精神医学 Vol.68 No.9
2026年 09月号

ISSN 0488-1281
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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特集にあたって
栗山健一(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部/本誌編集委員)

 精神科臨床において,患者の症状の改善と同時に,社会機能の回復・向上を果たすことは重要な治療目標である。一部の疾患においては,社会機能の障害そのものが中核症状を成す場合もある。この社会機能の回復・向上を達成するには,社会における「関係性(つながり)」に注目し,それを支える神経学的基盤の理解と新たな介入法の創出が必要とされている。
 英国の精神分析学者である Melanie Kleinは,愛着に基づく関係性の構築プロセスを精神機能の発達の中核と位置づけ,性格形成や精神疾患の理解を試みた。また,自己心理学の提唱者である Heinz Kohutは,共感は他者の感情や思考・体験を洞察するためのツールと考え,子どもや患者との治療関係においては,しばしば共感を通じて生じるつながりが自己愛の成熟や修復に役立つ可能性を指摘している。近年の神経科学の発展は,こうした愛着や共感の背景神経基盤を明らかにしつつあり,さまざまな精神疾患の社会機能障害にその不全が関与するという科学的証拠(エビデンス)が集積している。これらは,Kleinや Kohutが提起した精神疾患病態の発達・力動的理解を,現代の科学的視点から再検討する必要性を示すものと言えよう。
 社会機能は愛着や共感に関わる神経基盤に支えられているが,同時にその神経基盤自体も,社会的な対人関係のなかで発達・成熟していくと考えられる。したがって,個体の発達過程における養育・環境との相互作用のみならず,人類の進化過程における社会機能と神経基盤の共進化という視点からも,精神疾患の病態を検討することが求められる。
 関係性(つながり)の創出・維持を担う愛着や共感の神経機能単位は近年広く注目されており,research domain criteria(RDoC)における評価系の一つとしても認知されつつある。本特集は,関係性(つながり)に関わる神経基盤の理解をもとに,その機能不全がもたらす疾患病理と,現代社会が要求する社会機能との関連について,多角的視点から俯瞰することを目的とする。

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特集 関係性(つながり)の神経基盤と精神病理──社会性の醸成と愛着・共感
企画:栗山 健一

特集にあたって
栗山 健一

■Editorial
関係性(つながり)の構築・維持に果たす共感・愛着の役割
栗山 健一

■総論
社会脳仮説における愛着と共感の役割
押切 謙一・他

認知発達ロボティクスにおける人工共感
浅田 稔

愛着・共感の評価法と心理療法への活用
伊藤 正哉

■神経科学
人間のこころと身体・社会とのつながり──社会的痛み・共感・向社会行動への神経科学的アプローチ
定藤 規弘

愛着および社会性の神経科学
山末 英典

■親子・家族の関係とその破綻
養育者の共感性と応答性が子どもの愛着(アタッチメント)形成に及ぼす影響──マルトリートメント研究からの示唆
友田 明美・他

小児期逆境体験と親子の絆形成──マトレセンスにおける破綻と修復
山下 洋

死別における絆の神経生物学──愛着から共感性まで
吉池 卓也

ペットへの愛着とペットロスの病理
坂口 幸弘

■愛着・共感能の機能不全
自閉スペクトラム症における共感と愛着
酒匂 雄貴・他

サイコパシーにおける共感・愛着の病理
阿部 修士

■社会とのつながり
死生観と愛着形成
石丸 昌彦

高度情報化社会におけるメンタルヘルスとつながりの病理
張 賢徳・他

■資料
全国の保健行政機関における集団精神療法の実施状況に関する調査
田村 法子・他

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