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現場から学ぶ 自立支援のための住宅改修
みてわかる工夫事例・不適事例

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急速な高齢化と介護保険制度の改正により、その内容と質が問われる住宅改修。本書は、日々住宅改修の現場に携わる執筆者が、多くの経験から精選した工夫事例と失敗事例を紹介。事例は疾患名や身体機能、改修の特徴をコンパクトに紹介し、イラストと写真を中心に「みてわかる」よう構成。各項目末にはあらゆる事例に共通する基礎知識をまとめた「知っておきたい基本事項」を加えた。住宅改修の「目の付け所」が身につく1冊。
鶴見 隆正 / 田村 茂 / 宮下 忠司 / 与島 秀則
発行 2007年05月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-00454-1
定価 2,640円 (本体2,400円+税)
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  • 序文
  • 目次
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はじめに
田村 茂

 今でこそ,障害をもった人が住み慣れた家や地域で生活するために住環境整備が不可欠だということは常識となっています。でも,私がこの領域に関わりだした1975年頃は,車いすで生活をする人が家に帰ることも,そのために住宅改修を行うこともまれでした。リハビリテーションの理念が浸透するとともに,住宅改修の提案が患者さんとその家族に受け入れられるようになり,病院での入院生活から在宅での生活に向けて,住宅改修を通して支援する機会が増えてきました。地域・在宅での生活が重視されるようになってからは,多くの職種の方が住宅改修に関わるようになり,このこと自体は,たいへん喜ばしいことです。

 さてこの度,本書をまとめるに至ったのは,私たちが10年前からリハビリ関係職,保健師,建築士,福祉用具製作者,障害をもつ人・その家族,そして住宅改修に興味のある一般の方々と組織している「障壁を考える会」がきっかけです。この会では,住宅改修の報告や検討,設備機器メーカーによる講義,新築住宅や施設の見学などを行いながら,集まっては情報や意見を交換してきました。その活動の一環として,2004年に,それぞれの経験に基づく不適事例や工夫事例を『住宅改修あれこれ』と題した小冊子にまとめました。介護保険制度がスタートしてから住宅改修がさかんになってきたものの,せっかく改修したのに対象者にとっては使いにくい不適な事例が目につくようになってきたからです。一方で,多くの参考書には成功事例や一般的な事例ばかりが紹介されているので,失敗や工夫のある実際の事例を紹介することが役立つと考えたのです。
 『住宅改修あれこれ』は,不適事例と工夫事例を簡単かつわかりやすくまとめたものとして,多くの職種の方からご好評をいただきました。その冊子を目にした神奈川県立保健福祉大学の鶴見隆正先生から「中身を充実させて,まとめ直してみないか」とご推薦いただきました。医学書院医学書籍編集部の金井真由子さんのご支援があり,理学療法士の養成校の教え子である大工淳子さんにわかりやすいイラストを描いていただき,なんとか刊行までたどりつきました。

 私たちは在宅,いわゆる生活現場をフィールドに仕事をしている仲間です。ですから現場からの視点を一番大切にしてまとめました。稚拙なところもあると思いますが,少しでもみなさんの実際の住宅改修に役立つことができれば幸いです。
 2007年4月

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住宅改修に求められる視点とは
 I. なぜ住宅改修が必要か
 II. 日本の住まいづくりをみつめる
事例から学ぶ住宅改修-工夫事例と不適事例
 (1) 手すり
 (2) 段差
 (3) スロープ
 (4) トイレ
 (5) 浴室
 (6) その他
付録
 Q&A
 用語解説
おわりに
索引

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自立支援の考え方を「住宅改修」を通して表現
書評者: 中村 春基 (兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンター・リハビリ療法部)
 この本のすごいところは,田村氏の臨床に裏付けられた黙示録であることといえよう。数多い「失敗」と「成功」の事例の中に,田村氏のメッセージが込められている。田村氏は数少ないダブルライセンスの取得者(理学療法士と作業療法士)であるが,底辺に流れるのは利用者の生活であり,物理的な改修事例の羅列に止まらず,利用者の自立支援を考えるということは,どういうことであるかを「住宅改修」を通して表現しているように読める。タイトルの「自立支援のための住宅改修」には,田村氏の素直な想いが込められていると思う。読者の皆様も,ご一読いただいたら,改めてタイトルの奥深さに触れられると思う。

 本はまず「はじめに」を読むべし。そして最後に解説を読んで改めてその本のよさを,解説者の意見の中で確認する。読書にはそんな楽しみがある。そのようにして本書を読むと,鶴見氏が「おわりに」で述べていることと,私の感想が一致していたことに一人満足感を得た。

 本書は画一的な改修に対する警告を発し,生活史をみることの重要性,改修の前に考えること,改修に対する心構え等々,新人が読んでも,経験者が読んでも多くの示唆を与えてくれる。手すりの位置決めのポイント(46―47頁),疾患による留意点(48頁),使われない洗面台の事例(104頁)等々,「何が不適切か」「こんな工夫ができる」といったポイントが満載である。また,各章末には「知っておきたい基礎知識」を,巻末には「Q&A」を収載しており,地域リハビリテーションや在宅ケアに携わるすべての方々に読んでいただきたいと願っている。

 さて,田村茂氏は作業療法の世界では,アームスリングやスプリントといった領域で先駆的な取り組みがあり,新人職員に関連文献を調べさせると必ず田村文献を挙げてくるほどである。私が田村氏に初めてお会いしたのは,かれこれ20年以上前にさかのぼり,国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院の学生だったころと記憶している。当時,田村氏は理学療法学科に在籍し,その一方で,作業療法科のスプリントの講師を務めていた。四角い顔のうえに温和な表情,角刈り頭で,めがねの縁をもち,少し低めの声で今後のリハビリテーションについて話していたことが,昨日のことのように思い出される。そんな田村氏の長年の臨床を書籍として世に出された,鶴見氏をはじめとした関係者の方々に感謝の意を表する。
生活様式・動作をもとに工夫のポイントを解説
書評者: 秋田 裕 (横浜市総合リハビリテーションセンター)
 介護保険制度が始まって以来,住宅改修は介護サービスのひとつに位置づけられ,高齢者や障害のある方々の在宅生活を支援する重要な手段であるとの認識が定着したのは大変喜ばしいことです。しかし現状では,施工された住宅改修が必ずしも満足な結果をもたらしているとはかぎりません。せっかく改修工事をしたのに,使いにくい,期待したほどには改修効果が上がらなかった,さらには改修した所で怪我をする危険があるなど,不適切な改修事例も数多く見受けられます。

 本書には57の住宅改修事例が紹介されていますが,書名にもあるように「生活の現場から学んだ」具体的な事例紹介にあふれています。巷には住宅改修に関する書籍が数多く出版されていますが,制度の解説や一般的な改修事例の紹介に終始しているものが多いようです。そんな中で,あえて失敗した改修事例や工夫を施した事例を取り上げているのが本書の大きな特長と言えます。

 不適切な事例の紹介では,何が不適切だったのかを指摘して,その対応を示し,ミスを起こさないためにはどうしたらよいのかを簡潔にまとめています。また,当事者の生活様式や動作を確認した結果をもとに,さまざまに工夫した改修事例では,なぜそのような工夫が必要であったのか,工夫のポイントは何かが解説されています。改修事例は,手すり,段差,スロープ,トイレ,浴室などの項目ごとに,豊富な写真とイラストとともに紹介されており,さらに改修箇所ごとに知っておきたい基本事項がわかりやすく解説されています。巻末に,よくある住宅改修のQ&Aと建築関係の用語解説が掲げられているのも実践の場ではすぐに役に立つでしょう。

 数年前のことになりますが,著者のお一人である田村茂さんから,本書が出版されるきっかけとなった『住宅改修あれこれ』という小冊子をいただきました。田村さんは富山県で訪問リハビリテーションの実践者として,長らく住宅改修の現場に関わってこられましたが,その活動の中で住宅改修に関わる保健医療福祉領域の専門職,建築士,福祉用具製作者,障害の当事者と家族の方々や住宅改修に関心のある市民の方々とともに「障壁を考える会」を組織し,住宅改修事例の報告や住宅の見学を行いながら意見交換を積み重ねてきたそうです。こうした障害者・高齢者の生活の現場での実践の積み重ねと,関係者の熱い議論があったからこそ,本書のような現場の視点に立った事例紹介ができたのだと確信しています。
人の暮らしの側から読み解く住宅改修の手引き書
書評者: 備酒 伸彦 (神戸学院大准教授・医療リハビリテーション学)
 確かな基礎知識と豊かな発想力,そして具体的な実践力。住宅改修に関わる人にはこの3つの力が求められる。当然,指標となるべき書物にはそれらが盛り込まれているべきなのだが……。

 本書にざっと目を通した時「やっと出会えた」と,懐かしさに似た気持ちを感じたのは,本書に,住宅改修にまつわる基礎知識・発想力・実践力の3つが渾然となって盛り込まれていたからだろう。

 さて,引き込まれるように詳しく読んでみると,本書には「珍しい事例や,びっくりするような新製品」は登場しない。これがすばらしい。人の暮らしが営まれる住宅に,専門家の独りよがりな斬新さは不要である。本書はその点を一歩も踏み外すことなく,まさに正攻法で,暮らしやすい住まいづくりの提案を重ねている。

 一方で,本書には繰り返し「人の暮らし」が登場する。これが嬉しい。住まいは人があってこそのもので,無機質な解説にとどまる書物は,読み手に余程の力があってもただの資料としての価値しかない。その点,本書は住宅改修に初めて関わる人であっても,人の暮らしの側から読み進むことができるので,住宅改修の手引き書として十分に読みこなすことが可能である。

 さらに,本書の特筆すべき点は「言い訳がない」ことである。これが潔い。1頁1事例のルールを守る本書には,言い訳を書くほどのスペースはない。このことが結果として本書の質を高めている。本書は,潔く事例を提示することによって,読み手と現場経験を共有することに成功しているとも言える。

 最後にもう一つ,本書は「サービス利用者と提供者の共同作品」として読むことができる。これが羨ましい。事例ごとに提供される写真の豊富さは,サービス利用者と提供者の間に強い信頼感があることの証だろう。サービス利用者と提供者の間に信頼感がある事例であるから,そこに嘘はない。安心して読み進むことのできる共同作品というわけである。

 以上が,高齢者リハビリテーションと介護に在宅の現場で関わってきた私の書評である。本書は「事例を積み重ねる」という仕事の大切さも再認識させてくれた。その意味でも私にとって貴重な一冊であると言える。

 このような書物が,職種を越えて広く,住宅改修に関わる人の手に届き,日々の仕事に役立てられることを願うばかりである。

 すばらしく,嬉しく,潔く,羨ましい本書を,私自身もいつも手にとれるところに置いておきたいと思う。

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