医学界新聞

連載

2008.06.30



〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第130回

格差社会の不健康(3)

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2785号よりつづく

 前回まで2回にわたって「格差症候群(status syndrome)」(収入・教育程度・人種差別等の社会経済的格差に起因する健康格差)の実例を,米国における新生児の体重格差で見てきたが,格差症候群は,いまや,国の違いや疾病の別を問わない「普遍的現象」として認知されるようになっている(註1)。

強く相関する収入と死亡率

 今回は,読者に格差症候群に対する理解を深めていただくために,代表的データを紹介しながらその特徴を論じるが,まず,図1に,米国における収入別相対死亡率を示した。収入が減るほど死亡率が上昇する傾向があるのは一目瞭然だが,最高収入ランク(年収7万ドル超)の死亡率と比較したとき,最低収入ランク(年収1万5000ドル以下)の死亡率は3倍を超え,収入の格差が健康(ここでは死亡率)に与える影響がいかに甚大であるかがお分かりいただけるのではないだろうか。

 さらに,前々回,母親の収入・教育程度が下がるほど低体重出産のリスクが段階的に高くなる傾向があることを示したが,同様の段階的変化は,今回示した収入と死亡率との関係でも成立する。一般に,格差症候群では,社会経済的格差の「勾配」に応じて健康格差も「勾配」を形成することが知られているが,収入の場合においても,「金持ちは長生きで貧乏人は早死に」という「勝ち組vs負け組」の両極端に分かれるのではなく,格差の段階的な差に応じて,健康度や死亡率にも段階的な差が生じることに注意されたい。

引退後の健康にも影響する職種格差

 以上,収入や教育年数などは数字で定量化できる格差であるが,格差症候群は,数字では定量化できない「定性的」格差(註2)においても明瞭に現出する。図2に,英国国家公務員を対象とした大規模な

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