腸疾患診断について考える(清水誠治)
診断とは分類を追試し,再構築していく能動的プロセス
寄稿
2007.11.05
寄稿
腸疾患診断について考える診断とは分類を追試し,再構築していく能動的プロセス
清水誠治(大阪鉄道病院消化器内科部長)
「診断」とは個々の症例に対して疾患名を割り当てる行為であり,診断に基づいて治療の要否や方法が決定される。そして,診断においては三要素――疾患についての知識,情報を収集する技術,それらを統合し診断につなげる思考――が重要である。普段は診断という行為自体を意識することがほとんどないが,本稿では腸疾患における診断のプロセスを題材として日頃考えていることを述べてみたい。なお浅学ゆえ独善に陥りがちであるが,その点はご容赦いただきたい。
疾患概念について
まず,腸疾患の複雑さについて疾患名を例にとってみたい。疾患名とは分類であるが,動植物の分類と違ってきわめて複雑である。世の中の事象には原因と結果があると考えられるが,原因が不明で現象としてしか捉えられない疾患が多い。したがって,疾患を命名する規範はさまざまである。このような分類は分類学の世界では交叉分類として望ましくないとされている。疾患を腫瘍と炎症に大別すると,腫瘍性疾患では症候群,Kaposi肉腫などの例外を除き,大半が病理組織学的特徴により命名されており比較的単純である。一方,炎症性疾患においては命名の規範が多様である。原因を示す名称(感染性,薬剤性,虚血性など)。現象を表現している病名として肉眼的形態を記述した病名(潰瘍性大腸炎,偽膜性大腸炎など)と,組織学的特徴を示す病名(アミロイドーシス,collagenous colitisなど)がある。これらが複合した病名(抗生剤起因性出血性大腸炎,急性出血性直腸潰瘍など)や全身性疾患の部分症としての腸病変がある。また,人名を冠した病名をもつ疾患はひと口に表現しにくいものが多い。
現象における類型により括られた疾患概念というものには明確な境界は存在しない。潰瘍性大腸炎,Crohn病は代表的な診断基準病であるが,それぞれUC,CDと記号化して対置され,まとめてIBDと呼び習わされている。診断基準はあくまで人為的に決められた境界線であり,その運用にあたっては慎重な態度が必要である。
世の中にはまったく同じ病変は存在しない。診断という行為は個々の事例を共通項で括られた疾患概念に当てはめていくものであるが,同時に分類を追試し再構築していく能動的プロセスでもある。
病歴について
病歴は診断への入り口である。主訴,現病歴,既往歴,家族歴などから疾患を絞り込んで診断プランを決定する。病歴を取るに際しては,対話の中で必要な情報を収集するが,患者が話す言語(自然言語)と医学で用いられる言葉(医学用語)の違いを意識しなければならない。対話は徒に誘導的であってはならないが,効率的でなければならない。特に語られていない重要な情報を,対話の中で引き出すことが大切である。また時間経過の中で病歴を組み立てることが,因果関係を推定するうえで重要である。そのためには,予め十分な疾患の知識を備え,疾患を想定することが要求される。画像診断について
内視鏡は光が届かない領域に光と眼を導入した。可視光以外にも,X線,超音波,非可視光,磁気など,元来眼には知覚できないものを,知覚可能な形に変換し視覚認識する手法が画像診断に用いられている。いわば画像診断法は「眼」の外延である。しかし,今日のように多種多様な診断手法が存在すると,取捨選択や優先順位の決定に当惑する。特に初学者でこの傾向が顕著である。消化器科の医師が修得すべき検査や手技は増える一方であるが,検査法には流行りすたりがある。特に大腸においては内視鏡は微細診断に秀で,眼の外延としての究極型である...
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