MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2007.03.12
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
大熊 輝雄,松岡 洋夫,上埜 高志 著
齋藤 秀光,三浦 伸義 執筆協力
《評 者》松浦 雅人(東医歯大大学院教授・生命機能情報解析学)
臨床脳波判読医養成に効果的な標準テキスト
脳波は波形が複雑に変動するだけでなく,頭蓋上の多くの部位から長時間にわたって記録するため,全体を総合的に把握しなければならない。初学者にとってはどこから手をつけてよいかわからず,取りつきにくいとの印象を持つのも頷ける。本書はこれから脳波判読を習得しようとする人のために書かれたもので,初版が1986年なので20年の歴史を持つことになる。前回の第3版の改定から7年を経過し,今回さらに加筆・増補が行われた。「入門編」ではステップ1からステップ14まで,段階を追ってていねいに脳波判読の手ほどきをしてくれている。各ステップにはたくさんの練習問題がついており,例えば1週間に1ステップの練習問題をクリアすることを目標にすれば,3-4か月で脳波判読の基本を修得できる。脳波図版は原寸大であり,計測用の脳波スケールがついているのも親切である。手を使って脳波波形にスケールを当てて,実際に計測することではじめて波形の観察力が深まる。ステップ1では周波数や振幅の計測の仕方を体験し,次いでステップ2からステップ3にかけて位相や左右差,分布や局在など,次第に複雑な波形の計測法を学ぶ。さらに,脳波記録法,アーチファクト鑑別法,賦活法,成人脳波,睡眠脳波,異常脳波とステップアップしてゆく。ステップ11からは小児脳波の分野に入り,ステップ14の老年者の脳波判読を終えると,すべての年代の脳波判読をカバーしたことになる。
「症例編」ではステップ1のてんかんから,ステップ11の精神疾患まで,脳波判読にとって重要となる疾患が網羅されている。今回の改訂では,レビー小体病や白質脳症など最近注目されている疾患の脳波や,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や非定型抗精神病薬による脳波変化が追加されている。最後のステップ12には33個の練習問題がついており,これにチャレンジすることで自らの臨床脳波判読の実力を確認できるように工夫されている。
「入門編」「症例編」に共通する特筆すべき点は,個々の脳波図版の説明として記載されている「脳波所見」が,そのまま脳波記載法の範例となっていることである。脳波判読ができるようになれば,その所見を的確に記載する技術が必要となるが,本書は豊富な記載例を提供してくれていることになる。このような脳波図版が,「入門編」では103枚,「症例編」では178枚もある。長年にわたって貴重な臨床資料を蓄積し,さらに新しい情報を追加しつつある東北大学脳波グループの努力に敬意を表したい。
最近は,臨床脳波を正確に判読できる医師がどんどん減っているように思われる。不正確な脳波判読は誤診の原因となるため,脳波判読医がいない施設は脳波検査をしないほうがよいとの極論もある。脳波指導医は臨床脳波が判読できる若手医師の養成に苦慮していると思われるが,本書を利用することによって判読医養成がより効果的になると思われる。脳波専門医にも目を通してほしい臨床脳波判読のための標準的テキストである。
入門編 B5・頁468 定価7,875円(税5%込)医学書院
症例編 B5・頁404 定価9,450円(税5%込)医学書院
武藤 徹一郎,幕内 雅敏 監修
川崎 誠治,佐野 俊二,名川 弘一,野口 眞三郎,平田 公一 編
渡邉 聡明 編集協力
《評 者》兼松 隆之(長崎大教授・移植・消化器外科)
外科専門医のためのスタンダードテキスト
外科教科書のスタンダードとして,定評のある『新臨床外科学』が,このたび第4版として上梓された。この衣替えでさらに魅力的な特徴を打ち出している。〈第1の特徴〉外科専門医のためのスタンダードテキストとしての位置付け
『新臨床外科学』の初版は医学部の5・6年生や研修医などを対象とした教科書としてスタートした。そのため医師国家試験対策や臨床研修の中でも,外科に必要な基本的な知識を得るのに十分な配慮のもとに編纂されてきたが,第4版でもその方針に揺るぎはない。そのうえでページ数を増加させ,“外科専門医”をめざす者のスタンダードテキストとしても使えるように,内容が高度化されたのが大きな特徴である。
〈第2の特徴〉医学生のチュートリアル・臨床実習教育でも使いやすい内容
医学生諸氏にとっては,最近では与えられる知識より,自らが調べ,学ぶ教育へとシフトしている。それに対応するためには,教科書に掲載されている内容にはそれなりの深みも求められる。今回の改訂版でも,「基礎的知識」の項には十分なスペースを割いている。また,外科治療についても単に手法を述べるにとどまらず,治療成績も最新のものが図示されていることなど,卒前の医学教育においても使いやすく,また重厚さも併せ持った座右の書となった。
〈第3の特徴〉写真・図が豊富で鮮明さは特筆もの
いまや,医学教育には画像診断や病理所見等を理解することは必須である。医師国家試験でもそれらの知識と理解力を求める問題も少なくない。幸い,本書には,典型的なX線,エコー,MRI,内視鏡写真から病理の肉眼・顕微鏡写真などが豊富に掲載されていることも大きな特徴である。しかも,第4版でのカラー写真の鮮明さはまさに特筆ものである。
〈第4の特徴〉重要箇所にはアンダーラインの細かい配慮
内容が豊富な教科書であるから,知りたい項目にはすべて目を通してもらいたいところではあるが,現実には多忙を極める日常の中,それがままならぬこともある。本書の特徴のもう一つは,特に重要な箇所には下線が引いてあって,読者に注意を喚起している点である。細やかな配慮がうれしい。
〈第5の特徴〉現代の医学教育にマッチした多彩な執筆陣
元来,教科書の執筆者は教育に携わる機会の多い大学関係者で占められがちであるが,本書では執筆者の約20%は大学以外に勤務する専門医である。いまや臨床教育は大学だけでは偏りがあり,関連教育病院との協力が必要であることは広く認められているところである。本書は臨床実地の教育の観点からも,非常に考え抜かれた専門医によって構成された執筆陣である。
岡田 正人 著
《評 者》森本 佳和(コロラド大アシスタントプロフェッサー・アレルギー科)
国内外のエビデンスをもとに臨床で即応用できる実践書
本書の著者である岡田正人氏はニューヨークで内科研修,Yale大学でリウマチ・アレルギー臨床免疫科のフェローシップを修了され,米国の内科学・リウマチ学・アレルギー免疫学の3つの専門医を持っておられる。その後,フランスの大学関連病院にて8年間の臨床および医学教育の経験を持たれ,現在は聖路加国際病院に勤務しておられる。アレルギーは,日本-米国-ヨーロッパで大きな違いの見られる医療分野の1つである。アレルゲンに対する減感作療法ひとつを比較しても,あまり一般的に行われない日本,皮下投与による減感作療法を中心とする米国,舌下投与による減感作療法を積極的に取り入れるヨーロッパ,という具合である。これら異なる医療地域をトップレベルの医療機関で実際に臨床医療を経験してこられた岡田氏が書かれた書物であり,その価値は高い。さて,本書を手にし,ページをめくると,そのギッチリと詰め込まれた内容に手に汗をかく思いさえする。内容は新しく,多くのエビデンスをもとに著者である岡田氏の経験や知識に触れることができる。米国におけるアレルギー免疫学の専門臨床トレーニング(フェローシップ)は最低2年間であり,筆者自身その教職にあるが,本書にある内容を身につけて実践できれば,アレルギー疾患に関してはそれで十分ではないかとさえ感じさせられる。
アレルギー疾患はその病因においてアトピー性素因という共通点があり,例えば鼻炎,アトピー性皮膚炎,喘息,食物アレルギーの疾患が一人の患者に合併することは頻繁にある。日本においてこれら疾患の専門的治療を受けるとなると,耳鼻咽喉科・皮膚科・呼吸器内科・小児科などと多くの科にわたることになる。患者側にとっても問題であるが,医療を行う側にとっても良質で包括的なアレルギー疾患のトレーニングを受けることが難しい状況にある。
このような背景があるため,例えばプライマリケアレベルでアトピー性皮膚炎,蕁麻疹,鼻炎,喘息,食物アレルギーといった疾患に対して,標準的で質の高い治療が広く行われているかどうかははっきりしない。これらアレルギー疾患については,同僚や先輩医師からの教え,あるいはどこかで仕入れた知識をもとに,慣習的医療が行われているのが一般的かもしれない。また,日本でアレルギー疾患の診療についての実践的な書物は限られている。かといって,海外由来のエビデンスを日常診療に取り入れるにはさまざまな問題に直面する。使用される薬剤も異なるうえに,文化もスタディされる患者も異なる。海外からの書物あるいは翻訳書を読むことはできても,そこに記されている内容を日常診療に応用できるかどうかは別問題である。本書は海外・国内のエビデンスをもとに,岡田氏自身の類まれなる経験に基づく解釈によって,臨床的にすぐに応用できる情報が詰め込まれている。日本でのアレルギー疾患の診療に即応用できる実践的な書物である。
さらに本書の章末ごとにある「臨床医のための免疫学」OverSimplifiedは圧巻である。「自然免疫と適応免疫(獲得免疫)-お巡りさんと刑事さん」ではToll-like receptor(TLR)とアレルギー疾患の関連,「細かいことは気にしないスーパー抗原」ではスーパー抗原とアトピー性皮膚炎の関連性など,近年よく話題にされるアレルギー領域での免疫学の知識がわかりやすく述べられている。近年の進歩によって,基礎医学の知識が臨床医学に応用されるということが多くなり,基礎的な免疫学の知識はますます重要性を帯びてきており,それをこのように楽しく学べることは大変嬉しいことである。
タイトルは控えめに「レジデントのための…」とあるが,上級医や指導医,アレルギー疾患を専門とされる医師にこそ読んでいただきたい名著である。
聖路加国際病院内科チーフレジデント 編
《評 者》竹村 洋典(三重大助教授・総合診療部)
卒前知識とリンクした実用的で読みやすい鉄則書
研修医向けの書籍に常に目を通す私も,この本を読んだ時に,思わず「ワォー」と言ってしまった。研修医向けの書籍の大切なことの第一は,プラクティカルであることである。どんな施設の研修医たちも心の中は不安がいっぱいある。苦しむ患者を前に知らないことがたくさんある。大学で知識は得たはずだが,頭が回らない。手も動かない。しかし一方で,医師になる以上,必要最低限のことは経験したいとも思う。少なくとも誰でもが出会うであろうコモンな問題・疾患の対処方法は知っておきたい。
よい指導者がそばにいてくれたらばその対処方法に困ることはなくなるかもしれないが,いつもというわけにはいかない。そんな時に「ああ,あってくれて本当によかった!」と思えるのが,コモンな問題・疾患に対して具体的にその対処方法を教えてくれる本である。『内科レジデントの鉄則』はまさしくそのような本である。薬品名など大胆に選んでくれていることに,熟考の後と自信が垣間見られて拍手を送りたくなる。
研修医向けの書籍の大切なことの第二は,卒前に学んだ知識との関連を述べていることである。プラクティカルなマニュアル本は少なからず出版されている。しかし,研修医も月日が経つとそれらに物足りなさを感じるかもしれない。さらにマニュアル本に不安さえ感じるようになる。「このマニュアル本に人の命を預けていいのか……」誠実な研修医諸君の考えとして当然である。そんな時に,マニュアル本の内容を病態生理学的に解釈しなおして,なぜそうなのか,その理由を述べてくれる書籍を求め始める。『内科レジデントの鉄則』はまさしく,このような本でもある。その意味においては聖路加国際病院レジデントによる『内科レジデントマニュアル』を越えている,と実感した。
そして,研修医向けの書籍の大切なことの第三は,読みやすいこと。忙しい研修医は,疲れた自分の頭脳を,難解な文章の解釈に使わせたくない。メリハリのある読みやすい文章と構成は,必須といえる。本書の各「プラクティスの教訓」そしてその「鉄則」は,読者の理解をたやすくする見出しとなっている。説明についても,図,フローチャート,重要項目の箇条書き等を頻用して記憶を助けてくれる。至れり尽くせりである。時に出てくる「もっと知りたい」は,私にとっても興味深い内容であった。
日本の研修医向けの書籍は,研修医の心をつかめない高所から,あるいは異次元からの指導であったり,また若すぎて心もとない内容であったりした。本書は,聖路加国際病院チーフレジデントの努力と自信,それに裏打ちされた誇りが根底に脈々と流れていて,読むものを惹きつける。安心して使用できる久しぶりの良書といえよう。
B5・頁244 定価3,780円(税5%込)医学書院
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