの“イチロー”の開発者,あるいはAsian Heart Houseの開設者としても先生は世界中から注目されている。2002年に京都で開催された第26回国際内科学会でも学会場に循環器シミュレーション・ステーションを開設されたが,そのとき以来,評者は親しくさせていただいており光栄と思っている。
ところで読者の皆さんは,僧帽弁閉鎖不全症(MR)や大動脈弁閉鎖不全(AR)などの患者さんを診察して,心音・心雑音を適切に口(音)で表現できるだろうか。日ごろから,身体所見を大切にし,その所見を正確に表現および記載し,しかもこういった診察法をわかりやすく指導しようという姿勢を持っていないと難しいと思う。ちなみにMRはDHAAta(ダハータ),ARはDHaTaaaa(ダハッタアア)と表現され,こういった心音や心雑音を口まねする方法を心音擬似法(cardiophonetics)という。口まねすることによって,その仕組みが実感できる(本書94-95頁)。そういった心音の表現だけでなく,スプーンを使って心尖拍動を明瞭に見せるなどの魅力的なBSTができるドクターが髙階經和先生である。
その髙階先生が,心臓病診療のあり方をまとめ,『心臓病の診かた・聴きかた・話しかた――症例で学ぶ診断へのアプローチ』として上梓された。5人の仮想の研修医・学生を相手に,症例ベースで指導する形で書かれており,あたかも髙階教室の学生になった気分で,心臓病の病態や身体所見やアプローチの方法を学べる。髙階先生の診療の根幹はあとがきにもあるように,臨床で不可欠な三つの言葉(spoken language, body language, organ language)を聞き取る姿勢である。私たちは,患者さんの体から発する言葉を軽視しがちである。口から発する日常語だけでなく,表情やジェスチャーなどの身体語や心音・心雑音や呼吸音,心電図所見など臓器が発する言葉(臓器語)も重要である。この三つの言葉を大切にして患者さんにアプローチする。そうすれば心臓病の理解も飛躍的に進み,患者さんのこともわかるようになる。そういった先生の信念が12の章にまとめられている。
それぞれの章は症例ベースのPBL(problem based learning)形式で書かれ,随所に気配りがなされている。例えば,左ページと右ページは独立しており,左ページでは患者の問題点,診かた,考えかた,アプローチの方法が,右ページには関連した知識,データ,アドバイス,あるいは解説が記載されている。PBLのproblems, hypothesis, need to knowを左ページに,learning issueを右ページにという感じである。胸痛,高血圧,弁膜症,心筋症,先天性心疾患,虚血性心疾患,心不全,不整脈などの代表的な心臓病だけでなく,心臓神経症,生活習慣病なども,病態をまず理解し,どう考えて,どうアプローチすべきかが書かれている。
学生,研修医だけでなく,循環器領域の指導的立場にある方々に,ぜひ読んでいただきたい。髙階イズムが体感でき,心臓病診療の原点に戻るよいチャンスになるはずである。
B5・頁232 定価5,040円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00546-3


松村 真司 著
《評 者》山田 隆司(地域医療振興協会地域医療研究所所長)
アイデンティティを培う格好の手引書
プライマリ・ケア,家庭医療,総合診療の分野を担うものは常に患者の視点に立った医療の担い手である。医師であることは常に患者の健康問題や病状を的確に把握し,医学的に正しい介入に努めなくてはならない。一方で患者の視点に立つということは患者を家族,地域丸ごと理解することで,さらにいつでも患者の身近にいて,何でも相談に乗る誠意が求められる。プライマリ・ケア医,家庭医は人体,病気を知る科学者であり,一方で患者というクライアントにとっての便利屋でなければならない。真のプライマリ・ケア医,家庭医は両者の立場の狭間で医師としてのアイデンティティを保つことに苦悩することになる。しかしそんななかでもあえて患者中心という姿勢を保ち続けてこそ,何ものにも代えがたい患者との信頼が得られるし,必ずしも医師として万能でないことも赦される関係が育まれるのである。
本来プライマリ・ケア医,家庭医は自分の興味や限られた専門分野に偏らず,いつも目の前の患者から求められる医療ニーズのすべてに責任を持って対応することが求められる。専門分野を設けることで,専門以外の分野の診療の質が問われにくい環境を設定している現在の開業医医療の中にあって,真のプライマリ・ケア医,家庭医であろうとすることは勇気とそれを支える自身の理念がなくてはならない。
プライマリ・ケア医,家庭医の評価が決して高くない日本のこの時代に,将来を見据え,後進のために「プライマリ」の医療を担う医師が持つべき理念をわかりやすく本書では説いている。著者は自院に見学に来た研修医との問答や,友人医師との対談を交えながら,肩肘を張らずに平易に自身のプライマリ・ケア医,家庭医としての思いを語っている。
本物のプライマリ・ケア医,家庭医をめざしている若い医学生,研修医にとって,自らのアイデンティティを培うための格好の手引書であることは間違いない。
A5・頁208 定価2,310円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00679-8


臨床医のための症例プレゼンテーション AtoZ
[英語CD付]
齋藤 ......
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