JALC主催「母乳育児支援セミナー」
2007.12.17
楽しい!母乳育児支援
JALC主催「母乳育児支援セミナー」
JALCはエビデンスに基づいた母乳育児を支援するための最新の知見・スキルを伝えることを目的に,年間を通じ,各地でセミナーを実施している。IBCLC会員の医師,助産師,カウンセラーらが本業の合い間を縫って,毎回,手作りで企画・運営にあたる。本紙では,さる11月3-4日に大阪国際交流センターで実施された「第3回 医師のための母乳育児支援セミナー」を取材した。
今回のセミナーは医師・歯科医師を募集対象とし,ほとんどの聴講者が周産期医療に携わる医師だった。医学の卒前教育で母乳育児が取り上げられることは皆無に近いというが,JALCでは臨床現場で方針決定を担う医師にこそ,適切な知識を持ってほしいとの思いから,3年前から定期的に,医師を対象とするセミナーも開催している。
2日間のプログラム(表)は,母乳育児支援において重要な事項を理論と実践の両面から,網羅的に学べるよう,構成されている。
表 今回のセミナーのプログラム | |
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授乳のポジショニング(授乳姿勢,抱き方),ラッチ・オン(吸着,含ませ方,吸い付かせ方)のエビデンス確立に向けた研究は1980年代から本格的に始まった。JALCでは,この支援方法のレクチャーを重視している。今回のセミナーでも,小児科医の立場から瀬川雅史氏(勤医協札幌病院),助産師・保健師の立場から水井雅子氏(富山・みずい母乳育児相談室)により「楽チン! 楽しい母乳育児-ボクにもできるHands-offのポジショニング支援」と題し,実践的な講演が行われた。
このなかで瀬川氏は,米国の母乳育児研究の第一人者である医師,ルース・ローレンス氏の“Successful breastfeeding is an infant-led process”という言葉を引用,“赤ちゃんが主導的に飲む”ことが母乳育児成功の大前提と強調。合わせて回数や長さを制限しない授乳を推奨した。
母乳不足感に悩む母親も多い。日本では母乳産生のために回数のみに注目した頻回授乳を促されることも多いというが,瀬川氏は「生理学的なサイクルとしては,産生された母乳を赤ちゃんが完全に飲みきる“Milk Removal”によって次の産生が促進される」と解説。授乳回数も大切であるが産生された母乳を飲みきることの重要性を強調した。援助者は,制限しない授乳に加え,赤ちゃんが自ら乳房を離すまで十分に授乳するという情報提供を行いたい。
この後,適切なポジショニング,ラッチ・オンの方法として,近年推奨されている「asymmetric latch(上下非対称の含ませ方)」などラッチ・オン技術の解説に続いて,実践例として,適切なポジショニングを支援できなかった医師が,助産師に“ダメ出し”をされながら,段階的にスキルアップしていく様子がコミカルな寸劇で演じられ,会場からは笑いが起こった(写真)。
井村氏もインタビューで語ったように,これらの技能を母親たちに示す際には,母子に能動的に体得してもらうため,援助者が母子に直接手を触れず(Hands-off)に行うことが基本とされている。このとき援助者に求められる姿勢は,母子を温かい目と態度で見守り,エンパワーメントすること。水井氏は「表情や態度は言葉よりも影響力が大きいということを意識しながら実践してほしい」と強調した。
この研究報告もすでになされており,英国・ブリストルでは,出産を終え退院する前にハンズオフ支援によりポジショニング,ラッチ・オンを学ぶプログラムを実施したところ,退院後の母親からの相談が有意に減少したほか,母乳育児の継続にも好影響をもたらしているという。また副次的な効果として,支援する医療スタッフの腰痛が減少したそうだ。
では適切なポジショニング,ラッチ・オンが行われているか,どう評価すればよいのだろうか。瀬川氏は「外観から評価を行うのは必ずしも容易ではない」としたうえで,(1)母親にとって痛みがない,(2)赤ちゃんにとって有効な授乳(適切な体重増加を伴うなどの視点から)の2点をもって適切なポジショニング,ラッチ・オンとの評価を行う,と解説した。
JALCのセミナーは来年も実施される。詳細はウェブサイトで確認できる。
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