医学界新聞

2007.10.15

 

基礎から臨床まで幅広い演題が

第71回日本心理学会の話題から


 日本心理学会は,全国規模の心理学の総合学会として基礎から臨床まで幅広い分野を有する学会。ポスター発表のテーマも「社会・文化」「臨床・障害」「生理」「感覚・知覚」「認知」「情動」「発達」とさまざまである。その中には,心理療法やサイコオンコロジー,認知症の予防やリハビリテーション,ヒューマンエラーから考える医療事故防止の問題など,医師・看護師に役立つと思われるプログラムも見られる。本紙では9月18-20日,東洋大学(東京都文京区)で行われた第71回日本心理学会のプログラムからいくつかを紹介する。


脳損傷・統合失調症・強迫性障害患者への臨床神経心理学的アプローチ

 臨床神経心理学とは,脳損傷などによって生じるさまざまな認知機能の障害を,画像診断や心理検査を用いて研究し,治療への貢献をめざす研究領域。

 具体的には院内にて脳神経外科や神経内科などと協働し,臨床症状の詳細な検討と脳損傷部位の同定,およびそれによって明らかになった症状への援助などを行うほか,健常者との比較からヒトの認知機能を探る試みも行う。しかしわが国では,これら臨床神経心理学的援助を行う臨床心理士の認知度が低く,数も少ないのが現状である。本ワークショップでは,田中恒彦氏(徳島大),司会の松井三枝(富山大)・富永大介(琉球大)両氏らが,日ごろの臨床研究から得られた知見を紹介した。

浦河べてるの家を研究する
――当事者研究と認知行動療法の接点

 洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長の伊藤絵美氏をはじめ,スタッフの吉村由未氏,津高京子氏らがそれぞれ「問題志向」や「日常性の重視」など,認知行動療法とべてるとの接点を解説。吉村氏は,一般的な認知行動療法では,日常性を維持する“しかけ”として面接場面と日常の橋渡しとなる「ホームワーク」があるが,べてるではミーティング,SST(生活技能訓練),当事者研究など“しかけ”自体が日常に組み込まれていると指摘した。

 続いて,浦河べてるの家ソーシャルワーカーの向谷地生良氏と当事者の亀井英俊氏が「パートナーとの付き合い方の研究」と題した当事者研究を発表。べてるでは当事者同士のカップルも多く,亀井氏もその1人だ。しかし,当事者同士のカップルは病気以外に新しい苦労を抱え込むことにもなるという。亀井氏は,パートナーの中西敦子氏とともにお互いの付き合い方を研究し,悪循環を形成していた要因を明らかにした。そのうえで「自分に不満があるときは相手に不満を持ち,自分を許せないときは相手を許せなくなる。パートナーとの付き合いは自分との付き合い」と述べた。

Cognitive Agingを考える
注意機能は加齢に伴って低下するのか

 石松一真氏(東医歯大)は,若年者と高齢者では,固視点上に生じる変化を検出する能力に違いがあるとし,若年者では対象の出現条件と消失条件で反応時間に差がないのに対して,高齢者は消失条件で反応が遅延すると指摘。これは輝度変化などの物理的変化の差では説明不可能で,意識の問題が重要ではないかと述べた。石松氏は,注意の選択・抑制機能に生じる加齢変化は,単一のメカニズムでは説明が不十分なこと,また若年者と高齢者では注意機能に質的な違いがあることなどを示唆した。

 久保(河合)南海子氏は,サイモン課題と呼ばれる課題を用いた研究の結果,加齢に伴って低下するのは能動的な注意の開放であると説明。「能動的な注意の開放には頭頂連合野,受動的な注意の開放には中脳の上丘が関連していることから,それぞれの領域における偏性の違いを表している可能性がある」との見解を示した。

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