医学界新聞

2008.04.14



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


神経文字学
読み書きの神経科学

岩田 誠,河村 満 編

《評 者》田代 邦雄(北海道医療大教授・神経内科学

読み書きの限りない面白さを取り上げた世界初の名著誕生

神経文字学(Neurogrammatology)とはなにか?
 その斬新な用語にまず驚かされる。有名書店で本書が目立つ場所に積み上げられているのをいち早く見つけ,ただちに手に取ってみたが,その書評のご依頼を受け感激である。また,この用語は,編者の岩田誠先生の造語であることも知り,まさに言語の神経科学者によるすばらしい発想と言えるであろう。

 2006年の第47回日本神経学会総会(岩田誠会長)シンポジウムで,今回の編者である岩田誠・河村満両先生が司会をされた「神経文字学」を聴衆のひとりとして拝聴した者として,その際のシンポジストの他に新たな著者も加え一冊の本にされたことに対し,両先生ならびに関係各位に敬意を表する次第である。

 本書を開くと,通常の「はじめに」,「おわりに」にあたる部分が,「本書発刊によせて――神経文字学への想い」,「あとがきにかえて」となり,しかも両先生の対談による本書への想いが熱く語られていることもユニークである。

 現在の日本人は形態素文字である漢字,表音文字と呼ばれる仮名文字を持ち,通常,縦書きでは「書く方向;上→下,改行;右→左」,それが,横書きでは「書く方向;左→右,改行;上→下」となる。額入りの漢字文字で経験するが,右→左方向への書字をみることがあっても漢字で読むことに問題はない。しかし,欧米のアルファベット文字,特に筆記体では上→下へ書くことはなく,また右→左方向への筆記体はアラビア語やヘブライ語の子音アルファベット以外では“鏡像書字”でみられるだけであり,また鏡に写した場合は漢字では理解できるが,アルファベット文字,特に筆記体で読むことは不可能である。これら書字の方向についても「文字学こぼれ話・書字の方向(1)」に紹介されており更なる興味をそそることになる。

 第1章「漢字仮名問題の歴史的展開」に始まり,第12章「日本語書字の機能画像解析」に至るまで文字学に関する種々の話題を,編者以外に15名の執筆者が加わり最先端の知見を踏まえて論旨を展開する。また合間合間に「文字学こぼれ話」として,リラックスしながら文字学の面白さをアピールする構成である。

 欧米の文字にない日本語の特徴を生かした研究は,それだけでも新知見を提唱できるだけでなく,脳機能画像などの最先端の解析装置を駆使することで欧米語では計ることのできない発見も期待されるであろう。

 また編者である両先生は,神経学,神経症候学,高次脳機能障害学に特にご造詣が深く,その分野の日本のパイオニアで恩師であられる豊倉康夫先生,平山惠造先生にそれぞれ師事された方々という見事なペアを組まれていること,さらに各章の担当者として,その項目の日本の第一人者を揃えられ,神経文字学のコンセプトを生かした記述が展開されている。その各章の内容に触れることは省略せざるを得ないがすべて力作であり,文献を参照しながらさらに学ぶことができる配慮がなされている。

 各章を通読するもよし,むしろ章間を行き来しながら学ぶもよし,また各章ごとに用意された軽妙な「文字学こぼれ話」で頭を冷やすもよしと,神経文字学の世界に引き込まれていく魔法にかけられていく感がある。

 本書こそ,難解ともいえる「神経文字学」を,神経学・脳科学関連の諸先生ばかりでなく,医学生,一般の読者をも引き込む魅力を無限に秘めたすばらしい著書として心から推薦するとともに,両先生の今後ますますのご指導,ご発展を期待し書評の任を務めさせていただくこととする。

A5・頁248 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00493-0


発達期言語コミュニケーション障害の
新しい視点と介入理論

笹沼 澄子 編

《評 者》小枝 達也(鳥取大教授・神経内科学

「なるほど」と共感してしまう臨床の経験も盛り込まれた良書

 本書は,成人の言語障害を対象とした『言語コミュニケーション障害の新しい視点と介入理論』の姉妹本として企画されたものであると,編者の笹沼氏が序で述べておられるが,単なる小児に見られるさまざまな言語障害の解説にとどまらず,小児の認知神経心理学を網羅するかのような幅広い視点で執筆されている。

 最近では,発達障害に焦点をあてたマニュアル的な書籍が氾濫する中で,本書は研究者の視点から多くの文献をていねいに解説しながら,最新の仮説を詳述してあり,実に読み応えのあるものに仕上がっている。

 各分担執筆者が丹念に文献を調べ上げて,それをわかりやすく紹介しているだけでなく,各執筆者の研究成果の紹介や臨床家としての経験も盛り込まれているために,単なる理論の展開にとどまっておらず,同じ臨床家として「なるほど」と,つい共感してしまうような記述が多いのも本書の長所と思われる。

 特に自閉症スペクトラムとDevelopmental Dyslexiaについては,複数の分担執筆者がこれまでの諸仮説を余すことなく,しかもじつに詳細に紹介してある。これまでいろいろな書籍や文献で得ていた知識が,一挙にまとめて示してあるので,同じ分野を研究しているものの一人として,整理ができて大いに助かる。ふと確認したいと思った時に,いろいろな書籍や文献を探し回るのではなく,本書に帰れば済むという印象を持った。

 小児の言語障害だけでなく,小児の言語発達に関する脳科学的視点と最新の研究成果が盛り込まれているため,本書をじっくりと読みこなすことにより新しい研究の方向性が見えてくるし,具体的なアイデアも浮かんでくる。実にありがたいことである。出版が遅れたと序にあるが,これだけ充実した内容の本が一朝一夕にできあがるとは思えず,遅れたのも無理からぬことであろう。本書の企画編集に精力的に取り組まれた笹沼氏とそれぞれの章を緻密かつていねいに書き上げた各分担執筆者に敬意を表したいと思う。

B5・頁328 定価6,300円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00366-7


イラストレイテッド
ミニマム創 内視鏡下泌尿器手術

木原 和徳 著

《評 者》並木 幹夫(金沢大大学院教授・泌尿器科学

安全な低侵襲手術にかける熱意が伝わってくる一冊

 ミニマム創内視鏡下泌尿器手術は,木原和徳教授が考案された素晴らしい手術法である。この手術のコンセプトは“安全”で“根治性”に優れ,“低侵襲性”で,かつ“経済的”な手術である。泌尿器科領域で同じ低侵襲性を特長とする腹腔鏡下手術も急速に普及してきたが,経験の浅い泌尿器科医にとっては修得に時間を要する。特に難易度の高い腹腔鏡下前立腺全摘術は,厳しい施設認定があるため普及が遅れている。

 一方,ミニマム創内視鏡下泌尿器手術は従来の開放手術の経験を生かせるため,learning curveが腹腔鏡下手術より早いと予想される。また,緊急事態にも迅速に対応でき...

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