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精神科身体合併症マニュアル 第2版

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精神科身体合併症に対応する実践的マニュアル、待望の改訂版! 総論、各科合併症、精神科と関連が深い身体合併症/身体疾患に起因する精神症状、付録という初版の4部構成は踏襲しつつ、プライマリケアとして頻度の高いものや心身症に関するものなど、新たな要素も豊富に加わりパワーアップ。超高齢化社会で働く精神医療関係者必携の1冊!
監修 野村 総一郎
編集 本田 明
発行 2018年06月判型:B6変頁:448
ISBN 978-4-260-03545-3
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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第2版 序

 精神科身体合併症マニュアルは2008年に初版を上梓して以来,多くの精神科医をはじめとする医療従事者に手に取っていただいた.出版のきっかけは編者が国家公務員共済組合連合会立川病院(以下立川病院)精神神経科を退職する際,同僚精神科医向けに身体治療の病棟マニュアルを残そうと作成したことである.あれから10年が経過し初版を読んでみると,物足りないと感じる分野や現在のニーズに合っていない項目があることなどが気になり始めていた.幸い医学書院の担当者から声をかけていただき今回第2版を出版することができた.
 本書は多くの部分を立川病院の現・元スタッフが執筆している.監修者の野村が勤務していた時代に,立川病院精神神経科は本邦の総合病院精神科の中でも特異的な身体合併症治療システムを構築しており,そのような意味では立川病院は本邦における精神科身体合併症医療の野心的なモデル病院といっても過言ではない.よって本書には立川病院精神神経科の歴史を背景にしたノウハウが数多く詰め込まれている.また精神科患者の外傷分野に関しては救急領域の方が経験豊富なため,今回も救急のエキスパートである東京慈恵会医科大学の大槻が担当した.
 本書でカバーできていない分野は著者の経験や知識の不足,専門家の不在などによるもので今後の課題でもある.さらに記載されている各分野も必ずしも臓器別診療科としての専門家が執筆しているわけではなく,あくまでも精神科身体合併症医療の中で必要な最低限の知識と初期検査や初期治療の情報提供が柱となっている.
 第2版では総論部分を近年の精神科身体合併症医療の動向に合わせて大幅に改訂した.各論では精神科身体合併症の急性疾患に加え慢性疾患に関する内容も充実させた.精神疾患患者はそうでないものと比較して死亡リスクは高く,その多くに心血管イベントがかかわっている.自身の健康に無関心な精神疾患患者の生活習慣改善も,精神科医療に携わる者としては重要な課題である.
 改めてここ10年ほどを振り返ってみると,精神科身体合併症医療はさまざまな問題をはらみながらもその必要性は年々増すばかりである.精神疾患患者の高齢化の問題,慢性期患者の社会復帰の問題,臨床研修制度による精神科医の身体疾患診断能力の向上,良い意味で患者や家族の権利意識の向上など,これらはどれも精神科身体合併症医療のニーズにつながっている.ただ精神科身体合併症医療のニーズは精神科に対してというより,むしろ身体各科やその医療機関に対して大きいものがあるが,いまだ精神疾患患者は受けないと断る病院も少なくない.総論で桑原が述べているように,東京都で急性腹症の統合失調症患者が複数の医療機関に受け入れを断られた後死亡した事例は,いまだに精神科身体合併症医療の行政システム,個々の病院システムが不完全であることを如実に物語っている.いずれにしろわれわれは単科精神科病院であれ,総合病院であれ,クリニックであれ,精神科医療に従事している以上,精神科身体合併症とのかかわりから逃れることはできない.精神科医は精神科身体合併症が発生した際は患者を身体各科につなぐコーディネーターとしての役割も要求されることになる.
 筆者らは精神疾患患者が精神疾患をもたない者と同等の身体医療機関へのアクセスと,同水準の身体医療が享受できることを切に願っている.読者がわれわれの思いに少しでも共感していただけたら本書を出版した意義は十分にあり大変ありがたいことである.

 2018年5月
 本田 明

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I 精神科身体合併症の治療・管理総論
 1 精神科身体合併症総論
   1 身体合併症問題とは?
   2 精神科身体合併症医療の特殊性
   3 精神障害者身体合併症救急という問題
   4 精神科身体合併症医療と医療保険制度
   5 精神障害者身体合併症医療の法的,倫理的問題
 2 精神科身体合併症の入退院
  A 治療依頼医療機関からの情報収集
   1 精神科診断,身体科診断の確認
   2 精神症状の重症度の確認
   3 身体症状重症度・緊急度の確認
   4 入院時付添い人の確認
  B 精神科身体合併症患者の病院間搬送
   1 病院間搬送の実際
   2 医師の同乗
   3 医師同乗の際必要な薬剤・器具
   4 その他注意事項
 3 精神科診察・身体診察
   1 精神症状診察の実際
   2 身体診察の実際
 4 精神科身体合併症の鎮静法(急性の鎮静)
   1 意識レベル低下を目的としない鎮静
   2 意識レベルがやや低下する鎮静
   3 入眠を目的とする鎮静
 5 精神科身体合併症における手術前後の管理
   1 手術前
   2 手術直前
   3 手術後
 6 経口投与不能時の向精神薬治療
   1 経口投与ができない状況
   2 投与経路の選択
   3 向精神薬を完全に中断する場合
 7 臓器障害時の向精神薬治療
   1 肝障害時の向精神薬治療
   2 腎障害時の向精神薬治療
   3 心疾患時の向精神薬治療
   4 呼吸器疾患時の向精神薬治療
   5 消化器疾患時の向精神薬治療
   6 代謝疾患時の向精神薬治療
 8 精神科身体合併症の各種検査依頼
   1 鎮静を必要とする場合
   2 上部消化管造影(胃透視)
   3 下部消化管造影(注腸造影)
   4 上部消化管内視鏡(胃カメラ)
   5 下部消化管内視鏡(大腸カメラ)
   6 CT
   7 MRI
   8 超音波
 9 精神科身体合併症管理で行われることのある基本手技・治療
   1 末梢静脈確保
   2 中心静脈確保
   3 経鼻・経口胃管挿入
   4 導尿法
   5 腰椎穿刺
   6 酸素療法
   7 気管挿管・人工呼吸器管理
   8 輸液・栄養法

II 各科合併症の治療・管理
 1 全身疾患合併症
   1 心停止
   2 ショック
   3 発熱
   4 電解質異常
   5 貧血
   6 DIC(播種性血管内凝固症候群)
 2 消化器疾患合併症
   1 吐血・下血
   2 便秘
   3 腸閉塞(イレウス)
   4 機能性ディスペプシア
   5 過敏性腸症候群
   6 胃・十二指腸潰瘍
   7 消化管異物
   8 感染性急性(胃)腸炎
   9 薬剤性肝障害
   10 アルコール性肝障害
   11 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
   12 急性膵炎
 3 呼吸器疾患合併症
   1 市中肺炎
   2 院内肺炎,医療・介護関連肺炎
   3 気管支喘息
   4 肺結核
   5 気道異物
 4 循環器疾患合併症
   1 不整脈
   2 高血圧
   3 急性肺塞栓症
   4 深部静脈血栓症
 5 脳神経疾患合併症
   1 意識障害
   2 脳梗塞
   3 けいれん発作
   4 めまい
   5 頭痛
 6 内分泌・代謝疾患合併症
   1 甲状腺機能亢進症
   2 甲状腺機能低下症(原発性)
   3 糖尿病(高血糖)
   4 低血糖
   5 脂質異常症
   6 高尿酸血症
 7 腎・泌尿器疾患合併症
   1 尿閉
   2 血尿
   3 急性腎不全(急性腎障害)
   4 慢性腎臓病
   5 尿路感染症(急性膀胱炎,急性腎盂腎炎,急性前立腺炎,急性精巣上体炎)
   6 梅毒
   7 尿路結石
 8 外傷・整形外科疾患合併症
   1 外傷初期診療
   2 骨折
   3 骨粗鬆症
 9 産婦人科疾患合併症
   1 精神疾患合併妊娠
   2 妊娠中の精神疾患に対する薬物療法
 10 皮膚・形成外科疾患合併症
   1 薬疹
   2 単純疱疹・帯状疱疹
   3 疥癬
   4 足白癬
   5 蜂窩織炎
   6 褥瘡
   7 熱傷
 11 緩和ケア

III 精神科と関連の深い身体合併症,身体疾患に起因する精神症状
 1 向精神薬による副作用
  A 悪性症候群
   1 疫学
   2 臨床症状
   3 検査所見
   4 診断
   5 原因薬剤
   6 発症危険因子
   7 治療
   8 予後
   9 服薬再開時の注意点
  B 横紋筋融解症
   1 概念
   2 原因薬剤
   3 臨床症状および検査所見
   4 診断
   5 治療
   6 回復後の薬物再開
  C セロトニン症候群
   1 概念
   2 原因
   3 臨床症状
   4 診断
   5 検査
   6 治療
   7 その他
  D 遅発性ジスキネジア
   1 臨床所見
   2 診断と鑑別
   3 危険因子
   4 病態生理・原因薬剤
   5 治療
   6 予後
  E 無顆粒球症(neutropenia)
   1 概念・疫学
   2 向精神薬による好中球減少症
   3 機序と危険因子
   4 臨床症状
   5 検査
   6 対応と治療
   7 向精神薬の再開・変更
  F 高プロラクチン血症
   1 症状
   2 検査
   3 治療中の精神身体管理
  G SIADH(バソプレシン分泌過剰症)
   1 症状
   2 検査
   3 治療中の精神身体管理
  H 腎性尿崩症
   1 症状
   2 検査
   3 治療中の精神身体管理
 2 急性中毒
   1 急性中毒の概要
   2 中毒物質別治療各論(精神科領域で頻度の高い中毒物質)
 3 水中毒
   1 症状
   2 初期検査/治療
   3 治療中の精神身体管理
 4 症状精神病・器質性精神病
  A 総論:身体疾患に起因する精神障害
   1 症状精神病・器質性精神病
   2 原因疾患
   3 身体疾患に起因する精神障害の臨床経過
   4 身体疾患に起因する精神障害の診断
   5 身体疾患に起因する精神障害の治療
  B 各論:身体疾患に起因する精神障害
   1 脳器質性疾患
   2 代謝性疾患
   3 内分泌疾患
   4 膠原病および類縁疾患
   5 心血管呼吸器疾患
   6 薬剤性精神障害
 5 アルコール離脱症状,Wernicke脳症
   1 アルコール離脱症状
   2 Wernicke脳症
 6 神経性無食欲症の入院精神身体管理
   1 精神・身体症状,検査所見
   2 入院加療
   3 入院時の目標体重
   4 食事,入院生活の管理
   5 治療
 7 リフィーディング症候群
   1 概念
   2 病態生理
   3 リフィーディング症候群のハイリスク患者
   4 臨床症状
   5 検査所見
   6 治療・予防

索引

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精神科医にとって大きな助けになる一冊
書評者: 松崎 朝樹 (筑波大病院講師・精神神経科)
 学会会場の書店でこの本を立ち読みし,さあ買おうとレジに向かおうとしたそのとき,ちょうど私を見かけた医学書院の編集者に「その本の書評を書きませんか?」と声をかけられて,この本を手にしている。しばらく診療の中で,患者の身体合併症に向き合うごとにこの本を開きながら過ごしてみたが,結論から申し上げれば,この本は私自身が必要と思える一冊であり,多くの精神科医に救いとなり得る有用な一冊である。

 精神科の病院や診療所に勤務する中,併存する身体的な問題への対応も求められ自信を持てずにいたり,新しく生じた身体的な問題への対応に当惑したり,そんな身体的な問題に対して苦手意識を抱く精神科医は多いのではないだろうか……少なくとも私自身はそんな精神科医である。そして,総合病院に勤める者であれば,精神障害者の抱える身体的な問題に接することはより多く,さまざまな状態への対応が求められるだろう。精神科医も「医師」であり基本的な身体的問題には対処できるべきだという正論については,反論するつもりはないが耳が痛いというのが本音である。しかし,これまでずっと精神科の本ばかりを読んできた私には内科や救急などの専門書は手に取るにはハードルが高く,手にしても身体に関して基本が身についてない私には理解が困難なことも少なくない。しかし,この本であればすべきことがよくわかる。なぜなら,この本が誕生したのも,立川病院の精神科病棟の業務で使用されるために作られたマニュアルが基になっているからだ。臨床の場での実践のための本なのだ。

 その内容は,甲状腺機能異常や鉄欠乏性貧血などの精神症状をもたらし得る身体的異常から,肺炎や尿路感染症などの精神科での治療中に偶発し得るもの,悪性症候群や水中毒などの精神科での治療により引き起こされ得るもの,異物の誤飲や骨折などの精神症状により引き起こされ得るものまで多岐にわたっている。さまざまな問題が網羅的に扱われており持っているだけでも心強く,検査や薬剤の具体的な内容まで解説されておりすぐに役立つ実践的な本ともいえる。

 この本は精神科医の他にも,内科や外科などの身体的な科の医師の中でも精神科病院に勤める者や精神障害をよく扱う総合病院に勤務する者にも活用され得る。精神障害者によく起こり得る問題や精神障害を合併する身体疾患に対して必要な配慮についても具体的に解説されている。総合病院での精神科コンサルテーション・リエゾンについても,対応に当たってのポイントが具体的かつ詳細にまとめられており,精神科医に相談する側にとっても相談を受ける側の精神科医にとっても非常に参考になるはずだ。

 精神障害者だからといって身体的な治療がおろそかにされてよいはずはない。医局や診察室の書棚に一冊この本があることで,精神科医にとって大きな助けになることを,そして,それを通して患者にとっても救いになるだろうことを期待したい。

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