MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2007.04.09
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


高橋 祥友 著
《評 者》西村 隆夫(都立府中病院・精神神経科部長
自殺問題を多面的に論じた自殺予防ハンドブック

本書は著者の豊かな研究活動と臨床をもとにして,医療者に向けて自殺についてのこれだけは知っておきたい知識をまとめたものである。第1章「自殺の実態」では増加する自殺の背景が説明され,第2章「自殺の危険因子」,第3章「身体疾患と自殺」,第4章「自殺予防における医療スタッフの役割と限界」では医療者としての最低限の心得がまとめられている。第5章「自殺未遂者への対応」,第6章「精神科における治療と予防」では対応の原則と治療が述べられ,呈示された症例を通してうつ病の要点が余すところなく記されている。第7章「自殺が起きたら」では,遺された人々への配慮も重要であると説き,第8章「トピックス」では自殺対策基本法など最新の話題が述べられている。
本書は自殺の問題を多面的に論じている一方,コンパクトにまとめられており,手にも取りやすい。精神科医療従事者には知識を確認する意味でお薦めであり,一般の医療者,医師に限らず看護師,コメディカルスタッフの方々には自殺予防のハンドブックとして座右に置き,日々の臨床に活用していただきたい。
著者が新聞に寄せた文章がある。本書の全編に行き渡っている著者の思いでもあるので要約して記す。――「自殺を止めることはできない」「人間には死ぬ権利がある」といった意見を耳にするが,それは間違いだと思う。自殺は自由意志に基づいた死というよりも,強制された死であると私は考えている。「死んでしまいたい」という気持ちと「もう一度生きていきたい」という相反する気持ちの間を揺れ動いているのが現実である。だからこそ,自殺予防の余地が残されている――自殺しようとする人の真実に長年向き合ってきた著者の言葉である。人にはどんな闇の中にあっても,その向こうにはどこかしら道がつけられているようである。医療者に限らず一般の方々に対しても,著者が発しているメッセージであり希望である。


石原 正一郎,上川 秀士,三木 保 編集
《評 者》冨永 悌二(東北大大学院教授・神経外科学
より安全で確実な神経内視鏡手術を行うために

第1章「歴史と基礎知識」では神経内視鏡の歴史がわかりやすく紹介されるとともに,従来の著書では軽視されがちであったdeviceとしての神経内視鏡に関する解説がなされている。軟性鏡と硬性鏡それぞれの特色や利点にとどまらず,最近登場した脳室内ビデオスコープについても従来の軟性鏡との違いについて解説している。さらに現在の神経内視鏡手技において最も問題となる止血操作の際に用いられる凝固子についても各製品の作用原理,生体への影響についてもわかりやすく述べている。
第2章「解剖」は,高画質な内視鏡写真による正常解剖の網羅的解説がなされており,本書の白眉の一つといえる。当初神経内視鏡を始める際には,解剖書のスケッチを頭に描きながら,時として方向や位置を見失いそうになりながら内視鏡を操った経験がどの術者の記憶にもあると思う。本書の正常解剖を写した内視鏡写真は,そのような状況での的確な「ガイド」というべきもので,それこそまさに編者らが意図するところであると思う。またこれだけ多くの「教材」を提供しうる編者らのこれまでの経験の蓄積と,その提供は敬意に値する。第2章の末尾には「神経内視鏡手術心得10か条」が記載されている。編著者らの豊富な経験に裏打ちされたものであり,より安全で確実な内視鏡治療を行う同義的責任を担っていることを改めて読者に喚起している。
第3章の「症例-内視鏡手術」には水頭症,嚢胞性疾患,脳腫瘍をはじめとした脳室内病変から寄生虫疾患にいたるまで多彩な症例の呈示がなされている。広く普及しつつあるとはいえ,個々の施設で経験できる神経内視鏡手術の症例数には自ずと限りがある。本書は一般の施設で遭遇すると思われるほとんどの疾患が網羅されており,また個々の症例における手術のポイントやピットフォールも記載されている。神経内視鏡手術の実践の場にあって即役に立つ「ガイドブック」でもある。
最後に,昨年神経内視鏡学会の技術認定制度が発足し,神経内視鏡手術は注目を浴びていると同時に結果に対する期待も大きい。本書が身近な「ガイドブック」となり神経内視鏡治療がより安全で確実なものとなるよう祈念したい。


森 惟明 著 ...
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