医学界新聞

2008.01.07

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


クリニカルエビデンス・コンサイスissue16 日本語版

葛西 龍樹 監訳

《評 者》山口 直人(東女医大教授・衛生学公衆衛生学(二))

EBMを実施する医師の座右の書

 このたび『クリニカルエビデンス・コンサイスissue16 日本語版』が医学書院から出版されたことは,わが国で医療に携わる全員にとって大きな喜びである。まずは,ご苦労なさった葛西龍樹教授はじめ翻訳に携わった皆様,出版社のみなさんに謝意を表したい。Clinical Evidenceは英国医師会出版部(BMJ Publishing Group)が総力を挙げて作り出したEBMバイブルの1つである。その日本語版は葛西教授が中心となっての献身的な努力で2001年に原書第4版の日本語訳が出版され,2002年に第6版,2004年には第9版が出版されたことは周知のとおりだが,その後,諸般の事情で出版が途絶えていたものである。今回,第16版の日本語版が装いも新たに出版されたことは,わが国の医療界にとって大きな福音であると言っても過言ではないであろう。

 Clinical Evidenceを利用する医師数は世界で100万人を超えていると言われ,現在,7か国語への翻訳が実施されている。多くの国では医師会員や医学生に無償配付するなどの措置がとられており,さらに,世界保健機関の協力によって発展途上国ではオンライン版が無償提供されていると聞く。このように,Clinical Evidenceは世界中の医療にとって,質向上のドライビングフォースとなっていることは明らかであり,わが国の医師・医療者が日本語で利用できることの意義は計り知れず大きいと言える。

 さて,第16版では26領域226疾患における臨床上の疑問が取り上げられている。しかも,専門医にとっても有益な最新の治療に関するものから,肥満症に対する薬物療法の効果,大腸癌スクリーニング,さらに,成人の便秘に対する生活習慣介入の効果まで,プライマリ・ケアを担当する医師が日常診療で出会う重要な問題を選りすぐって解説を提供している点が大きな特徴である。

 情報は臨床上の疑問ごとに提供されており,疑問への回答は有益性の分類として,「有益である」,「有益である可能性が高い」,「有益性と有害性のトレードオフ」,「有益性に乏しい」,「無効ないし有害である」,「有益性不明」のいずれかが示されている。本書の解説によれば,取り上げた疑問の回答の中で,「有益である」は14%であるのに対して,47%は「有益性不明」に分類されているとのことである。すなわち,有益性の判断が明確なもののみを取り上げるのではなく,有益性が不明でも,臨床上,重要な疑問であれば,それを積極的に取り上げている点も特徴である。不明となっている事項については英国National Health Service(NHS)のHealth Technology Assessment Program(HTA)にフィードバックすることで評価検討の推進にも一役買っている。

 また,各事項の最後には参考文献がリストされており,必要に応じて読者自身が原典に立ち返って,評価検討ができるように配慮されている。数年前になるが,私たち自身が行っている医療情報サービスの開始に当たり,日本医師会会員と病院勤務医に望ましい情報提供についてアンケート調査を行ったことがあるが,予想を遙かに超える多くの医師が,推奨のみでなく,必要に応じて原典に立ち返れるように根拠となった論文の情報提供を求めていることが明らかとなった。この点からも本書の構成はEBMを実施する医師にとって座右に置きたい書であると言える。

 最後に,本書の刊行が再開したことで,クリニカルエビデンス・コンサイス日本語版が,原書のほうのバージョンアップにあわせて,引き続きタイムリーに刊行されることを多くの医師・医療者が願っていることを申し添えて,書評を終わりたい。

A5変・頁1432 定価11,550円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00395-7


がん医療におけるコミュニケーション・スキル
悪い知らせをどう伝えるか[DVD付]

内富 庸介,藤森 麻衣子 編

《評 者》垣添 忠生(国立がんセンター名誉総長)

全医療現場に通じる普遍的なコミュニケーション・スキル

 『がん医療におけるコミュニケーション・スキル-悪い知らせをどう伝えるか』が医学書院から刊行された。編集は内富庸介,藤森麻衣子の両氏,執筆は国立がんセンター東病院,同中央病院,聖隷三方原病院,癌研有明病院,静岡県立静岡がんセンターなど,いずれも日々がん患者や家族と濃密に接するベテラン揃いである。

 患者,家族と,医療従事者との関係,特に患者と医師の間の意思疎通,コミュニケーションは医療の原点である。最近の診療現場の多忙さは危機的である。限られた時間の中で患者と医師がコミュニケーションを図ることは至難になりつつある。とはいえ,患者-医師関係を構築するうえでコミュニケーションは避けて通れない。

 とりわけ,がん医療には決定的に重要なポイントがいくつもある。医師の立場から考えると,がんの診断を伝えるとき,再発,転移の事実を伝えるとき,治癒を求める医療が不可能あるいはきわめて難しいことを伝えるとき……いずれも患者と家族の命運を握る重大局面といえる。そうした重大な内容を伝える方法,技術を医師は学部教育でも,卒業後も系統的に学ぶ機会がないまま現場に立つ。

 私自身,若い頃,膀胱鏡が終わって席に戻った患者さんに,なるべく気楽に受け止めていただくようにと考えて,やや無雑作に「膀胱にがんがありました」と伝えたら,膀胱がんの内容を話す前に,患者さんは失禁をし,イスから転げ落ちそうになった。以来,私は深刻に反省して,医療内容,とりわけ悪いニュースを伝えるときの伝え方を,きわめて慎重に行うようになった。すでに発表された研究成果を勉強し,学会や研究会でも聴講した。いわば,個人の努力でこうした技術を身につけなければならないのは問題だと思った。

 この書物には,医療現場での叡知と,国内外の学問的達成が,最適の筆者らによって詳述されている。この書物を通読し,現場におけるこれまでの自分の対応を反芻すると,悪いニュースを伝える際の,コミュニケーション・スキルがくっきりと見えてくるはずである。加えて,本書にはアストラゼネカ社の好意によってDVDも付されている。本書をわずか2940円で世に送り出してくれた多くの関係者の努力を多としたい。

 がんは,どのような医療現場でも避けて通れない普通の病気となった。医師として,あるいは看護師,薬剤師などの医療従事者として,がん患者と接するすべての人々に,本書の通読をお勧めしたい。そして,がん医療だけではなくて,すべての医療現場に通じる普遍的内容が含まれていることを感知していただきたいと思う。

A5・頁152 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00522-7


今日の眼疾患治療指針 第2版

田野 保雄,樋田 哲夫 総編集
大路 正人,山田 昌和,野田 徹 編
後藤 浩,永本 敏之,西田 保裕,相原 一 編集協力

《評 者》丸尾 敏夫(帝京大教授・医療技術学部長)

検査・診断から治療まで眼科診療のすべてを1冊に

 『今日の治療指針』は,およそ医師であれば利用したことのない人はいないと思われるくらい医界に膾炙していると言ってよい。私自身,いまなお古い治療指針を紐解いて時々活用している次第である。ただ,『今日の治療指針』は他科医のための治療指針である。眼科医には,たとえば内科疾患の章については参考になる反面,眼科疾患の章は内科医には便利かもしれないが,われわれには役立たない。

 眼科医のためには,眼疾患について掘り下げた知識が必要になる。そういった意味で刊行されたのが『今日の眼疾患治療指針』の初版の主旨であったようだ。初版発行後7年を経過し,その間従来の知識で十分間に合う分野もあれば,進歩が著しい領域もある。現時点での最新の各疾患への対応の指針が示されたのが本書で,日本の眼科をリードする田野保雄教授と樋田哲夫教授の総編集の下に企画されただけあって,項目の選定にもそつがない。項目は870項目にも及び,まず診断をしてその疾患までたどり着くのが大変という場合もある。

 本書には各種疾患・異常の最新の治療法が網羅されているのは言うまでもないが,内容はそれだけにとどまらない。治療法の前には病態や診断が示されているし,「症状・所見・主訴からの鑑別診断フローチャート」もある。「検査総論」には現在眼科で行われている種々の検査法について解説されている。言うならば,『今日の眼科診断指針』や『今日の眼科検査指針』も兼ねている。治療についても,「治療総論」で処置から手術までが触れられ,「診断室,手術室での緊急事態に備えて」と「眼科薬剤一覧」の章がある。このように,診断,検査から治療まで本書1冊ですべて対応できるほど内容は豊富である。表題は『今日の眼疾患治療指針』であるが,これは謙虚なもので,内容からみると『今日の眼科診療指針』とすべきではなかろうか。

 第2版はこのように眼疾患についての最新の情報が盛り込まれており,初版に比べ大型となり,頁数も900を超すので,携帯するよりも座右に置いて,診療中にちょっと調べたいときに利用すると,大変重宝な本ではないかと思われる。

 今後,本書は版を重ねることであろうが,たとえば「視能矯正」や疾患名について用語を正しく使用するようにしていただくとありがたい。

A5・頁960 定価25,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00436-7


プロメテウス解剖学アトラス
解剖学総論/運動器系

坂井 建雄,松村 讓兒 監訳

《評 者》塩田 浩平(京大大学院教授・形態形成機構学)

生体の構造と機能を有機的・立体的に説明

 16世紀に出版されたヴェサリウスの『ファブリカ』以来,今日に至るまで,解剖学書は絶えざる発展を遂げてきた。なかでもドイツ学派の貢献が最も大きくかつ重要で,ドイツからは数々の歴史的名著が出版されてきた。その伝統の上に,このたび『プロメテウス解剖学アトラス』という,その名も壮大な解剖学書がドイツ解剖学の泰斗3人によって新たに完成され,それを坂井建雄教授と松村譲兒教授がいち早く日本語版でわれわれに提供してくれた。

 肉眼解剖学の多くの書物は,いわゆるテキスト中心の教科書的書物とアトラス(図譜)がそれぞれ別に作られ,両者を併せて用いることにより人体の構造の詳細を学ぶことができるようになっている。しかし,『プロメテウス解剖学アトラス』は,こうした従来の常識を打ち破り,まったく新しいアイデアで構成されている。すなわち,1700点に及ぶ図のそれぞれに比較的詳しい説明文が付けられ,構造のポイント,周囲の器官・組織や全身との関連,構造と機能の相関などが図に即して効率的に理解できるように配慮されている。

 また,図譜の生命である図は,他に類を見ない斬新なものが非常に多い。コンピュータグラフィックスを駆使して作られたユニークな構成の図が,従来の写生的な図では描出できなかった視点からの情報をわかりやすく与えてくれる。多くの図譜は写実的な図を中心に構成されているが,本アトラスでは,写生的な図に加えて,模式図やシェーマもふんだんに用いられ,生体の構造と機能が有機的・立体的に説明されている。図はすべて実際に忠実でありながら,新しいグラフィックス手法で作られたため実に美しく色彩も明るいので,眺めていても楽しい。

 本書は原著3巻のうちの1巻で「解剖学総論/運動器系」を扱っているが,運動器の構造と立体的位置関係を網羅的に,かつこれほどわかりやすく解説している解剖学書は余り他に例を見ない。なかでも運動学的な解説は秀逸で,各関節の動きに伴う骨格の変位と可動域,荷重の変化,靭帯と筋の機能などが,ユニークな視点からの解説とそれを補足するわかりやすい図によって説明されている。また,肉眼解剖学的構造と機能を理解するうえで役立つ発生学的事項も,随所にとり入れられている。

 最近の学生は安直な書物に流れがちであるが,本書のような本格的な名著によって解剖学を学習できる幸運を学生諸君が理解し,その喜びを十分享受するよう願っている。本書は,医学生・歯学生のみならず,PT,OT,柔道整復師などをめざすコメディカルの学生にとってもバイブル的な書となるものである。さらに,本書は,それぞれの部分が独立した内容をもって完結しているので,臨床医ならびにその他の医療従事者が座右において辞書的に参照するのにも好適の書である。学生から医師,コメディカルスタッフまでの幅広い読者層に本書が歓迎されることを確信している。

A4変・頁560 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00239-4

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