医学界新聞

2007.08.06

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


不整脈
ベッドサイド診断から非薬物治療まで

大江 透 著

《評 者》相澤 義房(新潟大大学院教授・循環器学)

不整脈診療のすべてをこの一冊に

 この度,医学書院から,大江透教授(岡山大学大学院・循環器内科)の手による『不整脈――ベッドサイド診断から非薬物治療まで』が上梓された。

 氏は医学部卒業後米国での臨床研修トレーニングを受けられ,帰国後は国立循環器病センターの循環器部門の創設に加わられた。同センターでは,不整脈領域の診断と治療に専念されるとともに,不整脈専門医をめざす若い医師の育成に当たられてきた。その後,岡山大学循環器内科の第2代目の教授として赴任された。

 大江教授は,国立循環器病センター赴任当初から日本における心臓臨床電気生理検査の確立に多大な貢献をされ,また温厚な推進者の一人であった。その臨床での成果はCirculationなどに発表してこられ,氏は国際的にも評価されている。

 岡山大学に赴任後は,医学生や若い医局員に不整脈をどうやさしく教えるかに腐心されていたと聞く。それが結実したものが本書である。本書の特長はいくつかあげられる。それは序にあるように,一人で一貫性をもって書かれたことがある。その結果,不整脈そのものを教えるのではなく,不整脈を有する患者さんについて,心電図で得られた所見(不整脈)の考え方について,そして不整脈の解決のための電気生理検査への考え方について,これらを包み込むように著わされていると思われる。

 構成を工夫されつつも,一般的な不整脈の基礎,不整脈の症状と身体所見,検査および治療に続いて,代表的な不整脈をとりあげ,再度その特徴から治療までを解説されている。

 通常の教科書は,不整脈の詳細は記述で済まされることが多いが,本書は不整脈の歴史とともに,患者さんを総合的あるいは全人的に捉えたいとの意図があるように思える。

 本書は著者の構成された順序で読み進んでもよいし,また個々の不整脈から読み出して,随時不整脈の基礎や検査法に戻ってもよい,読みやすい書になっている。図も臨床的に重要かつ必須なものが提示されているが,これらはこれまでの著者の長い臨床経験で得た自前のものであり,図の解説も根拠に基づいているので説得力がある。心電図や電気生理検査所見の図をみて,著者の意図する所を推理するという読み方も,自己の実力がどのレベルかを判断するのによい材料になる。本書でもそのような読み方をぜひ推奨したい。

 重症不整脈や重症心不全では,植え込み型除細動器(ICD)や再同期療法(CRT)をどう用いるかのガイドラインについて,わが国ではまだ未完成な面がある。このような新しい治療法に対しても,現状が十分に紹介されている。

 著者が意図されたように,医学生,不整脈専門医をめざす初心者および不整脈非専門医の医師以外に,われわれ不整脈専門医にとってもいつでも開けば参考になる好著である。

B5・頁536 定価8,925円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00208-0


がん診療レジデントマニュアル
第4版

国立がんセンター内科レジデント 編

《評 者》根来 俊一(兵庫県立がんセンター部長・化学療法)

がん医療に必要な項目を漏れなくコンパクトに収載

 本書は今回で第4版。このことだけでも,がん医療の第一線で勤務するいかに多くの若手医師などに愛読・利用されているかがわかると思います。第4版の構成は,はじめに総論的に「がん告知とインフォームド・コンセント」,「がん薬物療法の基本概念」,「臨床試験」が取り上げられ,続いてメインである各臓器・組織の悪性腫瘍に対する診断,治療,予後までが簡潔に記載されており,最後にがんに伴う合併症,抗がん剤に伴う有害事象(副作用)対策,緩和医療などが記載された構成となっています。第一線のがん医療現場で必要な最小限度の事項がもれなく記載されています。がん医療に携わる多忙な若手医師には,きわめて便利な構成と内容となっています。このようなコンパクトで便利なマニュアルを企画・制作された方々の先見性とご努力に心からの敬意を表したいと思います。

 腫瘍内科学は急速に進歩しており,数年前のエビデンスはもはや時代遅れとなり,役に立たないばかりか有害にすらなる現実からすれば,本書の執筆・編集に関わる方々には大変ですが,できれば毎年小改訂され,数年ごとに大改訂するという作業を希望いたしたいと思います。

 一方,本書を利用される先生方におかれては,次の点に留意していただきたいと思います。本書は確かにがん医療の最前線で日々苦闘されている若手医師にとって大変便利なマニュアルではありますが,このマニュアルに記載されている内容は,世界中の研究者が臨床試験などを積み重ねて到達した知見のエッセンスのみであるということです。エッセンスだけを鵜呑みにしてはいけません。必要な項目については,ぜひ原著論文に遡ってエビデンスとなった背景を,各人で批判的に確認するという作業が必要です。マニュアルの便利さは重要ですが,それを利用する医師は便利さに埋没するのではなく,それを出発点としてより深い知識を得るために原著論文に遡るという努力を惜しんではいけないと思います。本書はその手引き書(腫瘍内科学へのナビゲーター)としての性格をも内包していることを忘れないでください。

 最後に,本書の編集責任者である勝俣範之先生が,第4版の「序」に書かれた大変重要な言葉を引用したいと思います。「……腫瘍内科医の役割として,“がん薬物療法の専門家”であることはもちろんですが,内科医として,“診療ナビゲーター”であることがより重要である……」と述べられている言葉に包含されている深い意味を,読者である若い先生方には,ぜひ汲み取っていただきたいと思います。

B6変・頁420 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00310-0


現場から学ぶ
自立支援のための住宅改修
みてわかる工夫事例・不適事例

鶴見 隆正,田村 茂,宮下 忠司,与島 秀則 著

《評 者》備酒 伸彦(神戸学院大准教授・医療リハビリテーション学)

人の暮らしの側から読み解く住宅改修の手引き書

 確かな基礎知識と豊かな発想力,そして具体的な実践力

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook