精神医学 Vol.68 No.8
2026年 08月号
特集 精神科診療にまつわる“ネガティブ事象”とその対策 身体合併症・有害事象・薬の副作用・治療の意図しない影響
| ISSN | 0488-1281 |
|---|---|
| 定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
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特集にあたって
中尾智博(九州大学大学院医学研究院精神病態医学/本誌編集委員)
私が精神科医になった約30年前は,非定型抗精神病薬やセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)がようやく市場に出始めた頃で,現場では定型抗精神病薬や三環系抗うつ薬が主流として使われている時代であった。特に慢性期の病棟で,長期入院の多くの患者さんが治療薬の福作用による流涎,口唇や舌の不随意運動を伴いながら,腕を振らずに小刻み歩行でとぼとぼと歩いていたのを憶えている。それから幾星霜の歳月が流れ,現在の精神科薬物療法は大幅な進歩を遂げている。病棟回診で毎週多くの患者さんと面談するが,上述のような顕著な錐体外路症状が出ている患者さんは少なく,表情も柔らかく,街中で会ったなら精神科の薬を飲んでいるかどうか一瞥しただけではわからないだろう。このような副作用の軽減は,長期にわたって薬物療法を受ける必要がある患者さんにとって非常に有益なことである。
一方で,薬物療法の大幅な進歩がありつつも,依然として精神科特有の有害事象や副作用の問題は存在する。錐体外路症状もいまだ目にするし,内分泌系の症状や性機能障害は新規の向精神薬でも一定頻度で認められる。クロザピンや炭酸リチウムといった,精神科薬物療法で必須の薬剤にも注意すべき副作用が存在する。また,向精神薬服用や生活習慣の影響による糖代謝異常や便秘症,あるいは治療の一環としての拘束や行動制限が誘因となりやすい深部静脈血栓症など精神科特有の身体合併症にも注意が必要である。これらの身体合併症は,有害事象や副作用として生じているものから生活習慣の影響が大きいものまで広がりがある。さらには,電気けいれん療法(ECT)や経頭蓋磁気刺激治療(TMS)といったニューロモデュレーションも有害事象への配慮が必要であり,心理療法やオンライン診療といった非薬物療法にも意図しない心理面への好ましくない影響が生じる可能性がある。
本特集ではこのような,精神科臨床においてわれわれが目を向けるべき有害事象や副作用,身体合併症などについて取り上げ,その対策についても述べていただく。本特集が精神科臨床に取り組まれている先生方にとって有益なものとなることを願っている。
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特集 精神科診療にまつわる“ネガティブ事象”とその対策──身体合併症・有害事象・薬の副作用・治療の意図しない影響
企画:中尾 智博
特集にあたって
中尾 智博
■総論
精神科臨床において目を向けるべき有害事象や副作用,身体合併症
廣岡 孝陽・他
■身体合併症とその対策
精神科診療で出合う便秘症とその対策
山田 浩樹・他
抗うつ薬・抗精神病薬による代謝異常と実臨床での対応
古谷 優佳・他
精神科臨床における静脈血栓塞栓症とその対策
高田 涼平・他
■有害事象・副作用とその対策
精神科診療で出合う悪性症候群とその対策
越智 紳一郎
精神科診療で遭遇する錐体外路症状の評価と対応
榊原 優大・他
精神科診療で出合う性機能障害とその対策
北田 晨人・他
■薬剤特有の有害事象とその対策
抗精神病薬の有害事象とその対策
荒井 勇輔・他
抗うつ薬の有害事象とそのマネジメント
北井 良和・他
気分安定薬の有害事象とその対策
富田 光一・他
ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存形成とその対策
高江洲 義和
■非薬物療法による有害事象や意図しない影響とその対策
ニューロモデュレーション療法の有害事象とその対策
熊谷 航一郎・他
精神療法・心理療法の負の効果を防ぐために
池田 暁史
オンライン診療,AI診療がもたらしうるリスクとその対応
熊嵜 博一




