医学界新聞

対談・座談会

2008.07.28



【座談会】

最新の動向と専門医の魅力を語る!
アレルギー診療の充実を目指して

岡田 正人氏(聖路加国際病院アレルギー膠原病科)=司会
森本 佳和氏(医療法人和光会アレルギー診療部 元コロラド大学医学部アシスタント・プロフェッサー)
小川 好子氏(ベイラー医科大学アレルギー膠原病科アシスタント・プロフェッサー)


 アレルギー大国といわれる日本。アレルギー疾患を持つ患者たちの多くは,耳鼻科,皮膚科,呼吸器科など,症状別に各診療科を受診している。

 一方アメリカでは,小児から成人までのすべてのアレルギー疾患を,アレルギー科専門医が総合的に診ている。研修プログラムも確立されており,研修医の進路として,非常に人気の高い診療科であるという。

 本紙では,アメリカのアレルギー専門医の資格を持つ岡田正人氏,森本佳和氏,小川好子氏に,アレルギー科の最新の動向と,診療の魅力についてお話しいただいた。生物学的製剤によるアナフィラキシーなど,薬物アレルギーの増加も懸念されるなか,さらなるアレルギー科の専門性の確立と,他科の専門医との連携が,求められているのではないだろうか。


岡田 アレルギー科は,内科・小児科の中の主要な科として世界中で認められていますが,日本では独立した科というよりは,皮膚科,呼吸器科,小児科などの各科の医師が臓器別に分担している現状があります。本日は,アレルギー科とはどういうものなのか,どういうことができるのかを,森本先生と小川先生のお二人に,アメリカでのご経験を中心にお話をうかがいます。

 まず,簡単な自己紹介から始めます。

森本 私はハワイ大で内科専門医を取得した後,コロラド大医学部,National Jewish Medical Centerのアレルギー免疫学フェローとして専門トレーニングを受けました。その後,同施設のアシスタント・プロフェッサーとなり,臨床・研究・教育を行っていました。

 National Jewishはアレルギー・呼吸器診療のメッカともいうべき病院で,診断や治療の難しい患者さんが全米各地から集まります。患者さんは,施設周辺のホテルに1週間から10日ほど滞在し,徹底的な検査を踏まえた診断と,病気に関する教育を受けて帰るというのが典型的でした。その後も,患者さんの主治医と連絡をとり,遠隔地のコンサルテーション医として力になれるように努めていました。数年前に診た患者さんでも,現在も継続して相談にのっています。

小川 私のアメリカでの医学研修は,ニューヨークのべスイスラエル・メディカルセンターの一般内科レジデンシーに始まります。3年間のトレーニングの後,テキサス大のアレルギー・フェローシップを2年間受け,昨年10月からはテキサス州ヒューストンにあるベイラー医大で,外来患者さんの診療に加えて,フェローの教育や,喘息の臨床・基礎研究を行っています。

岡田 私は小川先生と一緒で,べスイスラエル・メディカルセンターで内科を3年,イェール大でアレルギー臨床免疫科のフェローを3年,その後フランスにあるアメリカのコーネルおよびコロンビア大の関連病院で8年ほどアレルギーと膠原病診療に携わり,2006年4月に帰国してからは聖路加国際病院のアレルギー膠原病科に勤務しています。

コンサルト文化が根づいている

岡田 アレルギー科はアメリカにおいてもユニークな科で,フェローシップに進むには,内科,あるいは小児科で3年間の研修を修了する必要があります。イェール大の場合,毎年定員が1人のため,小児科と内科の研修医を隔年で交互に採用していました。内科の研修医は通常小児科を診ることはないのですが,アレルギー科に進むと,いきなり小児も診ることになります。全身,かつ全年代を診られるということで,非常に守備範囲が広いです。勉強すれば,それだけ専門医としてのやりがいがある科だと思います。

森本 アレルギー科の特徴は,喘息,アトピー,食物アレルギー,薬物アレルギー,蕁麻疹などありふれた疾患を扱うことと,疾患の内容が,呼吸器科,皮膚科,耳鼻科と多科にわたることです。これらの病気が1人の患者さんに起こることが多いので,総合的に診ることのできる医師が必要だというところから始まったのだと思います。

 アメリカのアレルギー科は,専門診療科として50年以上の歴史があり,一般に広く認知されています。ただし,患者さんが突然アレルギー科に来ることは少なくて,たいてい一般内科医や呼吸器科,皮膚科,耳鼻科の医師からコンサルトされてきます。

岡田 日本は先進国の中でもアレルギーが多いといわれますが,ヨーロッパやアメリカのように,アレルギー科が独立して診療していることはそれほど多くありませんね。

小川 アメリカは,すぐに専門医を呼んで,自分の受け持ち患者さんのケアのクオリティを上げるという「コンサルト文化」がありますが,日本はその点が違いますね。アレルギー科のように他科でも治療され得る科の場合,医師の中での認識や地位を確立するのが難しいかもしれません。

 例えば,副鼻腔炎の場合,もしアレルギー性鼻炎があれば普段からコントロールする必要があるのですが,抗菌薬を出すだけでは,それを飲む期間が終わればまたもとの鼻づまりに戻って,副鼻腔炎が起こってしまいます。焼け石に水というか,その場だけの短期的な治療ですね。テストでアレルゲンが分かっていれば,それを除去するなどの治療はもちろん,教育など長期的なフォローアップが大切なのですが,そういった専門的な治療は専門医でないとなかなか難しいと思います。

森本 アレルギー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎,喘息など,複数のアレルギー疾患を併発する人は毎日のコントロールが必要ですが,皮膚科,耳鼻科など,それぞれの外来に行くのは非常に不便です。アレルギー科医のもとでは,これら疾患の総合的な治療が可能ですから,患者さんにとっても大きなメリットだと思います。

岡田 アレルギー性鼻炎があるお子さんの場合は,きちんとコントロールしておくことによって,喘息の発症を抑えられます。アトピーについても同様です。ですから長い目でみて診療することは,やはり大事なことだと思います。

 ただ,アトピー性皮膚炎などは,あまりアレルギーにこだわりすぎるのは逆によくありません。普通の治療でよくなることが多いので,食事療法などはあまり行いません。どこまでアレルギーをinterventionした方がよくて,どこからはしなくてもいいのかという見きわめができることも重要です。

 先日,アメリカのアレルギー学会に行ったときに,開業している友人から,最近診断医としての役割が非常に大きくなっていると聞きました。慢性的に咳が出ている人が,アレルギーが隠れているのではないかということで診察に来る,あるいは鼻炎や喘息でも最初はアレルギーのことはまったく考えずに治療していたのを,アレルギーについての診断をつけて,その後の治療をまた呼吸器科医へ戻すなど,新患が非常に多いそうです。一般開業医はかなり忙しいですね。

■薬物アレルギーには慎重な対応を

岡田 アメリカのアレルギー専門医は減感作療法ばかり行っていると思っている方もおられるかと思いますが,実際は患者さんの何パーセントぐらいですか。

小川 減感作療法は専門性を認められていて点数も高いのですが,大学病院のアレルギー外来の中には減感作療法を行わないところもありますし,行っていても10%以下のところがほとんどでしょう。開業のアレルギー専門医では,この比率はもっと高くなるかもしれませんが,薬物療法でコントロールできないけれども,安全に減感作療法をできる,あるいはコンプライアンスが十分期待できる患者さんが適用になっています。

森本 減感作療法を行うにあたっては,従来の薬剤治療に対する反応性が悪いこと,(ショックの危険性があるので)重症な喘息のないことが重要ですね。また,年齢的な問題や,注射のために外来に頻繁に通えるかどうかなどの社会的問題もあり,適応はあまり多くないかもしれません。

減感作療法の適応はさまざま

森本 他に重要なのは,抗菌薬に対する脱感作療法ですね。例えばペニシリンのアレルギーのある患者にペニシリン系の薬剤が必要な場合に,ごく少量からゆっくりと1-2時間ごとに量を上げながらペニシリンを投与していく。特にアメリカの場合はドラッグ使用による感染性心内膜炎が多いので比較的よく行われます。

小川 私の場合は,腫瘍治療で有名なMDアンダーソンがんセンターの近くで診療していることもあり,抗癌剤のアレルギーや減感作にかかわることがしばしばあります。今後も,抗癌剤や抗モノクローナル抗体などの使用が広がると思うので,薬物アレルギーも増えると思います。アレルギー専門医がそこに携わることは非常に重要です。

森本 最近では生物学的製剤が注目されていますね。アレルギーの分野でも,米国では抗IgE抗体を喘息に使うことが身近になっていますが,遅延性のアナフィラキシーといった問題も出ています。生物学的製剤は,抗体が使用されていることが多いので,そのような製剤による副作用の解釈などで,アレルギー免疫科がコンサルトされるというケースも増えてきています。

岡田 生物学的製剤の代用になる薬剤の選択は限られますから,そういう場合のコンサルトは重要ですよね。抗癌剤などは最たるものです。

森本 減感作の適応を考えるうえでは,アレルギー反応のタイプを考えることも重要です。例えば,IgE依存性に即時型アナフィラキシーを起こした喘息の場合には,減感作療法が適応になることもありますが,Stevens-Johnson症候群を起こした薬剤に対する減感作療法はで...

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