医学界新聞


医療機能情報提供制度の今後

2007.07.16

 

医療機能情報提供制度の今後

第57回日本病院学会の話題から


 第57回日本病院学会が6月14-15日,藤原秀臣氏(土浦協同病院院長)のもと,つくば国際会議場(つくば市)にて開催された。日本病院学会は医師だけでなく看護師やPT・OT・STなど病院内の全職種が研究発表を行う特色ある学会。今回は「医療と社会の豊かな共生と新たな創造」がテーマとなった。

 弊紙ではシンポジウム「病院のこれからの情報発信を考える-医療機能情報公開制度をふまえて」(座長=中津医療福祉センター・齋藤洋一,医療情報システム開発センター・山田恒夫)について紹介する。


 はじめに大井利夫氏(日本病院会)が基調講演として,医療機能情報提供制度の概要を説明。当制度は,昨年6月の第5次医療法改正で加えられた「患者等への医療に関する情報提供の推進」を受けて検討会を設立,本年4月から施行されている。特徴は,「住民・患者の視点に立った情報提供が,医療法に基づく公的制度として都道府県主体により行われ,すべての医療機関(病院,診療所,歯科診療所,助産所)に情報提供の義務付けがあり,従わない場合や虚偽報告へは相応の処置がある」こと。各医療機関は国が定めた「一定の情報」56項目について,都道府県に情報を届け出,その情報を都道府県がインターネット上に公表する。「一定の情報」は「管理・運営・サービス・アメニティに関する事項」と,「提供サービス・医療連携体制に関する事項」「医療の実績・結果に関する事項」の3つに分類される。「提供サービス・医療連携体制に関する事項」は,診療内容や提供保健医療介護サービスに関する内容で,可能な疾患治療内容,短期滞在手術,専門外来など。大井氏は「アウトカムに関連する事項では非常に議論があった。患者代表からはアウトカムがもっとも重要なのでそのまま提示してほしいという要望があったが,各医療機関におけるアウトカムの評価は統一ではないため難しい」と説明。議論の結果,医療従事者の人数,看護師の配置状況,院内感染対策,診療情報管理体制,情報開示に関する窓口の有無,症例検討の体制(CPCの有無),治療結果の情報(死亡率など),結果の分析・提供の有無,平均在院数,患者満足度調査などを情報提供項目としたと述べた。

 今後の課題として,「情報の恣意的・非恣意的誤用や乱用への監視体制」「医療情報の非対称性と不確実性への対処」「医療情報範囲の限界への取り組み(サイエンスは情報化しやすいがアートは情報化しにくい)」,「都道府県による提供情報量の差への対応」などを挙げた。最後に,「この制度は患者の受療行動や医療の選択に新しい動きを生み出す可能性がある。また医療機関同士の情報把握や,他機関との比較検討に役立ち,自院の質の向上につながる可能性がある。情報提供制度の活用は病院経営にとって重要な戦略となる可能性が強い」と述べて降壇した。

 坂巻壽氏(都立駒込病院)は,2003年4月からスタートしている東京都医療機能情報システム「ひまわり」について紹介。これは都内の医療機関の情報を集積した情報提供用のインターネット・データベースシステムで,年間アクセス件数は約130万件,現在都内の医療機関では病院の約95%,一般診療所の約65%,歯科診療所の約75%が参加している。そのうえで坂巻氏は,改めて病院の質の評価の難しさを指摘。例として症例の多さは必要条件だが十分条件ではないこと,対象としている患者の層の違い,臨床データの質の違いなどをあげ,安易な病院の質の評価・比較は避けるべきとした。

機能分担と連携を

 牧恭彦氏(清翠会牧病院)は,中小病院は大病院に比べて専門医や設備機器の数,人員配置,先進医療,診療情報管理体制などの項目において不利であると指摘。一方,アピールポイントは,併設している介護施設,在宅医療や介護サービスへの対応,地域医療連携体制などだが,「これら中小病院の強みである面や,医師の診断能力や治療技術,ICのわかりやすさ,信頼関係などのソフト面は情報として表現しづらく,今回のシステムでは表しにくい項目であることも事実」と述べた。その点からも,病院の機能分担と連携が重要と主張。診療所は,プライマリケアを担って,必要に応じてトリアージや在宅医療の指示をし,中小病院は,1,2次の救急,外来,在宅支援,亜急性期から回復期の医療,トリアージや調整などを行う。そして大病院には,高度救急機能,専門外来,ハイリスク手術,複数の診療科にまたがるような病態への対応が求められるとした。

 しかし実際は,中小規模の病院から大病院を紹介しようとしてもなかなか見つからなかったり,頼んでも断られるという事態が起こっている。これは大病院に,大病院でなくても対応できる患者も集中している結果で,今回の情報提供により,ますます多くの患者が大病院に集中し,医療機関の機能分担が滞るのではとの危惧を示した。さらに,大病院への患者の集中により,勤務医の負荷が増加し,医療崩壊に拍車がかかるのではとの不安も述べた。

 そのうえで,「今後行政・マスコミが主体となって国民に教育を」と提案。患者の不安(近くの病院で十分な検査や適切な診断を行ってもらえるのか,必要なら信頼できる病院に紹介してくれるのか)をなくすためにも中小病院は,質とサービスの向上に取り組み,積極的な情報提供を行い,地域の連携体制を整備すべき,と述べて降壇した。

信頼性の確保が課題に

 中里勝夫氏(栃木県保健福祉部)は,行政機関である都道府県が関与することにより,客観的な情報の提供と発信が可能になり,国民からは大きな期待が寄せられると予想。特に今年度は医療制度改革の一環として,医療機関相互の役割分担をはじめとして,医療連携の姿を明らかにすることが求められている。そのうえで,「この制度の成否は,医療機関がいかに正確な情報を都道府県に報告するかによって大きく左右される。今後実際の運用の中で,本制度の信頼性を確保するための具体的な方策について検討を重ねていく必要がある」との見解を示した。

 本田麻由美氏(読売新聞)は患者の医療機関の選択について,自らの取材結果を踏まえて紹介。「患者の専門医志向と言われるが,“専門医を信頼している”というよりは,“専門医しか質を測るすべを知らない”」と指摘。その点からも,本制度における課題は信頼性の担保と提供する情報の見やすさ,比較しやすさであるとした。さらに「患者が必要としている情報は,地域との連携(より高度な医療が必要な時や在宅に移行する時のフォロー)や,その病院でどんな治療が受けられ,何を得意としているのか,また,同じ病気の人がどのように生きているのかという情報。制度外のサービスとして提供していくと,患者へのアピール度が高いのでは」と述べた。

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