医学界新聞

寄稿

2008.10.06

【寄稿】

ジェネラリストについて学び,語り合う
ジェネラリストのこれからを考える会 第2回ワークショップ開催

草場鉄周(北海道家庭医療学センター/ワークショッププログラム責任者)


 昨今,総合医に関する議論が国・医師会・大学・地方でさまざまに行われているが,不思議と総合医を目指す当事者たる研修医や医師の姿は目立たない。制度設計の議論は当然重要であるが,実際に総合医としての役割をこれからの日本で果たそうとする若き医師をしっかりと支えていくことも急務であろう。われわれ「ジェネラリストのこれからを考える会(GPEP:Generalist Proactivators for Evolving Perspectives)」はこうした全国各地のジェネラリスト志望の若手医師が,先輩医師から学び,互いの交流を深め,大きく育ってくれることを願って,毎年ワークショップを開催している。

ジェネラリストの役割を再認識

 今回,東京,長野に続いて,プライマリ・ケアの盛んな北海道が選ばれ,十勝平野の中ほどに位置する芽室町の公立芽室病院のバックアップのもと,すがすがしい初夏の日差しの中,30名余りの医師が集うワークショップが開催された。冒頭の地域講演では北海道の地域医療に引き込まれ,地域に育てられたことを誇りに思うという宮本光明院長(公立芽室病院)の半生から学び,続く基調講演では「医療再生の作業仮説」と題した刺激的な講演の中で山本和利教授(札幌医大,地域医療総合医学講座)が抱く“日本医療再生の切り札としてのジェネラリスト”の重要な役割に心動かされた。

 講演と懇親会を通じて高揚した気持ちのまま,「今,ジェネラリストを目指し,どう歩むべきか?」というワークショップでは参加者全員が研修あるいは診療の現状を共有し,いかにして目指す道を歩むべきか語り合い,課題別ワークショップでは,それぞれのニーズに合わせて教育技法やターミナル・ケア,臨床決断などへとさらに学びを深めていった。締めくくりの症例検討では,芽室で実際に対応した症例に基づいて,ややバックグラウンドが異なるジェネラリスト(総合診療,救急医療,家庭医療)がコメントを加えながら,参加者にどうケアすべきかを考えてもらい,ジェネラリストの視点の面白さや奥深さを楽しんでもらった。

 以下に,参加者の感想を抜粋する。

仲間がみつかり,不安が吹き飛んだ
 私は札幌市内の総合病院で,総合診療医としての後期研修を受けています。家庭医と同じ姿勢で仕事をしてはいるものの,病棟総合医として独特の悩み(臓器別専門医との関係,急性期の短い期間で患者中心の医療を実践するジレンマ)を共有できる仲間が見つからず悩んでいました。そんなときに,この「ジェネラリストのこれからを考える会ワークショップ」に参加できることになり,ジェネラリストとしての知識が深まることへの期待や,同じ背景・悩みを持つ仲間が見つかるかもしれないという思いを抱き当日を迎えました。…(中略)…夜の交流会では,総合診療の魅力ともろさ,数年先を行く病棟総合医の先輩方の考えや誇りなどを聞くことができ,ふだん感じていた不安が吹き飛び,自分もこれからの日本の総合診療を形づくっていく一翼を担えればという気持ちになりました。今後も毎年地道に活動を続け,徐々にジェネラリストのコアを明確化しながら仲間を増やしていける場となればと期待しています。

教科書にないことを学べた
 各病院でどんな思考や機能を持って働いておられるのかを改めて知る機会になりました。その中で私が志向している家庭医療との共通点を数多く感じることができました。G. Engelが提唱した生物心理社会モデルでの広がり,患者中心の医療の方法の実践,不確実性に耐えるなどフィールドが異なっても役割や機能,そして現場での悩みは似ていると共感しました。…(中略)…2日目のワークショップも圧巻でした。「振り返りが患者のケアになる」「患者の代理人になる」「ケアの継続性のためのきっかけ」「つらい決断のときのリーダーシップ」など,第一線の指導医たちから症例へのコメントを聞くことで,教科書にはない大切な姿勢やエッセンスを学ぶことができました。

さまざまなジェネラリストの視点を見ることができた
 今回参加して第一に思ったのが,ジェネラリストというのはさまざまな立場の人を含んでいて,さまざまな状況に身を置いているのだなということでした。市中病院の総合内科,中規模病院の内科,診療所等,同じ症例を討論してもさまざまな違った視点からの意見があり,はっとすることや自分の忘れていた感情を思い出すことがありました。…(中略)…この会を通して,ジェネラリストという曖昧な分野を切り開いてきた方々の話を聞くことができ,今日私たちがジェネラリストとして存在できるのはそのおかげなのだとしみじみと感じました。それ以上に,この曖昧さに不安を抱えながら突き進んでいる人が全国で働いており,その人と不安や悩みを共有できたということが非常によい経験となりました。

 こうした参加者の声にわれわれも励まされて喜びを感じる一方で,彼らの前にはまだまだ困難な道のりが待っている現実もあり,いつも複雑な思いをおぼえる。だからこそ,ジェネラリストが日本の医療の中で当たり前の存在となるまで,こうしたワークショップを地道に続けていきたい。来年1月には東京で,そして7月には九州・福岡で同様のワークショップを開催する。多くのジェネラリストを目指す医師との出会いを期待したい。

※今後のワークショップに関するお問い合わせ先は下記までお願いします。
 市立堺病院総合内科・北村 大
 TEL:072-221-1700
 URL:http://gpep.umin.jp/


草場鉄周氏
1999年京大卒。日鋼記念病院にて初期研修後,北海道家庭医療学センターにて家庭医療学専門医研修を修了。2003年,同センター併設の本輪西サテライトクリニック勤務。06年,本輪西サテライトクリニック所長ならびに北海道家庭医療学センター所長。08年,医療法人北海道家庭医療学センターを設立し理事長に就任。なお,04年からカナダのウェスタン・オンタリオ大家庭医療学講座の修士課程在籍。日本家庭医療学会理事,日本プライマリ・ケア学会認定専門医および評議員。

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