MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2007.04.09
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
高橋 祥友 著
《評 者》西村 隆夫(都立府中病院・精神神経科部長
自殺問題を多面的に論じた自殺予防ハンドブック
ブラジルを訪ねた記者がカーニバルの期間に何十人と死者がでたと聞き「クレージーな国だ」と言ったところ,彼の地の友人に「日本では1日に100人が自殺するというがよほど奇怪な国ではないか」と反論されたという。2004年の自殺率の国際比較では,日本は24.1と旧ソ連諸国と肩を並べて10位に位置し,堂々の自殺大国である。ちなみに米国は日本の半分以下の10.4である。日本を奇怪な国と考えても無理はない。1998年に年間3万人を超えた自殺者数に減少する気配はない。日本は世界の優等生としてひた走り経済大国になったが,どこに向かって走ったのか。多くの問題が表面化し亡国の兆しと人は言う。「少子高齢化」「働かない若者」「いじめ」など。「自殺者の増加」もその兆候ではないか。私たちは否応なしにわが国の陰の部分に目を向けなくてはいけなくなった。本書は著者の豊かな研究活動と臨床をもとにして,医療者に向けて自殺についてのこれだけは知っておきたい知識をまとめたものである。第1章「自殺の実態」では増加する自殺の背景が説明され,第2章「自殺の危険因子」,第3章「身体疾患と自殺」,第4章「自殺予防における医療スタッフの役割と限界」では医療者としての最低限の心得がまとめられている。第5章「自殺未遂者への対応」,第6章「精神科における治療と予防」では対応の原則と治療が述べられ,呈示された症例を通してうつ病の要点が余すところなく記されている。第7章「自殺が起きたら」では,遺された人々への配慮も重要であると説き,第8章「トピックス」では自殺対策基本法など最新の話題が述べられている。
本書は自殺の問題を多面的に論じている一方,コンパクトにまとめられており,手にも取りやすい。精神科医療従事者には知識を確認する意味でお薦めであり,一般の医療者,医師に限らず看護師,コメディカルスタッフの方々には自殺予防のハンドブックとして座右に置き,日々の臨床に活用していただきたい。
著者が新聞に寄せた文章がある。本書の全編に行き渡っている著者の思いでもあるので要約して記す。――「自殺を止めることはできない」「人間には死ぬ権利がある」といった意見を耳にするが,それは間違いだと思う。自殺は自由意志に基づいた死というよりも,強制された死であると私は考えている。「死んでしまいたい」という気持ちと「もう一度生きていきたい」という相反する気持ちの間を揺れ動いているのが現実である。だからこそ,自殺予防の余地が残されている――自殺しようとする人の真実に長年向き合ってきた著者の言葉である。人にはどんな闇の中にあっても,その向こうにはどこかしら道がつけられているようである。医療者に限らず一般の方々に対しても,著者が発しているメッセージであり希望である。
石原 正一郎,上川 秀士,三木 保 編集
《評 者》冨永 悌二(東北大大学院教授・神経外科学
より安全で確実な神経内視鏡手術を行うために
このたび,石原正一郎先生,上川秀士先生,三木保先生らが編集した『神経内視鏡手術アトラス』が発売された。神経内視鏡は,歴史は古いものの脳神経外科領域における診断・治療技術としては片隅に追いやられていた感がある。しかし新たな内視鏡機器の開発や技術の洗練によって成熟し,今やある種の閉塞性水頭症では治療の第一選択肢となるほど重要なmodalityとなりつつある。本書はこのような流れの中にあって誠に時宜を得た企画であり,神経内視鏡を志す脳神経外科医,第一線で神経内視鏡治療に携わっている脳神経外科医のみならず一般の脳神経外科医にとっても大変有用な著書である。第1章「歴史と基礎知識」では神経内視鏡の歴史がわかりやすく紹介されるとともに,従来の著書では軽視されがちであったdeviceとしての神経内視鏡に関する解説がなされている。軟性鏡と硬性鏡それぞれの特色や利点にとどまらず,最近登場した脳室内ビデオスコープについても従来の軟性鏡との違いについて解説している。さらに現在の神経内視鏡手技において最も問題となる止血操作の際に用いられる凝固子についても各製品の作用原理,生体への影響についてもわかりやすく述べている。
第2章「解剖」は,高画質な内視鏡写真による正常解剖の網羅的解説がなされており,本書の白眉の一つといえる。当初神経内視鏡を始める際には,解剖書のスケッチを頭に描きながら,時として方向や位置を見失いそうになりながら内視鏡を操った経験がどの術者の記憶にもあると思う。本書の正常解剖を写した内視鏡写真は,そのような状況での的確な「ガイド」というべきもので,それこそまさに編者らが意図するところであると思う。またこれだけ多くの「教材」を提供しうる編者らのこれまでの経験の蓄積と,その提供は敬意に値する。第2章の末尾には「神経内視鏡手術心得10か条」が記載されている。編著者らの豊富な経験に裏打ちされたものであり,より安全で確実な内視鏡治療を行う同義的責任を担っていることを改めて読者に喚起している。
第3章の「症例-内視鏡手術」には水頭症,嚢胞性疾患,脳腫瘍をはじめとした脳室内病変から寄生虫疾患にいたるまで多彩な症例の呈示がなされている。広く普及しつつあるとはいえ,個々の施設で経験できる神経内視鏡手術の症例数には自ずと限りがある。本書は一般の施設で遭遇すると思われるほとんどの疾患が網羅されており,また個々の症例における手術のポイントやピットフォールも記載されている。神経内視鏡手術の実践の場にあって即役に立つ「ガイドブック」でもある。
最後に,昨年神経内視鏡学会の技術認定制度が発足し,神経内視鏡手術は注目を浴びていると同時に結果に対する期待も大きい。本書が身近な「ガイドブック」となり神経内視鏡治療がより安全で確実なものとなるよう祈念したい。
森 惟明 著
《評 者》水野 美邦(順大特任教授・老人性疾患病態治療研究センター
自然に神経学のエッセンスを学べる恰好の書物
本書の著者,森惟明先生は,私の大の友人で,先生と最初にお目にかかったのは,昭和40年代にさかのぼる。シカゴの小児病院に森先生が留学されていた同じ頃,私もシカゴのノースウェスタン大学の神経内科に留学していて,小児神経学のローテーションでお目にかかった。お目にかかったその時から,聡明かつお人柄も大変すばらしい方との印象を持ったが,帰国してからも時々研究会や学会でお目にかかることがあった。先生は,本書の上梓前にもたくさんの本を書いておられ,また写真の名手で大変きれいな写真集も出版しておられた。忙しい脳神経外科の教授をやりながら,どこからこのエネルギーがでてくるのだろうと,いつも敬服していたし,自分にはとうてい真似のできない境地であると感じていた。先生は,脳外科が専門であるにも関わらず,神経学全般にとても広い知識を持っておられ,また教育がとてもお上手である。いつも先生の著書には,ポイントがわかりやすく解説されている。今回出版された,『神経学レクチャーノート』は,主にOT,PT,STなどのコメディカルの分野を学ぶ学生にいかにわかりやすく,また面白く神経学を教えるかということを念頭にして書かれたもののように思う。全体の構成は,神経の構造と機能,症候,診断法,検査法,それから各論となっており,重要な事柄はすべて網羅されている。各論は,脳血管障害に始まり,外傷,腫瘍,脊髄・脊椎疾患,その他の神経疾患と続く。最後に知識の整理というチャプターがあって,要点がまとめられているのも,学ぶ立場にたつと嬉しい。
内容は,例えば神経の構造と機能の頁をめくると,わかりやすい図が多数掲載されており,また重要な項目が表にまとめられている。図を見てゆくだけでも要点が頭に入り,難解な神経解剖に煩わされることなく,臨床に必要な神経解剖が頭に入るように配慮されている。表は知識の整理にとっても役立つ。すべての項目にわたって,図と表で知識を整理するというコンセプトが貫かれており,学生にとって大変わかりやすいレクチャーノートとなっている。神経変性疾患の項がやや物足りないきらいはあるが,コメディカルの分野で学ぶ学生を,煩雑な神経変性疾患で悩ませるよりは,大切な疾患の要点を学んでもらったほうがよいとの著者の思いが込められているように感ぜられる。
本書は,OT,PT,STのみならず,コメディカルの分野で,神経学の知識・常識を得たい人にとっては,恰好の書物である。とにかくわかりやすい,読んでいて退屈しない,新しい知識を吸収する面白さを感じながら自然に神経学のエッセンスが学べる書物である。皆様に一読をお勧めする次第である。
仁木 久恵,森島 祐子,Nancy Sharts-Hopco 著
《評 者》武田 裕子(東大医学教育国際協力研究センター
臨床で役立つ生きた英語を学ぶためにはずせない1冊
私の臨床留学は,セサミ・ストリートから始まった。留学直前のTOEFLでは約600点を取り,大学院では英語の論文の読み書きもしていたが,ホームステイ先の子供番組で,「さぁ。口を開けてアーって言ってください」という人形に,初めて口腔を診察する際にどう言ったらよいのか教わった。それほど当時は,診療に直結した英語を学ぶ機会は乏しかった。研修医として採用される前,エクスターンとして指導医について回っている間に私のメモ帳は,診療の際にどんな言葉をかけるか耳で覚えたフレーズでいっぱいになっていった。本書『そのまま使える病院英語表現5000』には,当時私が書きとめたような臨床現場で実際に使われる英語表現が詰まっていて,その詳細さに驚いた。ポケットに入る大きさながら,診察室に入る患者さんを迎える言葉に始まり,診察の際にかける言葉や指示,処方する薬の用法,次回の診察予約まで,とにかく臨床のあらゆる場面が想定されて至れり尽くせりの文例が盛り込まれている。「たいへんでしたね」「何かあったら言ってくださいね。そばにいますから」といった,患者さんを慰め,励ますための表現や緊急時の確認事項など,通常の英語のテキストには書かれていないけれど,臨床的には不可欠な表現が満載されている。呼吸器内科専門医として,患者さんに寄り添う医療を提供している著者のお一人である森島祐子先生のきめ細かな日常診療が表されているように感じた。
本書には,医師が診察や説明の際に用いる英語はもちろんのこと,患者さんのプロフィールや生活背景を尋ねる質問など医師にも看護師にも役立つ表現,入院当日の病棟における注意事項やケアに関することなど看護師にとって必要な英語,医療保険の種類の確認など事務担当者が不可欠な情報を収集するための会話など,カバーしている領域は実に多岐に渡っている。これは,本当にお買い得である。
本書の特徴はまた,英語の聴き取りが苦手な医療者のために,質問の多くが“YES”または“NO”で答えられる形式になっていることであろう。コミュニケーションには,開放型の質問が大切というものの,限られた質問であっても意思の疎通が図れることは患者さんにとって心強いに違いない。この文例を集めれば,来院時に必要事項を記載してもらうフォームが作成できるし,診療科ごとに主訴や経過をあらかじめ記載してもらういわゆる予診票を作成することも可能である。近年,多くの医学部で臨床英語の授業に力を注がれているが,この本は実践に役立つ生きた英語を学ぶ優れたテキストになると考える。
もし私がこれから臨床留学するとしたら,このテキストははずせない1冊となるであろう。
ER・救急のトラブルファイル
診察室のリスクマネージメント
太田 凡 監訳
中村 陽子 訳
《評 者》寺澤 秀一(福井大病院副院長/救急部・総合診療部教授
すべての医療者が読むべきER・救急の良書
この本の原書を初めて手にとった時の感激がいまだに忘れられません。拙著『研修医当直御法度 症例帖』(三輪書店)と同じスタイルで書かれた本が,米国でも出版されていることを知って,表現できない熱いものが込みあげてきました。20数年前,トロントでの研修第一日目に,救急医学科のRowat教授から「ERで起きるトラブルはすべてオープンにして(当事者を責めないように配慮しながら)教材にしなさい」と言われました。トラブルを真摯に見つめれば,必ずその中に教訓があり,その教訓を生かすことが医療と医療人を進歩させるという教えです。この本は米国のERにおける実際のトラブルに関して,米国のER型救急医たちが意見交換したカンファレンスをまとめたもので,その高度な内容には感嘆するばかりです。
特筆すべきは本の最初の章に,医学的な知識,技術不足が原因のトラブル事例ではなく,診療の姿勢(特に患者や家族の心情への配慮不足)にトラブルの原因があった事例を挙げていることです。今のわが国の多くの研修医や指導医は,ERにおける研修では医学的な知識や技術の習得が最重要課題だと誤解しているようです。この本の著者は長年のER型救急医としての経験から,ER研修で最も重視すべきものが何であるかを見事に示してくれているのです。
この本をどうしても日本の医学生,看護学生,研修医,指導医,看護師,コメディカル,救急隊員,救急救命士の方々に読んでいただきたいと熱望するようになり,講演会などで折に触れて多くの方々に推薦してきました。そして,ようやく翻訳書が出版されてより多くの方々に読んでいただくことができるようになりました。翻訳を担当していただいた中村陽子先生,そして監訳の太田凡先生はまさに適任だったと確信しています。
初期臨床研修の必修化において,最も重要と位置づけられながらも,ERでの研修は当直の各科専門医の裁量に任されているのが現実です。ERでの教育ができるER型救急医の少ない苦悩の時代にあって,この本はわが国のER診療と研修に役立つだけでなく,医療に携わるすべての方々に多くの示唆を与えてくれるはずです。
A5変・296頁 定価3,990円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/
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