放射線医学の最先端を学ぶ(森田知宏)
寄稿
2008.11.03
【投稿】
放射線医学の最先端を学ぶ
学生のための「放射線医学見学ツアー」を企画して
森田知宏(東京大学医学部3年)
「放射線医学の現状や可能性を探ろう」というコンセプトのもと,8月13-14日の2日間,放射線医学見学ツアーが開催されました。このツアーは,国立がんセンター中央病院長の土屋了介先生が,放射線医学総合研究所(以下,放医研)イメージング物理研究チームリーダーの村山秀雄先生の講演を聞き,非常に感銘を受けられたことに端を発します。土屋先生は,“未来の医療を築くのは学生である”との視点から,学生との交流を非常に重視されており,「こんな面白い話があるのなら,ぜひ学生に聞いてもらおう」と,このような機会をつくってくださいました。
知り合いや医学生のメーリングリストを通じて参加者を募集したところ,8大学から22名が参加しました。2年生から6年生までと幅広い学年層で,中には工学部など医学部以外の学生や,関西からの参加もありました。参加の動機も,「放射線医学を授業でちょうど習ったところで興味がわいていたから」(医学部3年生),「放射線医学はよく知らないが,楽しそうだから」(医学部2年)などさまざまでした。
大学でまだ放射線医学を学んでいない私は,レントゲン,PET,CTなど名前は思い浮かぶものの,その実態はよく知りませんでした。ツアーを企画する際に,『放射線治療医の本音――がん患者2万人と向き合って』(西尾正道著,NHK出版)という本を読み,「日本では欧米ほど普及しておらず,これから進歩する可能性が残されている分野なのだろうな」という印象を持って,このツアーに臨みました(表)。
表 放射線医学見学ツアー日程 | |
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“最先端”にびっくり
1日目の午前中に行われた国立がんセンター中央病院での講義では,放射線診断部長の荒井保明先生が,IVR(Interventional Radiology)の魅力について話してくださいました。IVRは血管内にカテーテルを入れて治療を行うため,外科手術よりも身体に与える影響が少ないそうです。同院では,特に治療困難とされる病状の治療に,このIVRを取り入れていると聞きました。エビデンスが確立しておらず,自分のやることが最先端になるというのがとても魅力的に映りました。
放射線治療部長の伊丹純先生からは,放射線治療の現場について話を聞きました。舌がんなどで,少し前ならば顎ごと切除してしまうという外科的な処置しか行えなかったものが,放射線治療によってきれいに治されていることに驚きました。
昼食は,病院の計らいで放射線科のレジデントの先生方と一緒にいただきました。年齢も近いため,楽しく食事をとりながら,普段では聞けないような本音を伺えたと思います。
午後の病棟見学では,CT,PET,MRIなどの大がかりな機器の説明を受けました。実際に患者さんに使用している場面や,患者さんにPET用薬剤を投与している場面の見学,CT体験などを行いました。病院の雰囲気は思っていたよりも明るく,スタッフのみなさんも楽しそうに仕事をされていたのが印象的でした。
その後,船橋の宿舎まで移動し,放医研の村山先生による,PETの原理・将来についての講義を受けました。専門家による物理の話なので難しい話になるのではないかと,正直なところ不安でした。しかし,先生のお話は論理的でわかりやすく,講義中に質問が飛び交うオープンな雰囲気で楽しめました。
2日目は,放医研での講義や施設見学を行いました。まず,重粒子医科学センター長の辻井博彦先生から,重粒子線治療についての講義を受け,その後の施設見学では,内部がむき出しの重粒子線照射装置を前に,詳しい説明がなされました。さらに,重粒子線治療に欠かせないHIMAC(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba)と呼ばれる炭素原子などの重粒子を,光速の80%にまで加速させるという直径42m,円周130mの機械を見たのですが,非常に迫力がありました。
意外だったのは,一般の見学者が大勢いたことです。質疑応答の際に質問したところ,多くはがん保険会社の方ということでした。被保険者ががんになった際,最先端の治療を提供できるようにいろいろと勉強するそうです。
多分野からのアプローチが医学の発展に寄与する
低学年の医学生にとって医療現場はハードルが高く,気軽に病院見学できる機会は多くありません。ましてレジデントの方々と話せる機会などほとんどありません。今回の病院見学や,レジデントの方々とのさまざまな対話を通して,放射線医学の原理や知識だけでなく,医学に対する心構えまで変わったと思います。また,他大学の学生と交流することで,異なる世界を感じることができました。
異なる世界という点では,医学部以外の学生が参加したことも非常によかったと思います。工学的な視点,経済的な視点など,思いもしなかったような視点に気付かされました。医学の発展には,多分野からのアプローチが欠かせません。このような形で世代・大学・学部を超えた学生同士の交流を実現できたことは,非常に有意義であったと思います。土屋先生のお言葉を借りると,「未来の医療を担うのは自分たち学生であるという意識を共有できる友達ができることはすばらしい」のではないでしょうか。
下記に,参加者の感想を掲載します。
◆ひとつの命のために集まる技術や支える人の幅広さを知った
将来進む科を決めるにあたり,普段の治療と同時に,今回のような最先端の医療を見て考えることの大切さを改めて感じました。重粒子線の装置には,多くの企業やスタッフがかかわっており,ひとつの命のために集まる技術や支える人々の幅広さを実感しました。がんセンターでは,特に興味のあった婦人科がんの小線源療法について詳しく伺うことができてたいへん勉強になりました。
(東大医学部医学科6年 鈴木陽介)
◆医学研究に役立つことをしてみたい
今回のツアーに参加して,放射線医学の領域ではとりわけ物理や工学を学んだ人が重要になると知りました。特に,重粒子線治療に使う機械は,精密機械を組み合わせた建物ほどの大きな機械となっており,医師よりもメンテナンスのためのエンジニアが多いほどでした。今,先端医療技術は工学者と医学者が協力しあうことで切り開いていくという流れができています。私は,医学においても工学者の位置が重要であることを再認識し,また将来は,医学研究に何かしら役立つようなことをしてみたいと思います。
(東大工学部機械工学科3年 馬場 渉)
来年は研修医の先生方にも参加・見学していただくという案もあります。来年にぜひ活かしたいと思います。ご意見等ありましたら,houikentour.admin@gmail.comまでご連絡ください。
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