Fat or Fit
連載
2008.01.21
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第119回
Fat or Fit
李 啓充 医師/作家(在ボストン)前回,肥満に起因する医療費増加にからむ話題を紹介したばかりだが,肥満に関連して,ショッキングな論文が発表されたので紹介しよう。
サウス・カロライナ大学のブレアらが2007年12月5日号のJAMAに報告したこの論文(註1),60歳以上の高齢者約2600人を平均12年フォローアップ,脂肪蓄積(肥満)及び体力が,(全死因による)死亡率に寄与する度合いを調べたプロスペクティブ・スタディである。なお,ブレアらは,体力(fitness,より正確にはcardiorespiratory fitness)を,トレッドミルでの最大運動持続時間で計測した。
代表的なデータを表1,2に抜粋したが,ブレアらは,まず,脂肪蓄積も体力も,死亡率と有意に相関することを示した(ここでは,腹囲のデータだけ示したが,BMIも有意に相関した)。
相対死亡率 (95%信頼区間) | |||||
体力の度合い (最低から最高まで20%ごとに区分) | |||||
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
脂肪蓄積の補正なし | 1 | 0.51 (0.39-0.67) | 0.44 (0.31-0.56) | 0.43 (0.32-0.58) | 0.40 (0.22-0.42) |
腹囲で補正 | 1 | 0.52 (0.40-0.69) | 0.43 (0.32-0.57) | 0.42 (0.31-0.56) | 0.29 (0.21-0.40) |
相対死亡率 (95%信頼区間) | ||
腹囲 | 正常 (男<102cm,女<88cm) | 肥満 (男≧102cm,女≧88cm) |
体力による補正なし | 1 | 1.25 (1.00-3.61) |
体力で補正 | 1 | 0.99 (0.79-1.25) |
脂肪蓄積,体力と死亡率の驚くべき関係
ここまでなら何も驚くには当たらないのだが,ブレアらは,さらに,脂肪蓄積と体力と,それぞれの因子がどの程度死亡率に寄与するかを分析した。なぜなら,太っている人・やせている人それぞれに体力のある人・ない人がいるので,「いっしょくた」にしたまとめ方では,脂肪蓄積と体力と,どちらがどれだけ重要か,あるいは,それぞれが独立に死亡率増加に寄与するのか,それとも一方が他方に依存するのかは,わからないからである。そこで,ブレアらは脂肪蓄積と体力と,一方の死亡率に対する寄与度を他方で補正したのだが,その結果は驚くべきものだった。
まず,体力が死亡率に寄与する度合いは,脂肪蓄積による補正を加えても,まったく影響を受けなかった(ここでは腹囲による補正だけを示したが,BMIによる補正もまったく影響を与えなかった)。一方,脂肪蓄積が死亡率に寄与する度合いを体力で補正したところ,その効果は消えてしまった。平たく言うと,太っている人でもやせている人でも,体力が劣るほど死亡率が高くなることに変わりはな...
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