医学界新聞

インタビュー

2007.01.29

 

【interview】

日本がん看護学会のNext Decade

小島操子氏(日本がん看護学会理事長/聖隷クリストファー大学教授)


 「がん対策基本法」の施行を控え,がん医療に対する国民の期待が高まるなか,チーム医療において看護師の果たす役割も大きくなってきた。昨年学会創立20周年を迎え,新たな展開を図る日本がん看護学会の理事長,小島操子氏に,専門・認定看護師育成の展望や,学会の20周年事業として取り組んだ『がん看護コアカリキュラム』(医学書院,07年2月発行)に込めた想いを聞いた。


がん対策とともに歩んだ20年

――今年4月に「がん対策基本法」が施行になります。がん看護学会理事長のお立場で感想をお聞かせください。

小島 がん看護学会は,「対がん10カ年総合戦略」(1984-93年)の3年目,1986年の立ち上げですから,がん対策とともに歩んできたような気がしています。「がん対策基本法」成立の背景には,質の高い標準的ながん医療・看護を受けたいという患者さんの意識が高まっていることがあります。また,医療界からはチーム医療のメンバーとして対等な立場で連携・協働するとともに,看護の独自性を発揮することが期待されています。

 がん看護学会では,こうした期待に応えるためにも,SIG(特別関心活動グループ,現在13グループが活動)を組織し,がん看護の特定分野のケアに携わる看護師が全国から集まって情報交換したり切磋琢磨することで,ケアの質向上に努めようとしています。

 それから,特にチーム医療を推進していくうえでがん看護のスペシャリストに対する要望が高いので,がん看護専門・認定看護師の育成に関わる活動に力を入れています。スペシャリスト養成は,他の医療従事者の要望に応えるばかりでなく,がん医療全体の向上,またがん患者・家族への貢献につながると同時に,看護師の生涯学習の意欲を高めるものと思います。

2度のアメリカ留学で知ったがん医療の変容

――小島先生が,がん看護を専門にされた契機は何だったのですか?

小島 古い,古い話ですが(笑)。まだ,がんが死亡原因の一位ではない頃に,幸いにもがん医療に非常に関心の高い外科に看護師として就職したのです。アメリカに留学した医師らが,「近い将来,日本でもがんが死因の一位になるだろう」と言って,アメリカの先駆的ながん医療の話をよくしていました。実は,私は若い頃アフリカに行きたかったのです,シュバイツアー博士に憧れて(笑)。でもその話を聞いて,アフリカがアメリカに変わりました(笑)。

 私がアメリカに留学したのは1960年代半ば。ちょうどアメリカで科学が“爆発”した時代と言われていました。ニューヨーク大学へ留学したのですが,実習でがん患者への徹底治療・徹底延命というがん医療の実情を見て驚き,勉強になると同時に「ここに看護があるのかしら」という疑問も感じました。それで次にアメリカでよい看護の経験をしたいということで,ミネソタ州のメイヨ・クリニックを紹介していただきました。そこでは本当によい看護の経験ができました。

――10年後の1974年に,2度目の留学をされていますね。

小島 日本とアメリカのがん医療・看護の落差のはげしさに驚き,もう一度がん医療その他を勉強し直して,10年後に再度アメリカに来ようと決心して日本に帰ってきました。

 私の中には10年前のアメリカのイメージがそのまま残っていたのですが,10年間のアメリカのがん医療の急速な変化にまたまた驚かされました。ニューヨークで前回実習に行った病院の1つ,徹底治療・徹底延命の病院は閉ざされていて,がん医療・看護はQuality of Life,Informed Consent,Crisis Intervention(危機介入)等の時代になっていました。そして,私はミネソタ大学大学院でCrisis Interventionを中心とした新しいがん看護を勉強して帰国することができました。

――アメリカで国家がん対策法が制定されたのが1971年ですから,飛躍的な進歩の時代を経験されたのですね。

悲願だった専門看護師・認定看護師制度

――昨年創立20周年を迎えたがん看護学会ですが,この10年間を振り返ってみますと,まず専門看護師・認定看護師の認定制度に関しての取り組みが挙げられますね。

小島 認定自体は日本看護協会ですが,がん看護学会としては分野特定の申請での関わりが大きいかと思います。私が1970年代にミネソタ大学へ留学した時は,CNS希望者には政府から奨学金が出ていました。ある日先生から「皆さんに奨学金が出たのでその話をするけれども,ミス・コジマは対象でないから出て行ってよろしい」と言われ,私ひとり外に出されて……。私はそこでさんざん泣きました。

――そこでつらい思いをされたから!

小島 そうなんです。奨学金は勉学と生活が保障されるような豊かなものでしたし,好きな勉強をしてCNSとして働けるわけです。私は返せるかどうか危ないくらいの莫大な借金を背負って留学していましたから,国の看護に対する意識の違い等に悲しいやら悔しいやら情けないやら……。

 でもその時にしっかり泣いたので,「日本へ帰ったら泣いてばかりもいられないぞ」と(笑)。専門看護師も認定看護師も,立ち上げ時の委員会には皆勤で通いました。いまは制度ができて奨学金も増えてきましたから,とても幸せです。

 がん関連の専門・認定看護師数
がん看護専門看護師
がん性疼痛認定看護師
ホスピスケア認定看護師
がん化学療法認定看護師
乳がん看護認定看護師
   79人
   222人

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