医学界新聞

連載

2008.10.20

腫瘍外科医・あしの院長の
地域とともに歩む医療

〔第1回〕
いのちをささえ,いのちをつなぐ

蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る,
「がん医療」「緩和ケア」「医療を軸に地域をつくる試み」


 2005月11月,私はいくつかの決意を胸に秘めて青森県にある十和田市立中央病院に赴任しました。

十和田にかける思い・願い

 一つは,緩和ケアを基本理念とした医療を普及させることです。緩和ケアの理念とは,医療を受ける人を“患者”ではなく“尊厳を持った人間”として対応すること,ケアの対象に家族をも含めること,どのような病状であっても楽に生きることを支援すること,そして支援に際してはチームアプローチをとることです。いずれもこれまでの医療では欠けていたものです。

 二つ目は,誰にでも訪れる死/看取りを地域社会に取り戻し,“いのちの重さ”の感じられる地域社会を創ることです。現在,わが国では自然の過程と考えられる死も含め,すべての死は病院で“宣告”されるものと思われています。この結果,すべての死が医療の次元でとらえられています。これが家族の絆や地域の絆が弱くなり,“いのち”が希薄になった元凶と私は考えています。

 家族や地域の関係する人々が看取りに参加し,この看取りから自分あるいは他人の“いのち”の価値を学んでゆく機会を医療者は今後積極的に提供することが必要です。看取りを念頭においた在宅医療(在宅ホスピスケア)を推し進めるべき理由がここにあります。しかし,普及させるためには,医療介護福祉の連携体制(地域緩和ケア支援ネットワーク)を構築する必要性があり,地域住民の意識変革も必要となります。

 いずれも実現可能な試みであることは,それまで約20年間勤めてきた病院で実証してきました。それまでの20年間,私は在宅ホスピスケアに視点を置いた緩和ケアを外科治療と同時に提供してきましたが,その中から学んだことが前述の事柄です。

ゼロからのスタート――そして3年が過ぎて

 さて,赴任する時点でゼロから始めるつもりで覚悟していましたが,その通りでした。また,経営状態がすでに非常に悪化し,大きな赤字を出していること,それに対する対策がなされていないことも赴任して初めてわかりました。

 約3年がたちました。医師不足がさらに進み,赤字は増大しています。

 しかし,計画は思った以上に進んで...

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