医学界新聞


クレーム対応の過程におけるケア(下)

連載

2007.01.29

  ストレスマネジメント
その理論と実践

[ 第10回 ラインによるケア(5) クレーム対応の過程におけるケア(下) ]

久保田聰美(高知女子大学大学院 健康生活科学研究科 博士課程(後期))


前回よりつづく

 前回では,一般的なクレーム対応においてラインマネジャーが注意すべき視点を整理しました。今回はもう少し具体的に,対応に苦慮する事例を中心に考えていきたいと思います。

医師へのフィードバック

 クレーム処理をしていていちばん苦慮するのが,その対象が医師であった場合,当該医師にどのような形で伝えるかということです。クレームの内容も多岐にわたります。「愚痴だと思って師長さんの胸にしまっておいてくださいね。あの先生はいつも検査の説明をする時は一方的にまくし立てて,質問する間もなく行ってしまってねえ。お忙しいんでしょうね」という控えめなものから,「あの言い方が気に喰わない,ちゃんと指導しろ!」「ちっとも説明に来ない主治医を変えてくれ」「あんな医者はクビにしろ!」といった過激なものまであります。

 強気でまくし立てるクレームには,対応せざるを得なくなるでしょうが,注意したいのが前述のような控えめなものです。想像してみてください,「胸にしまっておいてください」と言いながらも師長に訴えた患者自身の思いを。きっと相当の思いで決心して言ったのではないでしょうか? しかし現実には,こうした控えめな訴えは流されてしまいがちなのではないでしょうか?

 筆者は可能な限り,こういったクレームを日頃から当該医師に伝える努力をしていました。実はこういう内容は,伝える側も伝えやすいですし,医師側も「そうか,あの患者さんはいつもおとなしいのに,師長に言ったのはよほどのことだよねえ」と,素直に受けとってもらえます。日頃から師長と関係性ができていて,そのあたりの機微を感じて対処してくれる医師ならばその旨を医師に伝えます。もちろん,患者さん自身には,「胸にしまっておいて」と言われているのですから,事前に承諾を得て医師に話すことを原則とします。こうした日頃の関係作りが,厳しいクレームへの対応にも生かされるのです。

 クレームの内容によっては,患者自身が師長を飛び越えて病院の上層部に向かっていくことも多々あります。こういう構図になってくると,当該医師自身がかなり頑なになっています。ある意味被害者と言えるでしょう。クレーム対象の医師の知らないところで,話がどんどん大きくなっていることさえ少なくありません。

 本来なら当該上司が対応の窓口になっているのですが,現実的な対応は当該部署の師長に求められることがよくあります。医師の思いをできるだけ冷静に受け止め,当該部署の責任者として知り得た情報は冷静に伝え,事実関係の確認を行うことに徹します。この段階でほとんどの医師は,自分自身の問題や対応策は理解しています。その会話の中で,前向きな発言が得られるかどうかは,これまでのちょっとしたクレームへの対応の姿勢で決まってくるとも言えます。

 そして最後にクレームの経過と対応策等について(図)。医師自身の上司(多くは部長や院長等)への報告は,「先生からされますか? 私からしておきましょうか?」と確認をとることは忘れないようにします。医師には,自律的な思考の方が多いですから,上司への報告も自分から望まれることが多いようです。そしてその旨を必ず記録に残し,数日後には念のため当該上司への確認もとるよう心がけます(報告しようとは思っていても,忙しい医師はついつい……ということも起こりがちです。上司にとっても把握しておくべき重要な問題なので,そのあたりの配慮は慎重に行う必要があります)。

 ただし,どうしても素直に聞いてくれない医師もいます。頻回にクレーム対象になる医師の場合...

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