カナダにおける腫瘍外科臨床と教育(西森英史)
寄稿
2008.05.12
【投稿】
カナダにおける腫瘍外科臨床と教育
西森 英史(McGill大学 腫瘍外科臨床フェロー)
私は現在,McGill大学腫瘍外科(surgical oncology)にて臨床フェローをしています。本稿では,フェローシップを通じて見えてきた,カナダにおける腫瘍外科臨床と教育について紹介したいと思います。
はじめに,カナダは日本同様に国民皆保険制で,投薬を除き基本的にすべての医療が無料です。しかし,医療機関へのアクセスの悪さと医師不足が社会問題となっています。教育制度は隣国米国とほぼ共通なので,カナダの医療は日本と米国の医療を足して2で割った側面があります。
がん治療のリーダーたるべき外科医の養成
McGill大学の一般外科レジデンシーは,5年間に複数の教育病院で一般外科に加え救急やICU,胸部外科をローテートし,途中で半年程度の地域医療研修や研究期間があります。
症例数は多く,多岐にわたりますが,メジャーな手術の術者になるのは通常シニアレジデントの2年間です。その後フェローシップとして,colorectal,minimally invasive surgery, surgical oncology, hepatopancreatobiliary(HPB),transplantationなどのプログラムがあります。フェローは雑務やdutyは少なく比較的自由になる時間も多いため,専門領域の知識・技術習得に集中できます。
私の所属するプログラムは2年間で,1年目は腫瘍外科6か月のほかに,medical oncology, radiation oncology, surgical pathology, palliative care, cancer epidemiologyが必修になり,2年目は選択です。surgical oncologyというサブスペシャリティはgeneral surgeryとの線引きが時に曖昧ですし,ほかの領域とのオーバーラップがあります。
McGill大学ではcolorectal, breast, sarcoma, melanomaが基本領域になり,electiveとしてHPB, thoracic(胃食道),head and neckなどが選択可能で,これら固形腫瘍に対する最新知識を持ち,エビデンスに基づいた治療方針を決定し過不足のない外科治療を安全に遂行できる,がん治療のリーダーたるべき外科医の養成を目的としています。特にmultidisciplinary approachが必要な症例においては他科専門医との協調を図りつつ治療方針決定に中心的な役割を担います。
化学療法や放射線治療に対する専門知識も必要ですし,緩和医療にも明るいことが求められます。しかしこうしたプログラムを修了していないとがん治療ができないわけではなく,市中病院や地方では一般...
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