医学界新聞


その兆候,シグナル

寄稿

2008.03.17



【寄稿】

日常診療・診察で見逃してはいけない子ども虐待
――その兆候,シグナル

佐藤 喜宣(杏林大学医学部法医学教室・教授)

 家族及び親密な関係者間に起こる暴力・虐待は連鎖しており,子ども虐待やドメスティック・バイオレンス(DV),高齢者虐待は包括的に研究ならびに対応すべき社会病理と考えられる。

 医療機関における虐待症候群の発見・対応はまぎれもなく「医療」であり,診断・治療および援助は予防医学の観点からも重要である。子ども虐待は社会病理という観点からみれば,発生数・再発率・死亡する危険性や後遺症など,いずれの点をとっても重大な疾患と考えられる。


創傷の見方と診断の重要点

 まず,患児の全体的診察を行うが,発育・発達に関する観察の他に,清潔な服を着ているかなど服装の状態や,風呂に入っているかどうかなど,体表の汚れや臭いなども参考になるので,患児をとり巻く環境など全体を観察する視点を持つことが重要である。

 診察はくまなく観察することから始まり,特に頭部被髪部,性器,肛門周囲を見逃さず観察する。児が受診するすべての科に,初診時child abuse(CA)診断チェックリスト(図1)を配布しておくと有効である。CA診断チェックリストは,医師用・看護師用と分けてもよい。

 創傷があれば,すべての記録を詳細に記載しておく必要がある。さらに,カルテに創傷の図を描くと同時に,写真による記録が必要である。なぜなら,創傷は日々変化し,場合によっては数日で消失することもある。この作業を怠ると,客観的な証拠を失うことになり,後に総合的に虐待と判断する場合に他機関の担当者が納得しないこともあり,児の保護を行ううえで障害となる場合がある。

 また,保護者の態度も重要で,保護者が加害者である場合が多い事実からしても,受傷の機序や受傷から受診までの時間等を繰り返し聞くことが重要で,その際の保護者の態度に十分注意する必要がある。現実に,保護者が患児の診察を直接的,間接的に妨害することは少なからず経験されることで,保護者が医療者に創傷を見せないように仕向けたり,必要以上に診察を制限しようとすることがあるので注意を要する。このような場合は,保護者を別室に移して,改めて患児を診察する必要があり,容易に妥協して診察を行うべきではない。また,保護者が暴言・暴力をふるう恐れのある場合は,被害を予防するために警備員の配置を考える場合も生ずるし,時としては警察の介入も必要となることがある。

皮膚変色
 子ども虐待にみられる創傷のうち,皮膚変色は,全身に多数散在する場合から,まったく発見できない場合がある。しかし,発見しにくい場所に集中することもあるので,慎重に全身を診察して発見に努める必要がある。例えば,頭部の被髪部,腋窩や上腕内側部,鼠径部や大腿内側部などは,診察で見落としがちなので,普段はあまり注意しない場所を診る必要がある。

 肩上腕,躯幹に指によると思われる皮膚変色があれば,シェークン・ベビー症候群を考える根拠となるし,鼠径部,生殖器,肛門周辺や大腿内側部にみられれば,性的虐待を疑うことになる。

 皮膚変色が経時的に色調を変えること,その色調によっておおよその時間経過が判明することを知っていれば,患児の体表に皮膚変色の新旧混在が認められるならば,繰り返された虐待を示す重要な根拠である。他に骨折や臓器損傷が認められ,皮膚変色が新旧混在する場合は,さらに,継続した身体的虐待の蓋然性が高いと考えられる(写真)。

骨折と画像診断
 身体的虐待にとどまらず,...

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