最新の米国医学・医療の現状-ボストン便り(前編)(日野原重明)
ボストン便り
寄稿
2007.03.05
【特別寄稿】
最新の米国医学・医療の現状――ボストン便り(前編)
日野原重明(聖路加国際病院理事長)
私は,過去20年間,2年に1回は年末にボストンを訪れて,約1週間滞在し,その間にハーバード大学医学部の教育病院群の要職にある医師・看護師を中心に,教育指導者や研究者に会い,今日の米国医学や看護学の研究・教育活動や,これから先10年くらいを視野において,今後米国の医学や看護,老人の福祉がどういう方向に変わっていくかについて情報を得るよう努めてきた。
昨年も12月26日から5日間にわたり訪米し,11名の責任ある医学部の教官や病院管理者,看護大学大学院の教育者と会談して,最新の情報を得ることができた。本紙で2回にわたり報告する。
一昨年は,私の文化勲章受章の行事で年末までスケジュールが混んでいたので,国外旅行を控えたが,昨年は12月25日の聖路加国際病院のクリスマスの行事を終えてから,12月26日の夜行便で成田を発ち,シカゴのオヘア空港で国内便に乗り換えて26日の深夜にボストンのローガン空港に着いた。
翌27日からまる4日間,私は11名の責任ある医学部の教官や病院管理者,看護大学大学院の教育者と,少なくとも1時間以上は会談して,最新の情報を得ることができた。学部長や病院長,その他医学生やレジデント教育の若手教官とも会談し,米国における卒前・卒後の研修上の問題や,日本での教育や臨床実技能力の獲得に必要な情報を得ることができた。
30年来の親友 Michell Rabkin教授の配慮
クリスマス後の休暇期間に,過密なスケジュール通りに,ハーバード系施設で働く忙しい方々が,それぞれ私のために貴重な時間をとってくれたのは,すべて私の30年来の親友のMichell Rabkin教授のおかげである。彼はハーバード大学医学部の3つの主な教育病院の1つであるBeth Israel Deaconess Medical Center(以下,BIDMC)の院長を5年前まで30年間続け,現在はこのメディカルセンターの外来部門にある医学生研修の模擬施設を持つ研究所の役員の一人である。Rabkin教授は私が会見したいと思う11名もの病院や研究所の指導者との面会のスケジュールをアレンジしてくださったが,ハードなスケジュールが効率よくこなされたのは専ら彼のおかげである。ただし,そのためには3か月前から私のボストン滞在中の会見や施設見学の要件について,詳細なスケジュールをメールで打ち合わせておいた。私をよく知る方には私の履歴(CV)は不要だが,初めて会う方にはRabkin教授から予め先方に私のCVを渡すとともに,私の知りたい内容を詳しく伝えておいてもらったのである。今回のように短期間で多くの予約をとるには,親しい有力な役職の方に頼み,その秘書の協力を得て,時間単位の面会の約束をとってもらって初めてそれが可能となる。
ハーバード大学医学部で要職にある方と会うことにしても,その時間に当人は別の病院かオフィスにいることがあるので,Rabkin教授は午前中と午後とに分けて,それぞれ2人の方との予約をとってくださった。場合によっては,会話の時間を十分にとるためにRabkin教授が先方のご夫妻をディナーに招待された。ディナーに招かれた席では2-3時間はゆっくり話し合うことができた。
ハーバード大学医学部の教官は,大学の本部外にある関連の教育病院か,その病院の研究所にオフィスを持っていることが多い。したがって,オフィスが散在しているため,数多い面会予定を時間通りに果たすには,どうしても自動車で移動しなくてはならない。ところが,タクシーの運転手に連れていってもらうとなると,時間を読むことが難しい。今回は,すべてRabkin教授がご自分の車で私を先方に連れていってくださった。そこから先は訪れた教授のオフィスの秘書に頼んで,その次のオフィスまでエスコートしてもらうようにRabkin教授が細かく配慮してくださったのである。
海外を訪問する日本人へのアドバイス
日本の学者は,外国の学会に出席したついでに医学校や病院や研究所を見学したいといって,先方に直接連絡して予約をとる方が多いが,学会の帰りに立ち寄るような態度では本当の情報は得られない。本当の情報を得たいと思えば,訪問目的と時間をはっきり申し出ない限り,ただの社交的な会見と表面的な施設見学に終わってしまう。私は施設を見学するよりも,相手の方と会談することを重視している。また実際の教育場面を見たいのであれば,カンファレンスに出席するか,Teaching Round(教育回診)につくことが必要であると考えて,それを実行してきた。教授の教育回診の折には,来訪者にその役を譲って教育のチャンスを与えるという配慮をしてくださる教授もいるが,そのような役を与えられることは最高の栄誉だということを心得て,絶対辞退しないのが礼儀ということを私は日本人の教職者に言いたい。
現地でいろいろな方のお世話になる時には,何かお土産でも持っていかなくては,と日本人は特に心配される人が多いと思う。そこでひどくお世話になる方には,秘書に何か「小物」のギフトを持っていくとよいが,それにしても,面談の当人には日本製の小さなクッキーか何かの小物があればそれで十分で,立派過ぎるものを進呈すると,先方はかえって当惑されてしまうのである。
さて,以下は私が5日間に果たしたスケジュールを時系列式に記したものである。
【12月27日午前9時】
BIDMCの救命救急センターの見学
BIDMCは,古い歴史を持つユダヤ系の教育病院Beth Israel総合病院とプロテスタント系の総合病院Deaconess Hospitalとが10年前に合併したものである。建物はEastとWestのパートに分かれているが,両病院が機能的に合併してからは,両者が一体となって機能している。合併時にはBeth Israel側の古い救命救急センターが用いられていたが,1年あまり前にDeaconess側に救命救急センターが新築されたので,見学したいとRabkin教授に頼んでセンター長との予約をとってもらった。センター長のRichard Wolfe博士は案内のRabkin教授と私とを定刻に入り口で待っておられ,即刻私たちを中に案内してくださった。
トリアージで重症度別に患者を収容
日本のどこにもないように,運び込まれた患者はトリアージがなされ,軽症・中等症・重症別に患者が収容されるように区画が別々に設計されている。しかし,感染の疑いのあるものは普通の救急の入り口から離れたところに送り込まれる。精神的障害のある患者も普通患者とは廊下を隔てて反対側の部屋でケアされる。熱傷患者も別室で扱われている。重症者や外傷者はクリーンゾーンに収容される。
収容された患者は,まずその時間帯に割り当てられているジュ
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