コミュニケーションスキル(5)
沈黙の意味
連載
2007.12.17
ストレスマネジメント
その理論と実践
[
第21回(最終回) コミュニケーションスキル(5)
沈黙の意味
]
久保田聰美(近森病院総看護師長/高知女子大学大学院)
(前回よりつづく)
忙しい医療現場で働く看護職は,コミュニケーションの取り方もせっかちになりがちです。言葉に詰まったり,沈黙の場面に遭遇しても,つい適当な言葉で濁してしまったり,かみ合わないと思いつつも沈黙をやり過ごすためにそのまま会話を続けてしまうことはないでしょうか。
言葉に詰まってしまう場面
日常の業務における会話の中で,言葉に詰まってしまう場面にはどのような特徴があるでしょうか。
相手が患者さんやご家族の場合,患者さんの病状が思わしくなく,終末期に近い場合には,訪室して患者さんやご家族に何か声をかけても,その次の言葉が続かないことがあります。ここでは,自分自身の無力感を感じながらも,患者さんやご家族の側に寄り添い,立ち尽くすしかない。そういう自分に向き合う勇気とエネルギーがなければ,その沈黙に耐えることはなかなかできません。看護者として逃げ出さず,その沈黙の向こうにある様々な思いをまるごと受け入れる覚悟を持って,ただその場に居続けることで,沈黙は大きな意味を持つことになります。
一方,患者さんからのクレームの場面でも,思わず言葉に詰まってしまうことがあるようです。患者さんの激しい怒りにどう対処すればよいかわからず途方にくれる場合や,患者さんのクレームの矛先が病院の管理体制やひいては医療制度上の問題であったり,医師に対するものである場合などは,ただ黙って聞くしかない場面もあります。
沈黙場面でのノンバーバルスキル
しかし,沈黙場面こそ注意が必要なのがその際のノンバーバルスキル(非言語的技術)です。眼は口ほどにものを言うものです。その際の目線,表情,相手との距離感,立ち位置(座る位置)等々すべてが相手との関係性に影響してきます。前述のクレームを聞く場合にさらなる患者の怒りをかう原因に発展しやすいのが「私にそんなことを言ったって」とか「そんなこと言ったってそれは私のせいではない」という思いが表情に表れてしまう場合です。ムスッとした表情でただ相手のクレームを聞いていても「黙ってないでなんとか言ってみろ!」「お前じゃ埒(らち)があかない,責任者呼べ!」と最悪のパターンになりかねません。
たとえ相手の怒りにどう対処すればよいか途方にくれ,その怒りの矛先が自分に向けられることは理不尽だと思ったとしても,相手は病院の職員の一人であるあなたに向かって言っているのです。その事実を冷静に受け止め,その怒りに向き合う覚悟を持って臨むことが大切なのです。その時,「病院のシステム上は仕方ないことなのだけれど,たしかに患者さんの立場としては腹が立つだろうなあ」という思いを持って話を聴くことに努めていれば,たとえ言葉はなくとも怒りを助長することは少ないでしょう。ある程度の時間はかかるかもしれませんが,「あなたに言っても仕方ないんだけれどね」と患者さん自身が気づいてくださる場合がほとんどです。
もちろん,最近は確信犯的な要求水準の高い患者さんも増えているので,クレーム対応窓口につなげることも大切です。が,それまでにむやみに怒りを助長しないためにも,まずは毅然とした態度で傾聴に努め,言葉はなくとも(沈黙の中で)受容していくことは有効だと思われます。
面接場面での沈黙
面接場面における沈黙はさらに重要な意味を持ってきます。前回にもお話ししたように,面接場面における基本は,まずは「傾聴」に努めることが大切です。たとえ離職希望...
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ストレスマネジメント(終了)
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