医学界新聞

インタビュー

2007.11.12

 

【interview】

ジェネラルとスペシャルの協力体制を築く
大滝純司氏(東京医科大学病院総合診療科教授)に聞く


“ふつうの大学”で“ふつうに”ジェネラルの研修ができないか

――総合診療科の新設にあたり,2005年に東京医大に赴任されています。大学病院の総合診療部門が逆風のなか,どうして決断されたのでしょう。

大滝 私自身は学生時代からへき地医療や家庭医療に興味があって,大学で働きたいとは思っていませんでした。しかし,ジェネラルな研修をするのにいい場所があまりなかった。あったとしても,自分にとっては体力的にきつかったり,臨床研修留学も英語の試験に受からなくて諦めたりで……(笑)。そういう経験もあって,ジェネラルの研修を“ふつうの大学”でも,“ふつうに”できないものか。しかも,すごい指導医が特別なことをやるのではなく,どの大学も真似できる総合診療部門ができないかと,ずっと思っていました。

――以前からそういう気持ちがあったのですね。

大滝 特に東大の職場は臨床部門ではなかったので,逆にその思いを強く感じていました。当時たしかに,市中病院で総合診療部門が増える一方,大学はジリ貧状態で,「なぜこんなに苦労するのだろう」という疑問もありました。開業やへき地診療所勤務も考えてはみたのですが,「一度は自分が責任者となって大学病院の総合診療部門の立ち上げに挑戦しないと,後悔するのではないか」と悩んでいた時に,今の職場の計画を伺ったのです。

診療ニーズを高めるポイント

――総合診療科の役割を「診療」と「教育」に分けると,特に診療面で苦労している大学病院が多いのではないでしょうか。

大滝 理念だけでなく,“役に立つ”こと,つまり「総合診療科があってよかった」と患者さんはもちろん,他科の医療職からも評価されることが大事だと思うのです。私は総合診療科の新設に関われるならどの大学でもよかったわけではなくて,「ここ(東京医大)なら可能なのではないか」と思った理由があります。それは,内科主任教授の先生方が応援してくださったことです。

 プライマリ・ケアの基本はやはり内科で,総合診療部門がうまく機能するには専門内科との協力体制が重要です。総合診療部門の存在を,内科医がどう捉えるか。対立して役割を線引きするのではなく,協力してジェネラルとスペシャルを組み合わせた診療体制がつくれるかどうか。これが最大のポイントです。

――実際,内科の医師が総合診療科に出向で来られていますね。

大滝 それと,内科関連の各科から最低1コマ,当科の外来に参加をお願いしています。いまは人手不足でどこも本当に大変なのですが,総合診療科の様子を知ってもらいたいという意味もあってお願いしています。

――最近は院内各科から総合診療科への紹介も増えつつあるようですね。

大滝 そうですね。もちろん,こちらから各科に紹介することのほうがずっと多いです。単に「お願いします」だけでは,「総合診療科は面倒なものを振り分けて押し付けているだけじゃないか」となりかねません。各科と積極的に交流し,少しずつ力をつけて信頼を得ていきたいです。

コモン・ディジーズを大学病院で学ぶ方法

――大学病院にしては,紹介状を持たない新患が非常に多いですね。

大滝 それもあってなおのこと,総合診療科が役に立ちやすい環境にあると思います。専門各科があるので,最初から診断のついた症例だと,どうしてもプライマリ・ケア部門の役割は少なくなります。一方,いろいろな症状がある,診断のついていない患者さんを診るのは,専門性の高い医師にとってはストレスフルでも,ジェネラルな医師は得意です。

 当院は,風邪や腹痛以外にも,うつ病や脳卒中,歩いて受診される心筋梗塞……,変な言い方ですが実によく混ざっている(笑)。「自分が研修医だったら,こういうところで研修ができたら面白いだろうな」とよく思います。

――「大学病院ではコモン・ディジーズを診ることができない」と言われます。

大滝 それはたしかにあると思います。ここは逆にいうと,大学病院らしくない患者層なのかもしれません。

――他の大学病院で同じことができるかというと……。

大滝 セッティングを工夫しないと難しいでしょう。例えば,アクセスがよく多様な患者さんが来院する場を別に用意して,そこに教育担当のスタッフが出向く状況をつくる。あるいは東大のように内科混合病棟をつくって,各サブスペシャリティの混成チームが診るというやり方も,すばらしいです。いずれにせよ,患者さんがいないことには教育も始まらないでしょう。

――入院診療も必要でしょうか。

大滝 あったほうがいいとは思います。私は入院患者を受け持つところと受け持たないところ,両方で働いたことがあるのですが,ベッドを持っていると総合診療科の役割が広がるし,ジェネラルに診ることの意義を研修医も理解しやすくなります。ただ,これには大変な労力が必要で,中堅層のスタッフが常に病棟にいないと責任ある診療ができません。当院も総合診療科だけで当直を置くことはできていないのが現状で,まだ不十分です。

――逆に,大学病院で研修することのメリットはなんでしょう。

大滝 最大のメリットは,いろんな専門医がいることです。中小の病院だと,他の病院に送って「精査します」という返事だけが来て,その後の経過がよくわからなくなったりしますが,大学病院なら専門各科に直接いろんな相談ができて,たいてい結論が出ます。

 私はよく研修医に話すのですが,“どこまで考えて,どこがわからないか”を整理して,専門各科に依頼状を書く。すると,それに対しての具体的なフィードバックが返ってきます。研修医もそうですが,私のようにロートル化した医師にもいいトレーニングになっています(笑)。

「いい研修をしている病院が,いい病院」の時代に

――新医師臨床研修制度の現状をどう評価されますか。

大滝 このまえ夜間の内科系の総合診療当直外来を,私と卒後3年目の後期研修医,それから1年目・2年目の研修医1人ずつの4人のチームでやりました。3年目の研修医はたまたま内科の医師ではなかったのですが,どんな患者さんでも問題なく診るし,初期研修医の指導医としても頼りになります。

――新制度の効果が出ていると?

大滝 診断のついていない人をまず非選択的に診ることが,誰でもできる。そういう点で,効果はある程度あがっているのではないでしょうか。そんなのは当たり前かもしれませんが,その当たり前のことができていなかったからこそ始まった制度なのだと思います。

――では,今後の課題は?

大滝 今後は,研修の質が問われると思います。それで将来は,「いい研修をしている病院が,いい病院」と評価される時代になってほしいのです。いまは「研修医に診られるのは嫌だ」という患者さんも当然おられます。しかし,これから研修医が診ることのメリットや指導体制が浸透して,「あの病院は研修医がいるから安心だ」「研修医がすぐに来てくれる」となっていけば,患者さんも指導医も研修医も,みんながハッピーになれます。

 それと,これは私たち総合診療科の社会的使命として掲げていることでもあるのですが,「適切なプライマリ・ケアをあらゆる人に提供するために」この制度が貢献してほしいと思っています。臨床研修を経ることによって,へき地医療を担う医師が増えたり,あるいは救急の当番を引き受ける医師が増えたり,そうやって医師不足・偏在を解決していく一助になればと願っています。

――最後に,研修医・医学生へのメッセージをお願いします。

大滝 私自身は自分の興味もあってジェネラルにやってきましたが,そういう方向にあまり興味がない人もいるかもしれません。しかし,診断がついていない体の調子が悪い人がいたら,まず話を聞いて,診察をして考える。このトレーニングを受けることは,将来どの専門に進むにしても絶対に損になりません。そこはぜひ,手を抜かないでやってほしいと思います。

(了)


大滝純司氏
1983年筑波大卒。川崎医大病院,筑波大病院,北大病院助教授,東大医学教育国際協力研究センター助教授などを経て,2005年9月より現職。編著書に『診療の基本――コア・カリキュラム対応』(金芳堂)など。日本医学教育学会理事,「新医師臨床研修における指導ガイドライン検討作業班」班長なども務める。

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